わたし達、ビジネスカップルです!
宮内ぱむ
01 不審なDMが届きました
第1話
手で触れられるものが好きだ。
ヒナ、と今だけのわたしの名前を呼ばれて、ぎゅっと抱きしめられる。狭い六畳の部屋。窓から差し込む夕方の西陽が、程よく日に焼けたユウタの肩を照らしている。
かっこいいな。胸に落ちた言葉は本物だ。それを証明したくて、裸の背中に両腕をまわす。
温度を感じられるものは、もっと好きだ。
「ヒナ」
ユウタの瞳が物言いたげに見えるのは、マスクによって口元が覆われているせいかもしれない。
身をよじると洗い立てのシーツに皺ができた。ゆっくりと体重をかけられて、押し倒される。マットのクッションの感触が身体にフィットする。
「ヒナ、かわいい」
ユウタの言葉が何も身に付けていない肩元を滑っていって。
わたしの心のなか、綿菓子みたいにふわふわになる。シナリオ通りのセリフだと分かっているのに。
ユウ、と今だけ呼べる名前が、マスクの中で充満する。
額をくっつけると、ユウタの黒髪がさらさらと落ちてきた。焦点すら合わない距離で見つめ合う。マスクを外したキスはしない。頬を寄せて、息を吐く。肌全体に熱が浸透する瞬間こそ、多幸感に満ちている。
そうやって繋がるわたし達を、一台のカメラがとらえている。
わたし達が偽りのカップルである事は、カメラには秘密だ。
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