秘密をあげない
宮内ぱむ
第1話
玄関のドアを開けると、学校指定の鞄を片手で持った
おはよう、と言い合い、健吾の隣を歩く。夏の始まりを感じさせる湿った風が、プリーツスカートの裾を揺らして膝裏に触れる。
「そういえば、中間テストの結果、どうだった?」
「別に、問題ない」
言葉がぶっきらぼうなのは健吾の昔からの癖で、いまさら驚く事もない。通常通りの平日の朝。
初夏を思わせる六月の朝は、缶に入ったドロップスのように様々な色で溢れている。一日が始まる鬱陶しさと、その中に隠れている宝箱を探すような高揚感。
家が隣同士である私と健吾が通う高校は徒歩圏内にあり、十分も歩けば周囲には同じ制服を着た学生達の姿が見えてくる。正門の前には風紀委員がオハヨウゴザイマスと機械的に声をあげていて、私達はそれに
あ、と思わず小さく声をあげたのは、私だった。
目線の先には、白色と紺色で組み合わされた学生達に混じるように歩く、薄いピンク色のカーディガンを着た小柄の後ろ姿。
「
しっかりとした発音で彼女を呼んだ途端、健吾をまとう空気ががらりと変わった。
「おはようございます」
「おはよう」
健吾の硬い声を溶かすように、安本先生の柔らかな声が空気中に舞った。カーディガンの色の下にあるフレアな白いスカートが、ふわりと揺れる。さらさらと風になびくウェーブがかった長い髪は、私の持たないものだった。
正門から校舎までの道のりには、多くの草木が植えられている。肌に馴染むような湿度の風が吹き抜けるたびに、優しい緑色がさわさわと音を立てているようだ。そのまま安本先生が職員用の玄関に向かっていくのを横目に、私と健吾は昇降口に繋がる玄関へと入った。
足を踏み入れた校舎内では、生徒達の声が反響して様々な音が溢れていた。何の腐れ縁か同じクラスでもある健吾と並んで、靴箱から上履きを取り出し床に落とした。派手な音が鳴ったのも束の間、次々にやって来る生徒達の気配にかき消される。
上履きを履いて私の先を行く健吾の後ろ姿を、眺めながら歩く。教室までの廊下。反響して鳴り続ける生徒達に混じる、たった一つの道筋。私は健吾にかける言葉を迷っている。
健吾は一年以上、養護教諭の安本先生に恋をしている。
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