第2話

たとえば今日の掃除時間。

 教室でホウキを持っていたのはわたしだけだった。

 同じ掃除当番の女の子達は窓際に立って、掃除もせずに歓声を上げていた。声の矛先は別の場所の掃除当番である河口かわぐち君達だ。

 河口君はいつもルールの狭間をすり抜けたヒーローになる。ある日は鬼ごっこ、ある日はエアロックバンドの披露、そして今日はサッカーだった。


「河口君、ナイスシュート!」


 女の子達の声が、教室の空気を震わせる。ピンク色のリボンが似合っていて、制服の着崩し方がお洒落で、西陽を受けた黒髪がさらさらと揺れている。わたしとは違う女の子達。

 塵屑ちりくずひとつ残さないようにゴミを集めて、数ミリのズレさえ許さないほど机を整えているわたしよりも、規律とは逆側の場所で活躍を見せる河口君が支持されているという現実。

 学校内は正しさだけでは成り立たない。

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