ぼくが神様になった理由《わけ》

@hajimari

第1話

「お願い...... 私を一人にしないで」 


 そう暗闇から声が聞こえる。


(誰かが泣いている。 この声、女の子か...... まさか美結)

 

「助けて...... お願い」


 闇の中、顔が見えない少女の姿を見つけ、その伸ばされた手をつかもうとした瞬間目が覚めた。


「あっ...... またあの夢か。 よくみるな」


 ぼくは砺波 となみ りょう、今日も特にかわりない日々が始まる。 


「朝は、いいか......」


 独り暮らしのぼくは朝食をとらずに着替えて学校へ向かう。


 高校の目の前に制服姿の少女がこちらをみていた。


(うちの高校か...... 同い年ぐらいなのにみたことがない。 先輩か、いや後輩かな? なぜ止まってこっちをみてるんだ? 後ろには誰もいないのに)


 そう思いながらその横をとおりすぎようとする。


「......まて」


 その少女に呼び止められる。


「えっ?」


「説明している時間はないから端的にいう。 お前は命を狙われている」


「はぁ?」


 意味がわからず、そう変な声がでた。


「命を狙われているそういった。 理由はお前が神様だからだ」


(や、やばい、この子、電波はいってる)


「そ、そうぼくは神様なんだ。 でも学校があるから、じゃ」


 ぼくは足早に通りすぎ校門にはいった。


(なんだあのこ...... やばすぎるだろ。 かわいかったけど)



「お前が神様!?」


 そう相模と米原は声を出す。 教室にはいったぼくはあったことを二人に話していた。


「意味がわからないだろ? 突然そういわれたんだ」


「なんかのカルト宗教の勧誘か? それとも詐偽か? 不思議ちゃんか」 


「詐欺なら高校生をターゲットにはしないだろ。 独り暮らしとはいえ金もないし、どうせからかわれたんだろ」


「それでその子は?」


 そう話に加わってきたのは幼馴染みの美結みゆだった。


「わからない。 怖すぎて逃げてきた」


「ふふっ、りょうくんらしいね」


 そう屈託のなく微笑んだ。


(今日もかわいいな)


「それでその子はかわいかったか?」


「ん? ああ、顔はかわいかったな」


 その時、教室に先生がはいってくる。 


「あっ!」


 その後ろから朝あったあのこがいた。


(な、な、なんであのこが!)


「みんな席に着け。 転校生を紹介する」


「転校生! この時期に!?」


「でもあのこかわいいな」


「バカ男子!」


「みんな静かに、彼女は見上 紗良みかみ さらさんだ。 みんな仲良くするように、席は......」


 そのまま見上さんは自己紹介するわけでもなく、ぼくの前に歩みよると、となりの席の相模をみた。


「この席、かわってくれないか?」


「えっ??」


 意味がわからない相模は先生をみる。 先生はうなづいた。


「相模はこっちに座れ」


「は、はい」


 相模が席を立つと見上さんはそこに座った。


(ま、まずい、なんでここまで! いや転校してくるんだ! たまたまか! それにしても......)


 彼女は表情を変えずに周囲を見ている。


「......昼休み、屋上にこい」


「いや、屋上は閉鎖されてるんだけど......」


 なんとか避ける方法を考えた。


「あの......」


「こい」


 有無をいわさず、それだけいうと見上さんはだまり、周囲をつぶさに観察するかのように見ている。


(な、なんなんだこの子! ぼくはなにもしてないぞ!)



 昼休み、購買へと向かうふりをして、ぼくは屋上に向かわず逃げた。


「あの子ヤバ過ぎる! 次あったら腹痛だったとかわそう。 ぼくのことをしってるってことは、もしかしたら三年とかのヤンキーの知り合いかも......」


 そう考え早退することにした。


「おい、砺波」


 歩いてきた担任に呼び止められる。


「は、はい。 今から早退......」


「すまんが急ぎの用事かある。 お前屋上の用具いれにこのコーンもっていってくれ。 これ鍵」


「えっ!? いや、ぼくは」 


「頼むぞ」


 否応なく赤いコーンと鍵を渡された。

 

「ど、どうしよう。 でも屋上には鍵がかかってる。 おそらくいないはず......」


 慎重に屋上に向かう。 


「よかった! 誰もいない。 あれ? 鍵が......」


 屋上のドアを施錠している鍵があいていた。 ゆっくり開けると誰もいない。


「ふぅ...... 助かった」


「遅いぞ」


 壁に見上さんが腕を組んでまっていた


(いたのか!)


「あ、あの先生から用事を頼まれてて、ちょっと話は......」


「そんな悠長なことをいってはいられない。 危機がせまっている。 死にたくなければ話を聞け」


「いや、だから、狙われる意味なんて......」

  

 そういいかけると、彼女は走りだすと、タックルされ建物内にはいった。 


「いたっ! なにを......」


 そう言おうとした瞬間、光が目の前をとおり、大きな衝撃が体に伝わった。


「うわっ!?」


「動くな! 隠れてろ!」


 見上さんがぼくの前にたつと、ドアのむこうに黒服の男がたっていて掌をこちらに向けるのが見えた。


(なんだあれ!?)


 男からヒュンヒュンと掌から光が放たれると、落とした赤いコーンがその光にあたり蒸発する。 見上さんが両腕をだすと光の壁ができ飛んできていた光を弾いた。


(光!? 壁......)


 そのまま見上さんは壁を崩すと、屋上にでて左右を見ている。


「くっ、逃げたか......」


「な、な、なんなんだ......」


 混乱するぼくになにもいわず、見上さんはぼくの後を指指した。


「えっ!?」


 振り替えるとぼくの後ろの壁に大きな深い丸い穴があった。 その穴からは煙がてている


「こ、これ!? さっきのあの光!」


「当たれば、体に穴があく」


「ほ、本当に狙われてたのか!?」 


「そういっただろう。 ここにいることがもうばれてるな......」


 下では生徒たちが音を聞きつけ騒いでいる。


「ここは危険だ。 巻き添えもでる。 離れるぞ」 


「わ、わかった」


 とりあえず冷静さを装い見上さんについていくしかなかった。 騒ぐ生徒たちの間を抜けると校舎をでた。


「どこか近くに人通りのないところはないか」


「向こうに廃棄された工業開発区があるけど......」


「都合がいいな...... そこにいこう」


 ぼくたちはそこに向かってはしる。



「お前、こんな緊急時に買い物なんて......」


 あきれたように見上さんはいった。 途中商店街を抜けるとき買い物をしたからだ。


「いや、しょうがないじゃないか。 朝も昼も食べてないんだから」


「それはこちらで...... まあいい、もう勝手なことはするなよ」


 破棄された工場跡につくとなかにはいる。 そこはボロボロで機材もなく、壁には穴があり、スプレーの落書きが至るところに書かれている。


「それでぼくを狙ってるのは誰なんだよ。 なんで狙われてるんだ......まさか本当に神様とか言わないだろ」


「いや、砺波 亮、お前は私たちの神様なんだそうだ」


「どういうこと? 私たちの神様って......」


「私はこの星の人間じゃない。 ここからとおく離れた星の人間だ」


 スマホを操作しながら淡々とそういった。


「宇宙人......」


「ああ、この星の文明よりはるかに進んでいる星だ」


「そんな進んだ文明が神様だなんて......」


「進んだからだ。 高度な人工知能が全てを答えてくれる。 そして自分達を作った神の存在を示唆した」


「それがぼくだって! いやあり得ない! 15才だぞ! どうやって神様になるんだよ!!」


「わからないが、我々にはそれを可能とする力があるにはある」


「力......」


 そういうと手のひらの上に光の球体をうかせる。


「光の玉がういてる」


「我々は願ったことを叶える力がある。 思念の具現化だ。 襲ってきたものも使っていただろう」


「あの光か。 思念の具現化......」


「我々は遥かな時間をかけて、強力な思念は具現化することを突き止めた。 それはこの星の人類とておなじだろう」


「......その説明でも全然理解できないけど。まあとりあえずぼくが神様だとして、なんで神様が命を狙われるんだ?」


「私同様、信じてないものがいる。 宗教家たちだ。 特に我らの星で強大な権力を有する宗教は、神が実在する人間など到底受け入れられんのだそうだ」


 そうこちらをみて見上さんは言った。


「それでぼくを狙ってるのか...... まあそっちは理解できる。 理解したくはないけど...... それで見上さんはなんでぼくを守るんだ?」


「私はエージェントだ。 政府のお偉いさんが、お前が死んで不測の事態が起こることを懸念して私を派遣した」


「なるほど、神様が死ねばなにが起こるかわからないか...... それなのにたった一人送られたってこと?」


「ああ、ここは遠すぎるからな。 大勢転送するにはエネルギーが足りん。 せいぜい数か月に一人転送するのがやっとだ。 だから軍がやってくるまでの間、私がお前を守らねばならない」


「なるほど...... 全然ピンとは来てないけど、狙われたのは本当だし、信じるしかないな」 


「そうだ。 このままお前をそばで監視する」


「えっ? いつまで」


「軍の人間が揃うまでだ。 そのあと交代する」


「ここで隠れるってこと!? なんにもないよ!」


「みていろ」


 見上さんがスマホをかざすと、光が辺りを照らす。


「これで遮蔽できた。 あとは......」


 なにもないところに突然、半球の白い建造物が現れた。


「なんかでた!?」


「テントをこの座標に転送した。 なかにはいれ」


 なかにはいると、そこそこの広さでベッドとソファーがある。


「以外に広い」


「食料なども転送でここにおくれる。 生物以外なら時間をかけずにおくれるからな。 武器は爆発するかもしれないから、時間をかけないと無理だ。 だから私がおくられた」


(あの思念の力とかいうやつをもってるからか)


「ここで当分暮らす。 狭いがなれろ」


「えっ!? 二人で」


「当たり前だろう。 そのために人が来ない場所を選んだんだぞ」


「そ、そうだけど......」


「シャワーならあそこだ。 心配するな」


「そんなことじゃなくて......」


 言葉につまり、少し沈黙し間があいた。


(女の子と二人っきりとか...... この感じだと、彼女は多分そんなことは考えてないんだろうな。 ただ何も話さないと気まずくなる、なにか)


「......そういや見上さんはぼくを神だと信じてないといってたけど」


 取り繕うようにきいてみた。


「ああ、私は任務として受けただけだ。 本当の神などいるものか。 いたら戦争や貧困など起こってはいない」


「......だね。 ぼく自信も信じられてないから」


「ただ任務は任務、私情は挟まない」


 真剣な顔でそういう。


「そっちの星はその年でそんな危険な仕事を?」


「私は特別だ。 私の国は生まれたときから戦争をしていたからな。 その思念の能力も強く、両親のいない私は幼くして兵士として戦場にでてた。 戦争が終わったあと、その力を見込まれてエージェントにスカウトされたんだ」


 そう表情を変えることもなく淡々と答えた。


「そんな力があるなら、他の仕事に就けばよかったんじゃないの」


「思念の力は不用意には使えん。 さまざまな制約がある。 普段は制御する機械を身に付けないといけない」


「そうか。 願いが叶う力なんかあれば、悪用するものがでるな......」


「ああ、それがそもそもの戦争の引き金だ...... 私にはこの力をつかうしか生きていく方法がないからこの仕事をしている」


 一瞬、表情が曇ったように見えたが、すぐに元の冷静な顔に戻った。


(生きていく方法も意味もそれしかないのか...... 子ども一人だと生きていくのは難しいもんな)


「それで神様なら、ぼくにもその力が使えるってこと?」


「多分な...... 神様ではなくても私たちとこの星の人類にさほどのちがいはない。 意識して願いをこめればつかえるはず」


(さっきみたみたいに......)


 手のひらに力をこめたがなにも起きない。


「ぷはっ、なにもおきない......」


「思念を極限まで集中しないとだせない。 訓練が必要だ。 それよりレーションを食べておけ、いざというとき動けないと困るぞ」


 そういって丸い缶のようなものをさしだした。


「レーション?」


「軍用の携帯食だ。 栄養だけはとれる、うまくはないがな」


「うまくはないの...... じゃあこれ食べよう!」


 ぼくは来るときかったコロッケを袋からだした。


「それはさっき買っていた」


「まだあったかい。 何もつけなくてもここのコロッケはおいしいんだ」


「............」


 見上さんは怪訝そうにそれを手に取ると両手でつかみ、一口食べた。 


「これは!!」


 見上さんは目を大きく見開く。


「石原精肉店のコロッケ、ここのコロッケは最高なんだ。 いつも学校がえり買って帰るんだ」 


「ふむ、うまいな...... それに暖かい」


「ああ、ぼくも人と食べるのは昼だけだから、誰かと食べると確かにうまいな」


「誰かと......」


 そういうと、見上さんは不思議そうにこちらをみて、そのコロッケを食べていく。


「またあとで外に索敵にでるがてら、入手を考えよう」


 そう勝手に納得するとコロッケを食べきった。


(怖いのかと思ったけど、意外にとっつきやすいかもしれないな)



 その時テントにけたたましく音がなる。


「なに!?」


「おちつけ警戒音だ。 外に誰かがいる。 遮蔽しているから、この場所をみることはできん」


 見上さんがスマホを向けるとテントの内壁に映像が写る。


「あれは...... 相模と米原、美結も」


 三人が廃墟をのぞいている。


「本当にここらへんにいるのか、りょうは......」


「ええ、学校であの騒ぎがあったとき、りょうくんと転校してきた見上さんが外に走っていったのをみたの」


「石原のおばちゃんもこっちに走っていったっていってたな。 でもこんな廃墟でなにをしてんだ?」


 三人が話しながら歩いている。


「どうやら探しに来たな。 スマホは家だし、連絡できなかったから、とりあえず無事だと伝えよう」


「......だめだ。 お前のことをしられると彼らも巻き込まれるぞ」


「でも、このままだと警察にいって問題が大きくなる」


「......それより、お前の安全が先だ。 連絡なら私が後でコロッケを買いにいったとき、店のものに伝える」


(そんなにコロッケ気に入ったのか)


「おい! あれ!」


 三人の後ろを屈強な黒服の男が現れた。 その男は相模と米原をなぐりたおし、美結を捕まえた。


「は、はなして!!」


「......でてこい。 ここにいるのはわかっている。 でなければ三人とも殺す」


 ドスのきいた低い声で男は周囲に聞こえるようにいいはなった。


「あいつ!!」


「やめろ! でてどうする!」


 外にでようとするぼくの腕を見上さんはつかんだ。


「ぼくのせいで捕まった! このままだと三人とも殺される!」


「それでもお前の安全が私の任務だ!」


「任務...... それなら、ぼくをつき出せばいい」


「なんだと......」


「見上さんが生活のために生きているなら、ぼくをつき出せばやつらからお金をえられるだろ?」


「確実に死ぬぞ ......自己犠牲のつもりか」


「そんな気はないよ...... ただ元々ぼくは家族もいない、自分だけ生き残っても、その事を背負いながら生きていくのはきっと無理なんだ...... 君ならわかるはず」


 そういうと、こちらを見すえ見上さんは少し沈黙した。


「......いいんだな」 


「ああ」


 

「ずいぶんあっさりでてきたな」


 ぼくは外にゆっくりでて、男の前にたった。


「その子はもういいだろ。 それに彼女に金を払ってもらう。 そうすればおとなしく従う」


 黒服は横目でぼくの後ろにいる見上さんをみた。


「......いいだろう」


 男は美結を突飛ばした。


「うっ!」


 ぼくは男の方に進み出た。

 

(これでいい。 いつか誰かのためになりたかった...... そういえばなんでこんなことを思うんだろう?)


 そう思っていると男はその手のひらに光を集めた。


 ドンッ! 


「えっ......」

 

 その瞬間、ぼくは押され見上さんが割ってはいる。


「貴様!!」


 両者が撃ち合い、男の体に穴が空き倒れた。


「ぐっ!」


 見上さんの体がぐらつくとゆっくりひざから崩れ落ちた。 


「見上さん!!」


「うっ......」


 その腹部から大量の血が流れている。


(だめだ! 血が止まらない)


「ど、どうしたのいまのはなに!? 見上さん、どうしたの!」


 美結が混乱している。


 止血しようにも血がとまらない。


「......もう、いい...... 刺客がくるかも、しれない...... 早く逃げろ......」


「なんで!! なんでかばった......」


「自分でもわからない...... ただ、誰かともう一度...... 食事でもしたかったのかも...... しれない...... な......」


 そういうと見上さんはぐったりとした。


「見上さん!! 救急車なんて、とても間に合わない!」


 そのとき、ふと思いつく。


(そうだ...... 思念の力、願いを叶える力だ!)


 集中して念じる。


(傷よ! 治れ...... 治れ...... 治れ! 治れ!! 治れ!!!)


 するとぼくの手のひらが輝き、その光は見上さんの体を包んだ。


「これは......」


 そしてみるみると見上さんのほほが赤みをさしてくる。 破れた服の間から傷がなくなっていくのがみえた。


「傷が...... 治っていく。 よし、あとは救急車! 美結連絡を!」


「......本当にりょうくんは神様なのね」


 そう後ろから声がした。


 振りかえると美結がこちらを薄く笑いながらみている。


「えっ...... 美結」


「ごめんね」


 そう美結がいった言葉を最後にぼくは意識をなくした。



「うっ......」


 目が覚めると、真っ白な殺風景な部屋にいた。 どうやら椅子に拘束されているようだった。


「......目が覚めた」


 後ろにいた美結がそういった。


「いったい......」


「どうして? といいたいわよね。 わかるわ。 幼馴染みが急に襲いかかればそう思うのも当然ね。 でももうわかるでしょう」


「まさか、美結も見上さんと同じ......」


「そうエージェント、私の力で君の記憶を改竄させてもらったの」


「そうか幼馴染みじゃないのか。 それで見上さんは」


「彼女はあのままおいてきたわ。 死んではいないはず。 さすがにあの子を殺すとあなたの怒りでなにが起きるかわからないものね」


「そうか...... 無事か」 


「それにしても本当に神様はいるのね。 そうだ。 私の願いを叶えてもらえない?」


 そううすらわらった。


「......そんなことができたら、ここに拘束はされてないだろ」


「そうね...... 役に立たない神様だものね」


 その言い方にはとげがあった。


「......ずいぶん神様を嫌ってるんだな。 ぼくをみていたあの時も、とても嬉しそうだった」


「ええ、当然でしょ。 こんな裏の仕事しなきゃいけない時点で、私の人生がどういうものかわかるはず」


 そう唇を歪め、いまいましくいった。


「......すぐ殺さないのか」 


「私はそうしたいけど、あの人にきいてちょうだい」


 そのとき、部屋に映像が写る。 そこには白い服を着た老人がうつった。


『どうも、はじめまして。 私は【最高司教】の【バルビナス】ともうします』  


「あんたがぼくを殺そうとしていた宗教家か」


『そうですね。 あなたの存在は我々にとって異端、神が人間であってはならないですから』


 そう老人は髭をしゃくる。


「......それで殺さないのか。 いや殺せないのか」


『............』


「おまえもぼくを神だと否定しきれなてないんだな。 もし殺してしまって、本当の神なら困るものな」


『......あなたが神なわけがない。 あなたは神を名乗る大罪人だ』


「いいや、もともと疑ってるんだ神様自体を」


『どういう意味です......』


「本当に神を信じているなら、人を殺すなんてしない。 罰は神様が自らやるものだ。 信じてないから自分たちでやるんだろ。 だからぼくが死んだら罰が下るのが恐ろしいんだろ」


『黙りなさい!』


 真芯をついたのかバルビナスは怒りの形相にかわる。


『......殺しなさい』


「怒らせるなんてバカね。 うまくすれば生き残れたかもしれないのに」


 そういって美結がうすく笑う。


(ぼくが殺されないと、多分この力を悪用される。 薬か記憶の改竄か洗脳か、あの力があればそれも可能なはず......)


 覚悟を決めた。


 ドオンッ 


 大きな音がすると土煙が部屋をまった。


「なに!? うっ!!」


 光があたり、美結が吹き飛んだ。


 そこには腕をむけた見上さんがいた。


「見上さん!?」


「こい、早くにげるぞ!」


 その瞬間、こちらに腕をむける美結の姿が視界に入る。 とっさに見上さんをおすと、体に強い衝撃がはしった。


 気づいた見上さんはその腕を伸ばして、なにかを叫んでいるが、声は聞こえない。


(ああ、死ぬのか...... でもこの光景どこかで)


 その伸ばした腕をつかもうとしたとき、光がぼくの体を包んだ。


 そして全て理解した。


『な、なんだ...... 今撃ち殺されたはず。 なぜ生きている!』


 司教が恐怖におののきながらそういった。


「りょう......」


 見上さんも驚いてとまっている。


「......いまわかったよ」


『なにをです! お前はなんなのです!』


「君たちの神だよ」


『神などいない! そんなものがいてたまるか! バカな! そんな馬鹿なことがあるか! 認めない! 私は認めない!!』


 司教は取り乱して頭をかいている。 そしてぼくは驚く見上さんをみつめた。

 

「......君は孤独だった。 そして強く願った。 一人にしないで、助けてと」


『な、なんだお前たちは! ここにどうやって入った! なっ、体が動かない!! なんだこれは!』


 逃げようとした司教は動けず、部屋に入ってきたものたちに拘束された。


「......つまり、私たちのことも思いどおりって訳ね」


 そう地面に伏せた美結が力なくわらう。


「ああ、神様だからな」


「そんな。それじゃ、その傷も......」


「ああ...... 君の願いだ。 そう、ぼくが神様になった理由は......」


 こちらを見つめる見上さんにぼくはそうつげた。

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