魔法少女は父親同伴で~せっかく魔法少女になったのに、パパが心配してついて来る

マウンテンゴリラのマオ(MTGのマオ)

第一章 魔法少女になりました

第1話 魔法少女は父親同伴で

「ピンク! 敵が来たわよ!」

 そう叫ぶのは、ヒラヒラの衣装に身を包んだ茶髪の女の子。白を基調とした衣装には、茶色のリボンがあしらわれている。色の地味さに反して野暮ったさを感じさせないのは、デザインした人のセンスが良いからなのか。右手に握ったステッキは剣の形に変形しており、ハート形の飾りがついていなければ、彼女の衣装とはアンマッチになっていたかもしれない。

 彼女は魔法少女ビューティーブラウン。この町で活動する魔法少女の一人である。

「こっちは準備おっけーだよ!」

 そう叫んだのは、同じデザインの衣装を纏った少女。同じく白を基調とした衣装ながら、こちらはリボンの色が緑だった。同じく緑色の髪には、ポニーテールにした上で、葉っぱ型の髪飾りがつけられている。ステッキを大砲に変形させて構える彼女は、魔法少女ビューティーリーフ。彼女もこの町の魔法少女の一人だ。

「私も大丈夫……町のみんなは絶対に守るわ」

 そう応えたのは、これまた同じデザインの衣装を着た女子。こちらの衣装はリボンも含めて全体的に真っ白で、長くて黒い髪とのコントラストが眩しい。ステッキを銃に変えて握りしめているのは、魔法少女ビューティーイノセント。同じくこの町の魔法少女だ。

「うん……みんな、行くよ!」

 そして、最後は私。みんなと同じデザインの衣装を着用しているけど、私のはリボンがピンクだ。ステッキは変形させず、元の形状のまま。私は魔法少女ビューティーピンク。他の三人と一緒に、この町で活動する魔法少女だ。

「由美ー! 気を付けるんだぞー!」

「ちょっとパパ! 名前呼ばないで!」

 ……そして、私たちの後ろで声援を送っている、スキンヘッドの男の人。彼は親船正雄。私、魔法少女ビューティーピンクこと、親船由美の父親だった。私は今、父親同伴で魔法少女活動をしている。どうしてこうなったのかと言えば、それはひと月前に起こったある出来事が原因だった。



  ◆



「きゃぁぁーーー!」

 その悲鳴が聞こえてきたのは、私が友達と一緒に下校している最中だった。みんなで帰りに図書館に寄ってテスト勉強をしようという話になって、駅の近くまでやって来ていた。目的地である図書館まであと少しという頃合いになって、駅のほうからそんな悲鳴が聞こえてきたのだ。

「な、何、今の……?」

 戸惑ったようにそう漏らすのは、津久毛つくも輝美てるみ。短い髪とツリ目が特徴的な女の子で、気が強い性格なんだけど、今は困惑のほうが勝っているのか珍しく不安そうにしている。

「なんか、悲鳴? みたいなのが聞こえてきたけど……」

 同じく困惑気味なのは、御正山おさやま奈美。くりくりと丸い瞳とポニーテールがトレードマークな彼女は、元々やや内気なせいか、イレギュラーな状況だと余計に狼狽えやすい。

「何が起こっているのか気になるけど……君子危うきに近寄らずよ。早く離れましょう」

 そんな中、冷静にそう提案したのは、後藤一美。切れ目と長い黒髪からクールな印象を受ける彼女は、見た目に違わず常に冷静沈着。こういうときに真っ先に真っ当な行動ができる子だった。

「うん、そうだね。勉強会はまた今度にして、早く帰ろう」

 そして、一美の意見に賛同したのは、私、親船由美だ。私たち四人は中学入学してすぐに意気投合して、よく一緒に行動する仲良しグループになっていた。全員名前に「美」の字が入っているのも、親近感が湧いた理由の一つかもしれない。

「って、ちょ、あれ……!」

 みんなで離脱しようとしたところで、輝美が何かに気づいて驚いてる。釣られて、私もそちらを向いてしまった。

「え……」

 目に映った光景に、私は思わず足を止めてしまう。……私たちと同じく、厄介ごとの気配を感じて逃げようとする人々。その群衆の向こうから、黒い靄のようなものが漂ってくる。その靄に触れた人たちが急変したのだ。苦しみだしたり、或いは錯乱したように近くの人に掴みかかったり、殴り合ったり、とにかく尋常ではない様子だった。

「何、あれ……?」

「とにかく、あの黒いのには触らないほうがいいわね……」

 奈美も私と同じように足を止めて呆然している。一美は相変わらず冷静だったけど、それでも全く動じていないわけではないことが声色から分かった。

「っていうか、あの黒いの、近づいてきてない……?」

 輝美が指摘するように、黒い靄のようなものは私たちのほうへ向かってきていた。って、こんなところで突っ立ってる場合じゃない!

「早く逃げないと……!」

 呆けていた私は、他の三人に声を掛けて、止めていた足を動かす。でも、そんな私たちを嘲笑うように、黒い靄はみるみるこちらに近づいてきている。

「あっ……!」

「「「由美……!」」」

 それに焦ったのが悪かったのだろう。私は地面の凹みに足を取られて、転んでしまった。そのせいで、他の三人も足を止めてしまう。黒い靄は、もうすぐそこまで迫っているのに……。

「そんな……」

 今から立ち上がっても、逃げるのは間に合わない。黒い靄はもう目前だった。万事休すだ。

「……」

 思わず目を瞑ってしまうけど、そこから数秒経過しても、特に何も起こらなかった。

「……大丈夫か、由美?」

 そして聞こえてきたのは、ここにいるはずがない人物の声。私は恐る恐る目を明けた。

「え……」

 目の前にいたのは、スキンヘッドで大柄な男の人。その人のちょっと強面な顔も、筋骨隆々な姿も、間違えようがない。この世で最も頼りになる男性。その人が、私に手を差し伸べている。

「パパ……?」

 その人の名前は、親船正雄。私の実の父親だった。

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