大航海時代に国を救ったのは長年の信頼でした。
naturalsoft
信頼と信用は国を救う!
あけまして、おめでとうございます!
今年最初の投稿です。
最近、リアルが忙しく連載も小説も書けてないのでリハビリ作品でもあります。
サラッ読めるように書きましたので、楽しんで頂ければと思います。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
とある大陸の最西南に位置する小国であるウェスト王国という国があった。北には大山脈が広がっており、北の国と分断されており、交流といえば東に位置する、同じぐらいの国土を持つイースト王国だけだった。
しかしイースト王国に行くにも、小さな山を越えなければならず、山越えに3日は掛かった。今までお互いの商人達はいつも商隊を組んで移動していたが、造船技術が発達してきて、中型の船で海から移動する手段が主流になり、隣の国に2日間で移動できるようになった。
そんな時代にウェスト国に、大陸間を行き来できる、大型のガレオン船が難破して、たどり着いた事で国が大きく変わっていく事となる。
・
・
・
・
・
・
・
王城の窓から外の景色を見ていたウェスト王国第一王女エリスは深いため息をついていた。
「また空がより黒くなったようだわ………」
外では、造船工場の煙突から黒い煙がもくもくと出ており、青い空を覆い隠していた。
ウェスト王国は今、産業革命の真っ最中である。
「国の国益の為とはいえ、自然を壊してまで国を潤して意味はあるのでしょうか?」
エリスは今年で16歳になる。
現在は国立の学園に通っている女学生である。
そして、現在の国の方針に反対している反対派閥のリーダーを務めている。
「十年前まではこんな国では無かったのに」
そう呟くエリスが5歳の時に、国を揺るがす出来事があった。それは南の別大陸から大陸間を航海できる大型船が難破してウェスト王国に漂流してきたのだ。
ウェスト王国には近海までしか出ることの出来ない中型船までしか造船出来ず、当時は国中が騒がしくなった。
それは大型船を製造できる国が侵略してきた場合、ウェスト王国では対抗できるだけの技術が無かったからだった。
しかし、漂流して衰弱していた船の責任者である船長は友好的に接してきた為、海を越えた国交が樹立したのだった。
壊れた船の修理と食料の提供。
船に積んであったウェスト王国にない珍しい香辛料や絨毯、調度品などなど、お金は払ったが御礼に安く売って貰い、代わりにウェスト王国の特産品など買ってもらい、対等な取引きが出来たのだった。
問題はここからであった。
最初は他国の技術力に不安を抱いていたウェスト王国の民だったが船員との飲み会などで、他国の面白い話など聞いて、ユーモアな船員が多いことが幸いし、友好的に受け入れられる事となった。
船の修理には3ヶ月間の時間が掛かり、その間に一部の造船技術を指南してもらえる事になったのだ。
無論、最新の技術は秘匿されたが、ウェスト王国は大陸間を移動できる大型船の技術を手に入れる事になったのだ。
それから船の修理が終わり、南大陸の大型船が就航する時、ウェスト王国は使節団を乗船させ、これから国同士の貿易ができないか派遣する事になった。
船員からもたらされた情報はとても大きいもので、わずか15日間の航海で南大陸に辿り着ける事がわかったのだ。
さらに、その途中には大きな島があり、本来はそこに行く途中で嵐に会い航行不能に近い状態となってウェスト王国に流れ着いたようだった。
つまり、今までウェスト王国のある北大陸の近海は流れが早く、ほとんど船の行き交いがなかったのが、新しい開拓地として、南の大陸も目の色を変える新しい商戦地帯となったのだ。
そうなるとウェスト王国でも大型船を持たなければ、交易に支障が出るという事になり、国中の貴族がお金を出し合って、港を改修し、次々に大型船の造船に入る事になった。
初めての大型船の製造に5年の時間が掛かった。その間にも、南の大陸から次々に交易船が来るようになり、ウェスト王国は大いに潤った。その交易船から技術者も派遣してもらい、自国の造船技術向上にも手を貸してもらった。
それから約5年の歳月が流れ、王国は3隻の大型船を保有する事になり海路が開拓され、南の島には中型船でも行けるようになり、造船業が大いに賑わうようになっていた。
ただ元々小さな国で山と森しかない所に、造船には大量の木が必要となるため、どんどん森を切り拓いていった。
工場が次々に建てられ、一部鉄を溶かして部品を作るために強い火力が必要のため、さらに燃料として木を切ってと、黒い煙がウェスト王国中を埋め尽くすようになった。
それ故に、一部では空気が悪くなり病気になる者も出てくるようになった。
「いったい我が国はどうなってしまうのでしょうか…………」
ウェスト王国は山々に囲まれている。海から向かい風が吹くため、煙突からでる黒い煙が国の空を覆い隠すのだ。
「我が国も隣のイースト王国のようにすれば理想的だったのに」
ウェスト王国の交易は、昔から仲の良かった隣国の付き合いも変えてしまったのだ。
隣国に輸出していた自国の特産品は南の大陸船の方が高く買い取ってくれるので隣国の交易が減ったのだ。ただ、大型船で入ってくる珍しい品々はウェスト王国からイースト王国へ運ばれる事になった。
イースト王国は港が整っておらず、大型船の停泊ができないのが理由だった。
イースト王国でも南大陸との直接的な交易をしては?と、声があったが、国王が様子を見ようと慎重な姿勢を選んだのと、直接交易しなくとも隣の国から輸入できるので、すぐに問題がでることはなかった。
そしてイースト王国の国王の判断が正しかったと、国中が理解することになった。
黒い空だ。
自然豊かな国がわずか数年で真っ黒な空、雨が降れば真っ黒な雨が降る、呪われた国になってしまったのだ。
自国で暮らしている民も、生活が豊かになり多くのお金を稼げるようになって、目が盲目になってしまっていたので、強い反対が起こらなかったが、隣国のイースト王国から見ると呪われた国と映ったのだ。
そんな中、昔から変わらずに山を越えて商品を運ぶ商隊があった。
「ふぅ~、ここまで登れば青い空が見えるなぁ~~」
「そうですね、久しぶりの青い空だわ」
大きな帆馬車を10台分、列を成して山の坂道をゆっくり登っていた。
「ホワイト伯爵様、予定より早く休憩地に辿り着けそうです!」
「ああ、そのようだね。着いたら今日の夜は少し良い酒を出すから楽しみにしておいてくれ」
「ありがとうございます!皆に伝えてきます!」
仲間の商人は後列に戻っていった。
ウェスト王国とイースト王国を隔てる山は小さいが、越えるには3日は掛かる。それゆえに、途中に長年かけて作られた休憩所が設置されていた。動物避けの柵があり、いくつかの山小屋も作られていた。
「お父様、ここまでくると空気も美味しく感じますね。今までそんなこと考えたこともなかったのに」
「シオン、そうだね。いつか国王様や他の貴族達も目を覚ましてくれれば良いのだがね」
貴族の1人にしか過ぎないホワイト伯爵では、できる事が限られる。
大型船の交易を止めろとは言っていない。
過度な造船の製造を止めて、昔の美しい国に戻そうと言っているのだ。
しかし、大金が動き、国が豊かになっている状態では、ほとんどの者が話を聞いてくれないのだ。せめてもの救いは、第一王女様が賛同して旗頭になってくれている事だろう。
ただでさえホワイト伯爵は、船での交易が主流になっているこの時代で、山を越える陸路に拘っている変わり者と呼ばれているのだ。
無論、理由はあるのだ。
山の街道は使わないと痛んで、雑草がおおい茂ってしまう。更に商隊が通る事で、通る村や街の経済が回る。
便利だからといって完全に止めてしまうことはできないのだ。
ホワイト伯爵自身にも商隊を辞めることのできない理由があるのだが、それは次回記載するとしよう。
「シオンも疲れただろう?」
「私はまだまだ平気よ!小さい頃からこの山道を通ってきたんだからね!」
シオンは16歳の令嬢であり、エリス王女の話し相手として小さい頃から仲良く付き合って来た仲である。
ただ父親が商いで隣国のイースト王国へ行くので、いつも同乗して付いて行っているのだ。
そして隣国の珍しいお菓子や装飾品を買って帰るのが日課となっていた。
令嬢とはいえ商人逞しさのある元気な女の子。それがホワイト伯爵の令嬢シオンだった。
そんなホワイト伯爵の商隊が隣国イースト王国へ入った頃、ウェスト王国では大変な事態が起ころうとしていた。
この世界では魔法が存在しており、魔物も存在していた。
森を切り拓き、住む場所を追われた動物や魔物が大挙して村や街を襲い始めたのだ。
森は西側に広がっており、ウェスト王国はすぐに兵を派遣させた。
しかしそこで目にしたのは、大地を多い尽くすほどの魔物の大軍であった。
「これは罰だ………大地を汚した我々の………」
派遣された兵士達が呟いた。
すでにいくつかの村や街が襲われて壊滅していた。
あまりの魔物の多さに、派遣された兵も逃げ帰るしかなかった。
そこからは国中が大混乱となった。
魔物の進軍は早くはなかったが、確実に王都を目指して移動していた。その通り道にある街の住人は王都を目指して逃げ出していた事により、王都周辺に国中の民が溢れ出したのだ。
城門を閉めて難民が入らないようにしたが、それは外からの物資も入らなくなるという事で、食料を巡って暴動が起きた。
どんなに大金があってもお腹は膨れないのだ。
さらに飲み水も、黒い雨が混ざり飲んだ者は腹を壊したり嘔吐したりした。
飲み水に関しては前々から問題視されてはいたが、金で地方から買ってこればいいと言う考えで、問題を先送りにしていたのも混乱を招いた。
王城の会議室では、結論の出ない会議を続けていた。
「もうこの国は終わりだ………」
大きな円状のテーブルに【数人】の高位貴族達と専門家が話し合っていた。
この重要な会議で参加人数が少ないのは、国王を始めとした他の貴族達は既に大型船の船で逃げ出していたからだ。
第一王女であるエリスも、騎士団長を始め、高名な学者を招いて意見を求めていた。
「正直、打つ手がありません。魔物の数は想像以上、騎士団は訓練はしていても、大規模な戦など、この数十年ありませんでしたから、大規模な戦い方など知らないのです」
「ワシも良い案が浮かびませぬ。特定の魔物に効く薬品などありますが、これほどまでの混成な大軍では効果はないでしょう。港にある船を全て使って隣国に逃げるのが最善策ではないでしょうか?」
確かに学者の言う通り民を船で隣国に逃すのが最善であるだろうが………
今のエリスでは暴徒と化した民をまとめ上げる権力やカリスマがないのだ。
元々エリスの派閥は少数派であり、多くの貴族は国王と同じく大海原に巨万の富を築いた事で国内の問題を金の力で解決する思考になっていたからだ。
「国を治める王が、貴族が真っ先に逃げる国ですか。滅んで当然ですね」
エリスは呟くと、騎士団長に命じた。
「すでに隣国に使者を送りましたが、まだ返事がありません。民を脱出させる手筈だけは準備しておいてください」
「かしこましました」
団長が動こうとした時、伝令が飛び込んで来た。
「失礼します!隣国から返事が届きました!」
ちょうど良いタイミングですね。
「そのまま読み上げなさい」
はっ!と敬礼してから手紙を読み上げた。
「我がイースト王国はできる限りではあるが、難民の受け入れや、魔物討伐の助けを行うと約束しよう。ただし、条件がある。この事態を招いた国王、及び高位貴族には責任を取ってもらう事。そして船での我がへの入国は認めない。山を越えてくるように。万が一、船で来た者は上陸させないし、送り返す」
以上ですと伝令は答えた。
「少し妙ですね?船の方が移動が楽なのに山を越えてこいとは………」
「確かに、しかしイースト王国の山道は舗装されてますし、年配の者は馬車に乗せて移動させれば、そこまで問題にならないでしょう」
エリスはすぐに動き御触れを出した。
このままここに居ても魔物に滅ぼされるだけである。山を越えてイースト王国に向かえば助かる。助けてくれると兵士達を使い誘導した。
魔物の進軍を襲いが確実に向かって来ている。
すぐに動かなければ間に合わない。
こうして王都に集まった人々は動き出した。
長い長蛇の列になって隣国の山を目指して歩き出したのだった。
そして、そこから思い知る事になった。
山の中腹から黒い雲がなくなり、数年ぶりに青空を見た者。山脈から流れる清らかな水を飲んだ者。
山から自分の国を見下ろして、初めて隣国から呪われた国と呼ばれた意味を知った者。
多くの民が自分たち自ら自分の国を破壊した事を知り、心の底から後悔の念に晒された。
伐採されて禿げた山になっている場所や、森が半分以上伐採で無くなっている場所。
黒い煙で真っ黒に汚染させた大地など、よくこんな場所に住んでいたのだと、初めて実感したのだった。
「…………なんだ。もうとっくのうちに滅んでいたんじゃないか」
「これが我々の住んでいた国だなんて………」
「呪われた国なんて隣国のひがみだと思っていたが、当然だな」
山に登った民は呆然と自分たちの国を見て足を止めていた。
「ようやく気づいたか?」
声がして上を見るとイースト王国の国王と兵士達が援軍にやって来ていた。
「今回は我々が手を貸そう。だが、汚染された大地を回復させるには長い年月と、そこに住む民の力が必要だ。過ちに気付いたのなら、これから正せば良い」
ウェスト王国の民達はひざま付いて頭を下げた。
「イースト王国の国王陛下!この度は援軍感謝いたします!」
遅れてエリスがやってきた。民を先に行かせて自分は後から出発したのだ。
「エリス王女殿下、お久しぶりですな。我々は恩を返しに来ただけなのですよ」
「恩ですか………?」
首を傾げるエリスに国王は言った。
「数年前に、我が国で流行病が流行ったのです。今までの薬が効かず、多くの者が命を落としていきました。しかし、ウェスト王国の一部の貴族と商人が、南の大陸から特効薬を持って来てくれて、なんとか最小限の犠牲者で国が救われたのです。その特効薬のレシピも持ってきてくれたおかげで、薬の生産も間に合いました」
「そんな事が………全然知りませんでした」
「無理もない。その病は北側の帝国から来たもので、国境を封鎖して北の町で封じ込めていましたから。南の港から来る人々には知らされておりませんでいた」
なるほど。情報封鎖されていたのですね。
「我が妻も運悪く視察に向かった先で病に掛かり、特効薬のおかげで救われました」
「まぁ!王妃様も!?しかし、いくらなんでも私にその情報が降りてこなかったのはどうしてかしら?」
隣国を救ったとなれば表彰されて然るべきである。
しかしここ数年でそんな行事はなかったと記憶している。
しかも隣国の王妃を救ったとなれば、大きな話題となるだろうが………
「勘違いしないで聞いてもらいたいのだが、その貴族とその傘下の商人に、秘密にして欲しいと言われたのだ。そしてその代わりに別の御礼を貰いたいと言われた」
「なぜ秘密に………それに代わりの御礼とは?」
不思議な話にエリスは首を傾げるばかりだ。
「秘密にしたのは、今はまだ注目されたくないからと言われたよ。そして変わらぬ付き合いを続けて欲しいのと、そう遠くない日に国を揺るがす出来事が起こる。その時、できる限りでいいので助けて欲しいと言われたのだ」
!?
「今回の事を予想していたのですか!?いったい誰が?」
「魔物の大軍の侵攻については知らなかったようだぞ?その者の予想は、飲み水がダメになって国中が干上がると思っていたらしいが………森や平地に住む魔物達が本能的にそうなると感じて、原因である王都を目指したというのが我々の見解だ。魔物とはいえ、水を飲まねば生きていけぬし、それに準じる食物連鎖が崩れば、自分達も食糧がなくなり、死ぬしかなくなるからな」
国王は振り返ると、ある者を呼んだ。
「やっほー!エリス、久しぶり!」
「し、シオン!?まさか貴方が?」
軽いノリで挨拶をしてきたシオンは貴族令嬢としては不敬罪ものであったが、そんな事を気にする者は居なかった。
「まさか私とお父さんが隣国に行っている間に、こんな事が起きるなんて予想外だったよ」
「シオンが………ホワイト伯爵が、数年前に隣国を救ったのですか?」
シオンは苦笑いしながら答えた。
「まぁ、私じゃなくてお父さんだけどね~」
「どうして教えてくれなかったのですか!?」
少し間を置いて言いにくそうに話した。
「私が手柄を立てると色々とマズイ事になる事情があってねぇ~」
「それでも───」
自分の派閥の人物が手柄を立てて──それも隣国の王妃様と多くの国民を救ったとなれば、隣国の後ろ盾を得て、自分の王宮内での発言力が上がり、今回の騒動が起こる前に、もう少し伐採の縮小や工場の煙の制限など政策を献上して、施行できたかも知れないのに………
「すみませんなエリス王女殿下、これは私がお願いしたことなのです」
「ホワイト伯爵………」
シオンの父親が出てきた。
いつもの行商人の格好ではなく、貴族のしっかりした服を着ていた。
「正直言って、もしイースト王国の手柄を公表したら私達は消されていたでしょうから」
!?
「それだけエリス王女殿下の派閥は力が無かったのですよ。人は誰でも大儲けしている時、それを止めろと言って止めれる訳はありません。もしそれを提唱する者が現れれば───わかるでしょう?」
「変に発言力を持って、会議で事案を公表していれば私の命も危なかったというの?」
「ええ、今までは、多くの者はエリス王女殿下は綺麗事を言っているだけだと笑っていたでしょう。人々はここまで追い込まれなければ理解しなかったでしょうから」
だから私が変に力を持たないように裏で動いていたと………
エリスは唇を噛んで自分の不甲斐なさを悔やんだ。
「でも、その綺麗事を本気で叶えようといていました。だから私達は裏で貴方様を守り、機が熟すまでお力を添えようと決めたのです。そう、我々杜人(もりびと)は」
「杜人とはなんですか?宮廷でも聞いた事がありませんが?」
「古くからこの国を影から見守る一族ですよ。時の国王から引き継がれてきたのですが、平和が続き忘れられていったのですが、我が一族は両方の国の最深部にまで及んでいましたので、大きな戦など起きないよう調整を行っていました」
そんな一族がいたなんて!?
「しかし、他の大陸から難破船が来たのは予想外でした。我が一族でも、他の大陸との交易を行うべきか、意見が割れて有効な手が打てず、ここまでウェスト王国を壊してしまいました」
「エリス様には申し訳ありませんでした。我が父もエリス様を援助するのが精一杯で、事態を好転させる事ができませんでした」
「いえ、それはいいのです。シオン達が船ではなく山越えに拘っていたのも、各村や町の情報を確認していたからですね?」
流石はエリス様。頭の回転が速いね。
「さようです」
「さて、話しの腰を折るが、あの魔物達をどうするのだ?」
あの魔物が山を登ってきたら隣国も他人事ではない。逃げてきた民を守りながらでは、とても対処できないだろう。
「それなら大丈夫です。この山には魔物は登ってこれませんので」
シオンは意味深に答えた。
「どういうことだね?」
国王も疑問に思って尋ねた。
コソッ
「ここだけの話しですよ?この隣国同士を結ぶ小さな山は、代々、我々が杜人が管理していました。二国の物流を結ぶ大事な山です。昔から、魔物の嫌う【聖樹】と呼ばれる木々を少しづつ植林して魔物が近付けないようにしていたのです」
!?
「そんな木々が存在しているのですか!?」
「種類があるんです。1種類だけではなく、数種類の木々を近くに植えることで特別な匂いを発生させて魔物が近寄って来れなくするんです。でも、これは秘密ですよ?悪用も出来ちゃうので」
魔物を他の土地に追いやる事も出来ちゃうからね。
「何とかウェスト王国の民がこの山までたどり着けば助かります。国王様、体力のある兵士に民の移動を手伝って貰ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、魔物と戦わなくても良いならそれぐらいは手伝おう」
国王様はすぐに兵士に指示を出して、逃げ遅れている国民を助けに動いてくれた。
「さぁ、エリス様も民を誘導してください。すぐ側には綺麗な小川が流れています。久しぶりに美味しい水を飲めば元気もでますよ」
「わかりましたわ!」
それから僅か1日だった。
魔物の大軍により王都は壊滅した。
町や城は破壊されて瓦礫の山となった。
しかし、シオンの言った通り魔物達は山には近付いて来なかった。
魔物達は破壊の限りを尽くすと、次第に元の場所へと帰っていった。
「はぁ~アイツら壊すだけ壊して行きやがって!」
シオンはプンプンと怒っていたが、エリスを始め、ウェスト王国の民はスッキリした顔をしていた。
「これから大変だと思いますが、汚染された国を最初から作っていくと思えばやる気がでます!シオン、何も力のない私ですが手を貸して貰えますか?」
「ええ、もちろん♪」
周囲から民達も、新しい国を作りましょう!と、声を上げた。
『まったく。綺麗事だけでは国運営していく事なんてできないけど、そんなエリスだから私達は支えていきたいと思ったんだよ?』
エリスは気づいてないだけで、王としてのカリスマがある。カリスマとは他社を圧倒する覇気だけではない。この方を支えたい、守って上げたいなど思ってしまうのも、カリスマの一種なのだ。
「あ、でも私の父である国王が戻ってきたら………」
「大丈夫。大丈夫。我先に国を捨てたヤツなんて誰も国王って認めないわよ」
同意するように、周囲でもそうだそうだ!と声が上がった。
『でも、まぁ、そもそも戻って来れないんだけどねぇ~』
シオンは父親と目を合わせると、心の中で嫌な嗤いをするのだった。
少し遡って────
「クククッ、これだけの金銀財宝があれば、他国でも優遇されるであろう。数年遊んでから国に戻ればよい」
「まさにその通りですな!」
「平民など雑草のように逞しいもの。図太く生き残って復興作業をしていることでしょう!」
「「わっははははは!!!!」」
ドッカーーーン!!!!!
「な、何ごとじゃ!?」
「大変です!船底から爆発がっ!?」
「なんじゃとっーーー!??」
「「「うわっーーーー!!!!!」」」
国王や高位貴族達が乗った船は、外海で海の藻屑となっていたのだった。
ホワイト伯爵家…………
裏ではブラック伯爵家の異名を取り、王国に仇なす者を闇へ葬り去る杜人の家系である。
『やっぱり我々は守るより葬り去る方が得意ですね。これでエリスを女王にさせてあげられる』
お父さんが機が熟すのを待っていたのは、エリスの身の安全が確保され、邪魔者を一網打尽にできる時を待っていたのよね。
シオンの父親もホワイト伯爵家当主として、シオンより強(したた)かであった。
「みんなで頑張って元の綺麗な自然のウェスト王国にしていきましょう!」
「「おおっーーーー!!!!!」」
それからしばらくして、エリスは女王になり、ウェスト王国を統治することになった。
まだまだ新米女王ではあったが、民を第一に考える政策を立て、国民一丸となって復興に当たった。
そんな女王の為にと、国民は女王エリスを大いに支持して国の復興を頑張るのだった。
幸いな事に、魔物達が落としていった希少な素材が多く落ちており、その素材で南大陸の船と交易をして、さらに多くの職人も無事だったため、民芸品を作る事で外貨も稼げた。
交易品を見直し、小国に合った物を売り買いするように見直して、南の国と波風立てないように交渉もまとまった。
あれから、隣国の国との貿易も変わり、中型船の交易も継続したが、多くのウェスト王国の商人が昔の山越えをするようになった。
理由は、自分達の国が復興して、黒かった大地が少しずつ元に戻っていく様を、山の上から見る事ができたからだった。
「やっぱり、馬車でのんびり移動するのはいいねぇ~~」
「こらシオン、ダラケ過ぎだぞ?」
「いいじゃない。時間は掛かるけどようやく元の国に戻りつつあるんだから~」
「前もって、隣国から食料の備蓄を増やすようお願いして置いて良かったね」
「そうだね。流石に、他国の難民分の食料援助をいきなりはできないからね。疫病を運んできた北の帝国から、お詫びの品として、大量の小麦をお願いして良かったよ」
「貿易でも、コッソリ、長持ちする食料品を輸入しておいたからね~」
ホワイト伯爵はシオンの頭を撫でながら言った。
「久しぶりにお母さんに会えるね」
「うん、楽しみ♪」
シオンの母親は杜人の巫女として、この山の奥で暮らしている。未来を見ることのできる予言者でもあった。
南の大陸からきた者がシオンの母親の姿をみればこう言っただろう。耳の長い種族【エルフ】だと。
「平和が続いた王国には、100年に一度ぐらいは、イベント………王国を揺るがす危機がないと、堕落してしまいますからねぇ~」
「そうだね。これで民達は危機感を感じて、後の100年は記憶に残って、頑張って国のために働くでしょう」
親子は笑いながら山道を登っていく。
はてさて、今回の騒動はどこまで仕込まれていたのかは、ホワイト伯爵家しか知らないのであった。
大航海時代に国を救ったのは長年の信頼でした。 naturalsoft @naturalsoft
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます