花嫁は大魔王

霧乃遥翔

プロローグ

かつて、世界は大いなる恐怖に包まれていた。その恐怖の象徴――大魔王リリス。彼女は圧倒的な力で国々を征服し、人々の希望を打ち砕いてきた。誰もがその名を聞くだけで震え上がり、夜は祈りを捧げて彼女の怒りが自分たちに降りかからないことを願った。

だが、暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。勇敢なる勇者、アレン・ライトが現れ、幾多の困難を乗り越えて大魔王を討ち、世界に平和を取り戻したのだ。その英雄譚は語り継がれ、アレンの名は永遠に歴史に刻まれた。

しかし、物語には誰も知らない裏側がある。

時は流れ、世界が再び平穏を取り戻したある日、平凡な街の片隅に一人の女性が姿を現した。長い黒髪は風になびき、瞳には深い紫の輝きが宿っている。彼女の名はリリス――かつて恐れられた大魔王だった。

だが、彼女はもはやかつての恐怖の化身ではなかった。失った力、封印された魔力、そして胸の奥に刻まれた孤独な痛み。新たな人生を歩もうと決めたリリスは、ひっそりと街の一角で穏やかな暮らしを始める。

それは彼女にとって初めての自由だった。誰の命令も受けず、誰を恐れさせる必要もない生活。花を摘み、鳥のさえずりに耳を傾け、青空を仰ぐ。そんな日常の中で、彼女の心は次第に解き放たれていった。

しかし、彼女の心にある空白を埋める存在がいた――アレン・ライト。

「私のすべてを終わらせた男。そして、私の物語を再び動かす男。」

リリスは静かに微笑んだ。彼女が心の奥で長く秘めてきた想いは、愛という名の感情だった。

かつて敵として戦った二人が、今度はどのような運命を歩むのか。

この物語は、勇者と大魔王が織りなす、誰も知らない新たな愛の始まり――「花嫁は大魔王」のプロローグである。

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