002 一縷
目の前には満点の星空があった。
遠足で行った科学博物館のプラネタリウムのような満点な星空である。
こんな綺麗な星空は見た事はない。
ああ、これが天国なのか――なんて素晴らしいのか。
最初はそんな風に思っていたが、意識がはっきりするにつれてどんどん星空が遠くなっていった。それだけではなく、尻にアスファルトで摺り下ろされているような痛みが走り、首根っこを掴まれているような息苦しさを感じてるようになっていった。そして最終的に、自分が星空の下、誰かに襟を掴まれてズルズルと引き摺られている事に気が付いた。
「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるな」
俺の身体を必死で引っ張る少女は言った。
「貴君、名前は?」
「針姫小唄」
「そうか。あんまり良い名前じゃないな」
「お前こそ――名前は?」
「まぁまぁ、それは良いじゃないか」
どうやら名乗る気は無いらしい。
「貴君、大変な目に遭ったな。まさか自分の一族に埋められるなんて。可哀想に。私が拾ってやらなかったら、今頃地獄行きだったぞ」
「わかんねェだろ。天国かもしれねェだろ」
「それはないな。人間、基本的に死んだら地獄行きだ。もっとも、これから向かう先も地獄みたいなものだが――」
「どこに行くんだ?」
「私の居候先だ。ヤバい思想に染まった養母と、オカルトにハマった同居人がいる」
「ソイツは……地獄みたいな所だな。でも、ウチの家よりマシだ」
「自分の子供を埋める連中と比べたら皆マトモだよ、貴君」
「そうだな。……で? なんで俺はそこに連れてかれるんだ?」
俺が問うと、少女は「決まってるだろ」と言った。
「私が貴君の命の恩人だからだよ」
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