第7話 冒険者なってもハジケリストはハジケリスト②

 しばらく時間が経った後、カオリはふとギルドに戻ってきた。

 騒ぎの中、ちゃっかり取り戻したお礼の袋を、ゴウ達に渡すのを忘れてたからだ。

 付け加えて、黒焦げ冒険者のトラブルの前、ゴウ達がギルドの人と揉めていた事を思い出したからである。


 ゴウ達の担当した受付のお姉さんは彼らに言った。「貴方達は冒険者ではない」と。


 カオリ自身は国が定めた『勇者権限』とやらで、冒険者でなくともクエストを受けることができる。

 冤罪を着せられた為か、受付の対応が冷たく渋々ではあったが。


 だが彼らは勇者は愚か、冒険者ですらない。

 だからモンスター討伐しても報酬がない。

 そして自分の様にクエストを受けることができない。


 しかもあの様子からして、冒険者の就き方さえも知らないと彼女は思った。

 そしてあんな連中だから、他の雇用職でまともにやれるわけがないとも思っている。


 彼らには二度も助けられた。だけど騙された件を引きずってる彼女は、誰も信用することができない。

 だからせめて冒険者の就き方だけでも教えようと思ったのだ。


 そして扉を開けゴウを探そうとし、ギルドの右端側に目線を向けると、


 ゴウは東大寺盧舎那仏像とうだいじるしゃなぶつぞうになって仏教を説いていた。


「……どゆこと?」


 カオリの浮き上がった疑問の呟きが、どこからか鳴り響いた寺の鐘の音色で返される。


「罪を犯してしまっても、過ちを犯してしまっても、贖罪の思いがあるのならば、南無阿弥陀仏なむあみだぶつと唱えると誰もが一人残らず救われるのです。では皆さん、一緒に唱えましょう」

「「「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ

南無なむ……」」」


 仏像姿のゴウの前には、坊主頭になった冒険者達や職員達の姿が。

 皆揃って正座して、悟り開きし顔で祈りを込めながら念仏を唱えていた。まさにシュールな光景である。


 これだけでも十分茫然としていたカオリだったが、


「イエスはある所で祈っておられた。祈りが終わると、弟子の一人がイエスに、「主よ、ヨハネが弟子たちに教えたように、私たちにも祈りを教えてください」と言っーー」

「「「アーメン……」」」


 左端側では、キリスト石板姿になってたクマ吉が、キリスト教を説いていた。

 そして向こう側と同数のプリーストの姿をしている冒険者及び職員達。

 全員が尊い顔を浮かべながら、クマ吉に向け祈りを捧げているのであった。


 この光景に対しても「なんでぇ?」って言いたげな目で見てるカオリ。

 この思いに対し、どこからか鳴り響く教会のベルの音色で返された。


「「「アーメン……」」」

「「「南無阿弥陀仏」」」

「「「アーメン……」」」

「「「南無阿弥陀仏」」」

「「「アーメン……」」」

「「「南無阿弥陀仏」」」

「「「アーメン……」」」

「「「南無阿弥陀仏」」」

「「「アーメン……」」」

「「「南無阿ーー」」」


「「「…………」」」


「「「お前らっ! さっきっからやかましィィィィィィ!!!!」」」


 突如反対側にいる別宗教の声にブチギレする、両コスプレ教徒達。


「なんだよさっきからナムナムナムルって!? 出てケェ!! 此処は我らの前に居らせられる『クマキ・チリスト・サーメン』様が広めし、我ら『キリスレジスタント教』の聖堂であるぞ!」


 激昂上げる信者達の背後で、イエス様姿でワイン飲みながらドヤ顔浮かべ、玉座っぽい椅子に座ってるクマ吉。

 自分の世界にいる全てのキリスト教徒に謝れと思うカオリだった。


 ……あと、「此処って冒険者ギルドじゃねえのかよ」と、心の中で呟いたそうです。


「愚か者共めがぁ! 此処は剛然上人ゴウねんしょうにんが創りし『浄化霊土万万歳宗じょうかれいどばんばんざいしゅう』の神聖たる本堂であらせられるぞ! そこに不純物と思わしき異教を持ち込むとは何事かァァァ!」


 憤慨中の信者達の背後で、座布団にあぐらかきながらビーフジャーキーを美味しそうに貪り、偉そうにしてる仏教祖姿のゴウ。

 殺生のカケラもない彼を見て全ての仏教徒に謝罪しろと思うカオリなのだった。


 ……あと「だから此処、冒険者ギルドだっつーの」と、再度心の中で呟くのでした。


「「「お前らが出てケェ!」」」

「「「お前らが出てケェ!」」」

「「「アーメンッ!」」」

「「「南無ゥゥゥ!」」」

「「「アーメンッ!」」」

「「「南無ゥゥゥ!」」」

「「「アーメンッ!」」」

「「「南無ゥゥゥ!」」」

「「「アーメンッ!」」」

「「「南無ゥゥゥ!」」」

「「「アーメンッ!」」」

「「「南無ゥゥゥ!」」」

「「「アーメンッ!」」」

「「「南無ゥゥゥ!」」」


「「「………」」」


「「宗教戦争じゃァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」


 青筋浮かべたゴウとクマ吉の殴り合いが始まると同時に、仏僧侶達と教僧侶達の戦争が始まった。

 胸ぐら掴んで殴り合ってる神の使いと言う名の格好した馬鹿共の真上には、十字架や数珠、挙句の果てには仏像やイエス様石板が飛び交ってる。


「…………」


 馬鹿騒ぎの中、カオリは心を殺した様な表情を浮かべ、ギルドの扉を閉め外に出た。


「うん、余計な心配だった」


 そして扉に背を向けもたれ掛かりため息を吐いた時ーー


「全くだ。宗教というのはいつも醜い争いの元となる」

「第一この世界の国教って、女神ヴィナスを讃えるヴィナス教ってやつじゃないのかよ、オイ」

「っ!!?」


 さっきまで乱闘してた、争いの元凶である一人と熊人形が目の前で堂々と他人事の様に語っていた。

 驚愕したカオリは、再度ギルドの扉を開け、中がどうなってるか確認すると、


「やれー!」

「そこだぁー!」

「「「ワン! ワワン! ワンワン!!」


 二足歩行の雄チワワ達が最後の一匹になるまで戦い続ける乱闘大会、『ワンダフルファイト』が行われていた。

 ちなみにこの大会で優勝したチワワには、『ミスコンチワワーズ』という名の美犬チワワを決める大会で優勝した、可愛美しい雌チワワとつがいになれるらしい。

 冒険者達の熱狂染みた煽りで、雄チワワ達の乱闘がますます加熱してーー


 バタンッ


「……舌だけじゃなく頭もおかしくなる気がするんですけど」


 扉を閉めたカオリは頭を抑えてかがみ込むのだった。


 そんな中、心が変な意味で壊れかけてるカオリにゴウが気づく。


「お前は確か、クマ吉と戯れあってた猫にやられかけてた冒険者じゃないか」


 ゴウの声に気づき、既に屍そのものと言える様な顔のまま目を合わせるカオリ。


「……自覚あるかどうか分からないけど、私さぁ、またアンタら二人に助けられたからお礼しようと思って来たんだけど……、冒険者になりたいんだよね?」

「冒険者……はっ!?」


 やつれた声で言うカオリに対し、ゴウはある出来事を思い出した。


 そう、アレはーー


 〜〜


 ゴウが元いた世界で、会社の入社面接を受けた時まで遡る。


「八百十番、破天ゴウさん。どうぞ」

「失礼します」


 スーツ姿のゴウが扉を開けると、面接官の方へ体を向けお辞儀する。

 そして目の前に置かれている焼き肉プレートの横へと移動し、


「八百十番、破天ゴウです! よろしくお願いします!」

「ではお座りを」

「失礼します」


 面接官にそう言われ、ゴウは斜め四十五度の角度でお辞儀した後、




 ジュぅぅぅ……



 鞄の中にあるBBQセット(千三百四十円)を取り出し、置かれてるプレートを使って焼き肉を始める。


「さて、君は何故我が社に入社しようと思った理由を聞かせていただきたい」

「それは……」


 基本通り面接が始まる最中、




 ビカァッッッ!!




 突如焼き肉真っ最中のプレートから神々しい光が解き放たれる。

 その光が徐々に弱まり、消えた時には……


「いただきゃめーる」


 有名な成金姿の寄食ハンターが、ラクダ一頭丸々使った煮込み料理を食していた。


「……素晴らしい。採用」

「ありがとうございます」


 こうして、面接官から温かい拍手によって歓迎され、ゴウはその会社に就職したのであった。



『ぶっ飛び経済社会物語

 オーガニック・フーズ株式会社の一日



 社会人の一日、考えさせられる物語です』



 〜〜


「……何? 今の?」

 

 回想に対してそう呟くカオリに対し、語り切ったゴウは即座に土下座した。


「闇金融さんオネシャス! 金を貸してくだせえ!」

「えぇっ!? なんでいきなりそうなるわけッ!? ってか、誰が闇金融よ!?」


 突然の要求に驚きながらもツッコミ入れるカオリ。


「お願いしますよご主人様ぁ〜」

「痴漢ッ!」

 GESI!

「ゴヴァッ!?」


 だが足に縋り付いてきたクマ吉には驚きもせず、躊躇なく蹴り飛ばしたのだった。


「冒険者になる為には一定額の金払って試験受けないとダメらしいんですよ〜。でもここじゃ日本円通じないし、だからお願いっすよぉ〜」

「あああもう! 分かったから! ほら! 最初に助けられた時にお礼するって言ったでしょ!? この中にこの世界で通用するお金入ってるからそれで支払って!」


 キレ気味の声を上げながらも、カオリは例のお礼袋をゴウに手渡した。


「感謝すっぞ! えっと……名前まだ分かんないから綺麗な人! クマ吉! これで冒険者になるぞォォォ!」

「ヤッホウィ! 俺が一番だァァァァ!」


 金を手に入れ浮かれたゴウ達は冒険者ギルドーーの、横に建ってる賭博場へと走り出したのだった。


「アンタら何してんのよ! 言ってることとやってること真逆じゃない!」

「ぺへ⭐︎ ごめんなさぁ〜い」


 ゴウの無邪気なぶりっ子謝罪にちょっとカチンときたカオリだったが、その怒りを理性で抑え込む。


 だが、


「チッ、ノリ悪い。ぺっ」


 ……ブヂィ!


 反吐を吐いたクマ吉を見た直後、堪忍袋の尾が切れた音が聞こえた気がしたらしい。


「『フレア火の粉』からの『ウィンドウ』!」

 ボウッ

「ギャァァァ! 頭燃えたァァァ!」


 掌から放たれる、先程覚えたての魔法による火種攻撃でクマ吉に仕返しするカオリ。

 風に乗って放たれた火の粉が頭の毛に引火し悶絶するクマ吉でした。


 そんなぬいぐるみを放って置いて再度二人がギルドの扉を開けると、


「本日の大食い大会の優勝者はーー」


「…………」


 カオリは頭を爆発させた後ぶっ倒れた。

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