第17話 ドライブデート(後編)
翌朝。
目が覚めると、着替え終わってるタツキが目の前にいるから慌てて起き上がった。
「お、おはよう、タツキ。疲れ取れた?」
「おはよう。自然に目が覚めたくらいだから、疲れも取れてる。
七時だからまだ寝てても良かったのに」
「七時!? あんまり寝てないのに、会社の起床時間染み付いてるのかな……切ない。
そうだ、朝ごはんどこかのカフェで食べる? 急ぐから待ってて」
いつも通りに戻った私たちは早朝営業してるカフェで朝食もご一緒した。
一緒に寝ても、一緒にご飯食べても楽しい。
タツキといると何しても幸せなのがいいな、ってモーニングセットのココア飲みながら改めて思っちゃった。
「そうだ一崎。今日はご実家まで送りたいんだけど……」
「え、行きと同じく駅まででいいよ。
うちの両親に見つかったらタツキが尋問されちゃうと思うし、気にしないで」
「想定外の一泊旅行で心配されてるはずだから、直接帰したい。
でも住所教えたくないなら、これ以上は聞かない」
「そういうわけじゃ……じゃあ、はい、これが実家。
タツキが一人娘を取られるお父さんと戦う勇気があるなら送ってもらおうかな」
「……ん。前置きするってことは、もしかして怖い人?」
「おっとりだけど、怒ると怖いタイプ。
だから駅まででいいよ。
今時は親への挨拶も流行らないって、うちの両親もわかってると思うから。ね」
昨今はパートナー制度もあって、子供が出来ても家同士のつながりはないからわざわざ会わないって人も多い。
個人を好きになって一緒にいる。
でもその親までは選んでないから自分には関係ないって考え方だ。
タツキならうちの親にも会いに来てくれるだろうけど、まだ一回そういうことしただけだし。
逆に私だってタツキのご両親に会いに行く勇気ないから、アイスコーヒー飲みながら悩んでるタツキに素直に感心しちゃった。
最寄り駅までの送迎だけでも十分責任果たしてくれてるのに、うちの親のことまで考えてくれるなんて嬉しい。
そんな旅行帰りの車内で、事件は起きた。
すやー……。
睡眠不足だから、寝落ちしちゃった。
見慣れた街が近づいてくる頃には目を開けてるのが難しくなって、タツキの優しい運転もあって綺麗に意識が飛んでた。
「一崎、一崎」
タツキが起こしてくれてる声が聞こえて、車も止まってるから駅に着いたんだって分かって、眠い目をこすりながら起きた。
「んー……もう着いちゃった……?」
「着いてる。ご両親も待ってるから降りよう」
夜にはゲームログインしたら会えるのに、お別れが寂しい。
うとうとしながらタツキの服を引っ張ったけど、いつもなら隠れてお別れのキスしてもらえるのに今日は慌てて外に目を向けてる。
「タツキ、昼間だからキスするの嫌……?」
「違う、そうじゃなくて」
窓ガラスをコンコンって叩く音が聞こえたから、何かと思って振り向いたら。
お父さんがいた。
「蓮花。おかえり」
……お父さん?
お父さんの背景は、駅じゃなくて実家前かもしれない。
目の前ではお母さんも家から出てきて、タツキが気づいて車を降りて、挨拶し始めたのが見えた。
「ちょっとなんでいるのお父さん!?」
「外で植木に水やってたら帰ってきたのが見えたんだよ。
蜷川さんわざわざ降りてまで喋ってくれたのに、蓮花は起きずに寝てるから」
「待って何か聞こえた?」
「?」
セーフ。タツキにキスおねだりしたの聞こえてないのセーフ。
私も車を降りたけど、営業三課の課長はすんなりうちの両親ともトーク交わしてた。
重要な取引先に連れてかれること多いから緊張する場面にも慣れてるのかも。
私も隣に行くと、お母さんが外行きの顔でホクホクしてた。
「蓮花ったら良い人捕まえたじゃない。
山田さんちなんて娘に子供が出来てもパートナーだから挨拶にもこないって怒ってらしたけど、蜷川さんはしっかりしてるわ。
会いに来ていただけて安心しました。蓮花のことどうぞよろしくお願いいたします」
「突然外泊させるから『娘はお前にやらん』ってしようと思ってたのになぁ。
実際に会うといい人だったから困っちゃったな」
なんて和やか。
うちの両親への挨拶もしっかり済ませたタツキは帰って行ったけど、お母さんが「あの時の課長さんでしょ」って遅刻事件のことを覚えてたから恥ずかしくなった。
お父さんなんてまた今度一緒にお酒飲む約束したらしくて、タツキが帰った後は両親に馴れ初めとかめちゃくちゃ聞かれた。
……けど、好感触みたいで実はホッとした。
お父さんなんて夜鍋してちゃぶ台作ってたらしい。
昔のアニメの影響受けてるから食事会とかでひっくり返すつもりだったんだって。ほんっと困る。
こうして蜷川達紀は、うちの実家にファンを増やして帰っていった。
夜はゲームで会ったけど、社長の前でプレゼンした時くらい緊張したって言われて、平凡なうちの親がそんなわけないって笑ってしまった。
『一崎が好きだから、ご両親にも認めてもらいたいって思ってた。内心必死だったよ』
個人宛のメッセージを見ながら、悶えたのは無理ないと思う。
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