第15話 リアルとゲーム
後日、タツキとは日程合わせて動物園デートに出かけた。
週末ログインしなかったと思ってたら、実は営業たちと飲みに行ってたらしい。
酩酊状態だと11Gシートが体調チェックでエラー出してログインすら出来ないから、なるほどって納得した。
三井くんも好きな人に振られたって言ってて、赤澤さんと意気投合。
体育会系の二人はテニスとバレーで師弟関係が出来そうらしい。
タツキも仲間にされそうだったけど、彼女出来たとも言えないし明かせないから複雑だったみたい。
ただ三井くんたちに悪いと思って二次会まで全額奢ったんだって。太っ腹。
今は動物園のフードコートで一緒に食事中だったけど、私もお願いがあるから賑やかな施設内でちょっと身を乗り出した。
「ねえタツキ。私から一個だけタツキにお願いがあるんだけど良い?」
「ん?」
「異動希望で。別部署行きたいです」
直属の上司がめちゃくちゃ頭痛そうにして肩を落とした。すごい、地を這うような重いため息吐いてる。
弱った課長の答えを待ってるとようやく顔を上げたけど、首は横に振られた。
「一崎。厳しいことを言うけど、入社して半年も経ってないのにうちの会社は異動とか無理。
出来ないこともないけど、パワハラくらったとか相当な理由が必要。
芝松課長の直後なら話通ったかもしれないけど……せめて人事考課まで待って。出来ても来年の春になる。
そもそも突然どうした、また俺に不満でも出てきた? 良い上司計画続けてるつもりなんだけど」
「え、最近はタツキ頼りになるなーって思ってるよ。
私も営業の力になるために日々の目標作ってて、仕事も楽しくなってきたし。充実してる」
「じゃあ何が原因」
「それはもちろん、目の前の人との恋愛?」
セットのポテトをつまませてもらってるから、ニヤニヤしながらわざと差し出した。
めちゃくちゃ迷ってるけど、タツキが身を乗り出して咥えてくれた。
会社じゃ絶対にありえないけど、彼氏っぽい。
私服着て、赤くなって首触ってる課長は割とかっこいいし、好きだって素直に思える。
「今後こうして一緒にいることがバレちゃうって考えたら、タツキは動けないけど私は部署異動くらい出来そうでしょ?
課長と秘密の恋愛とかどうなのかな、別部署の方がお互いに楽かなって思ってる」
背が高くて顔もいいメガネの課長は考えてるけど、私だって簡単な気持ちで言ってるわけじゃない。
「社内恋愛の成功率って二割くらいらしいし。今後もタツキと仲良くいたいから、異動希望です。
……というわけで前向きに検討お願いしますね、課長。冗談で言ってないです」
「断りづらい理由がきた……」
「そもそもどうして断りたいの。
私のこと使えないと思ってたでしょ。手放して良くない?」
初め、タツキが「こいつ使えねー」みたいな顔で私のこと見てたの覚えてる。
今は頼りにしてくれてる時もあるけど、最初は犬猿の仲だった。
課長が私にお返しのポテトを差し出してきたから、遠慮なく咥えた。餌付けされてるみたい。
「最近は仕事に意欲見せてるし、自分から積極的に頑張ろうとする姿勢が良いと思ってる。
指導も聞き入れるようになったから、俺も育てがいがあるし……出来ればずっとそばで支えてほしいって思ってたから、異動は困る」
「え」
「一崎のこと、俺は公私共にパートナーにしたい」
プロポーズみたいだって言いたいのに、真剣な課長から目が離せないし言葉も出てこない。
「俺も社内恋愛で検索はかけた。でもお互いに意識して動けないならまだしも、普通の上司と部下で今まで過ごしてきてる。
一崎は異動せずこのままそばにいて。
部下だって分かってて手出してるの俺だから、バレても俺が責任取る」
ときめきセリフを言ってくる課長の口に、ポテトを突っ込んだ。
二人で必死にもぐもぐして、冷たいジュースで流し込む。
ドキドキしてたのも、ちょっと落ち着いた。
「……じゃあそばにいていいんだ。バレたら降格されるとかないの」
「ない。今のご時世、会社もそこまで社員の恋愛に首突っ込まないし……ん、もしかして人事部の東堂さんの話知らない?」
「東堂さん?」
「もともと経理部にいたけど上司の東堂課長と付き合ってるのバレて、会社の中でプロポーズされて。
ビンタでプロポーズ受けたって伝説になったやつ。
最近また話題になってたと思ったんだけど」
「何それ知らない」
「あー二次会のカラオケで出たかな……一崎が『音痴です』って言ってあっさり帰った回」
社内情報把握のためにも、今後は出ようかな、ってちょっとだけ思った。
タツキに聞けば早いかもしれないけど、今みたいにアクションしないと出てこないから、他にも社内恋愛してる人がいること知らなかった。
オレンジジュースを吸って気分転換したけど、目の前でなんてことないように笑う相手を見てれば、私は気にしなくていいんだって思えた。
「じゃあ……異動願いはやめておく。
今後ともよろしく、タツキ」
「よろしく。……はー、部下の引き止めに成功した気分。
緊張し過ぎてデート中だって忘れそう」
「遊びに来てるからね。もうこの話終わり。
……普段全然そういう雰囲気出してくれないから、今日も本当にタツキとデートなのかな、って思ってた。
楽しみにしてたんだから、ちゃんと遊んで」
恥ずかしいけど素直な気持ちを伝えると、タツキも毎日塩対応の私に同じこと思ってたらしい。面白くなって二人で笑っちゃった。
こうして、私とタツキは会社では普通の上司と部下、休暇日は遠目の行楽地に行く彼氏彼女、ゲーム内ではガチャを一緒に頑張るパートナーになった。
少子化対策のために作られたSHOT D RAINが繋いでくれた縁は現実世界と融合を果たして、今後もリアルとゲーム、両方巻き込んで続いていく。
結末はゲームと同じく、まだ誰にもわからない。
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