神霊夢想奇譚~不死の巫と天孤の約束~

柚月 ひなた

第一話 神の罰

 遥か昔——。


 一介のかんなぎであった煉夜れんやは神より神威しんいたまわり、姿となった。



(これは、呪い。

 かつて過ちを犯した私へ神が下した罰。

 許しを乞う私に、神は告げた)



 〝妖を滅せよ。そして来たる終末の日に目覚める、災禍さいかはらえ。

 さすれば、汝の罪を許そう〟——と。



(選択肢は、ない。私は神の言葉に従い、戦った)



 血を流し、どれだけ酷い怪我を負おうとも死ねず、痛みにもだえながらよみがえり。


 あやかしと呼ばれる不浄のものと戦い、戦って、殺し、コロシ、ころし——。


 数十年、数百年。

 来る日も、来る日も、煉夜れんやあやかし浄化し殺し続けた。


 しかし、未だ終わりは見えず。

 時の牢獄の中、闘争に明け暮れた煉夜れんやの心は摩耗し、人間らしい感情は失われていった。



(……嗚呼ああ、いつになったら私は安らぎを得られるのか)



 もはや過去は曖昧な記憶の底。

 自分の犯した過ちが何だったのかすら、思い出せはしなかった。



(けれども一つだけ。記憶に焼き付いて離れぬ色、情景がある。

 それは、満ちた月や稲穂のような……黄金こがね色。

 暖かくて柔らかなそれに包まれて眠る、優しい夢の情景だ)



 いつか永遠の安らぎを得られる日が来るならば、あの暖かい色に抱かれて眠りにつきたい——と、焦がれて煉夜れんやは手を伸ばす。


 だが、その手が夢の情景に届く事はなく。

 代わりにあやかしほふるための得物が握られていた。

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