日本人になりかわったシリアルキラーの話

@markka

第一弾 「僕は日本人になった」

とあるシリアルキラーの独白


日本に来て2日目。

僕の名前は姫野。

3日前に日本人になったばかりだ。


それまでの僕は日本人でも、ましてやアジア人でもない。

僕がこの国にいる理由とそして何故僕が日本人になり「姫野」という名前なのか、経緯を説明す

るよ。


3日前、故郷でとある観光客にやりかえしたことが始まりだったんだ。


僕は、いつも客がチップをくれないとわかったら見切りをつけて適当にあしらうんだけど、僕のそういう態度に男性客が「非常識だ」と文句を言って来たので、その客に僕は「常識とは18歳までに身につけた偏見だよ」と答えた。


この発言で、激昂したその男性客と僕は揉めたんだ。

まず、僕は何事も『手順』というのを大切にするタイプなんだけど、人にやり返すのすら僕なりの

『手順』というのがある。


イラっとした僕は、その客を不自然に思われないように店外へ連れ出し、いつものやりかえす時の手順通りに痛めつけてやると、その男は「なんでもするからこれ以上はやめてほしい」とすぐに音をあげた。

僕は「なんでもしてくれるの?それならやめてあげてもいいけど」とその男性客に気まぐれで救済の余地を与えるふりをした。

僕の考えたムカつく奴へやりかえす『手順』としては最終的にはあの世へいくので、本当はやめるつもりなんてない。僕が怒ることなんてそうそうないのに怒らせるような事をするから悪い。


すると、その客は必死の表情で「本当か?なんだってやる、明後日帰国予定なんだ。助けてくれ」

と僕に訴えかけてきた。

僕はこれに対してまず「君の荷物が気になるから荷物を見せて欲しい」と言った。

僕が住む街でアジア人の観光客なんて珍しかったしどんな人か興味を持ったんだ。どうせこの男もあの世行きなんだから、最後にどんな奴なのか見てやろうと思ったんだ。


「やり返してごめんね。今思い返したら僕が悪かったよ」

軽く謝るとその男はすぐに持っていたトランクを開けて僕に全部を見せてくれた。


「これでいいか?許してくれ、もうやめてくれ、お金もここに入ってある…


『だから、もう痛い事はやめて欲しい』


僕は人と少し変わったところがあって、こういうことを言われると逆にもっといじめたくなるんだ。

揉めていたという事もあって興奮状態だった僕は、良いことを思いついた。

「確かにお金が必要だからこうして頑張って働いてチップも欲しかったんだけどさ…

僕は故郷で一人なのは退屈で、ずっとどこかに行きたかった。資金が足りないから、色んなところに行くのを試行錯誤して計画を何度も練ってたんだけど、結局僕は僕なりの方法じゃないとダメみたいだね」


「どういう意味だ、荷物は見せたから早く逃してくれないか」

「あのさ、それで僕が許すわけがないじゃん」


店を出たすぐ近くの路地裏はとても狭くて、わざと壁側に追いやるようにその男にじりじりと近づいた。壁に近づくにつれ、男はもう逃げ道がないことに絶望の表情を浮かべていた。

僕はその男に強めに「荷物は僕に全部よこせ」と言うとその男は壁にくっつきながら「わかった、それで許してくれるなら自分の持っているものを『全部をお前に渡す』。悪かった、見逃してくれ」

その言葉を聞いてから僕は手順通りに男にトドメをさすことにした。


「僕の手順通りにやったのに5分19秒も持ったんだ、長かったね…おめでとう」

僕は静かになった路地裏で嫌味を吐き捨て荷物を漁った。

荷物の中にパスポートが入っていたので名前を見てみると姓名が「HIMENO」だった。

僕はずっと故郷で働いているけど、日本人観光客は見かけたことがなかったから不思議な響きだった。


名前の響きに興味を持ったので、僕はスマホを取り出し、「姫野」の文字をカメラでスキャンして読み込み、翻訳アプリにかけてみた。

姫って漢字は意味がPrincessなのってすごいね。名前にプリンセスが入るのってこの国の人にとって当たり前なのか。

僕が生まれた国を治めているのは君主じゃない。


でも僕がやり返したこの日本人のトップには「王族」、つまりプリンセスもいるんだね。

ルーツまでは見なかったけどこの人の先祖は家柄がよかったのかな?

僕はふと、これからこの国に行くとしたらこの名前は良いことが起こるかもしれないなと思った。

僕は初見で怖がられることが多くて困ってたから、親しみやすくて敬われるような、まさに「国の

トップ」のような存在にずっと憧れてたんだ。

これからの僕には「姫野」って名前はぴったりな気がした。


「許してくれるなら全部をお前に渡すって言ってたけど…なら、本当に本名・国籍・素性、全部を僕にくれないかな」

「さっきまではお金目当てだったからそれ以外はどうでもよかったんだけどね、気が変わったよ」

荷物の横で息絶えた物言わぬそれに僕は語りかけた。


僕はその男の荷物を持ち、明後日帰国予定との事だったので急いで手筈を整えようとした。

滞在先のホテル名やビザの有効期限などは入国の時に審査に必要だったのか、トランクの中に

走り書きがあった。

滞在資金も確認したら結構持っていて、健康面のチェックをクリアしているかはあの喧嘩腰の態

度から、「元気すぎるぐらいだ、大丈夫だろ?」と僕は鼻で笑った。


この男が一人で遊覧観光でこの国に来ていたのは本当にラッキーだった。 ただのツーリストで本

当に良かった。ビジネスで来ていたなら、僕はこの時に困っていたかもしれない。

ご丁寧にパートタイムで働いているなど身辺的な情報も荷物の中で見つけて、僕は本当につい

てると思ったよ。

僕用のパスポート、ビザ、そしてなによりこれから日本へ行くために設定付けを考えないといけな

かったからね。



僕は毎日お祈りを欠かさない。「僕たち」が巡り会えた運命と最高の縁に感謝するよ。

感謝の気持ちや敬愛やへりくだることって大切だからね。

僕は怒りで我を見失いそうになったけど、この運命的な出会いで僕が今まで立てていた計画は

全部吹き飛んだ。


これは、「僕の人生」を「誰」が支配しているか再認識するいいチャンスだ。

1日中走り回って色々な手筈を整えようとしたけどすべて準備するにはあまりにも時間が足らず難しかった。「さすがに無理があるのかな」と諦めかけていたけど、よくよく考えたら僕は「入国の審査」ではなく「帰国の審査」じゃないか。

僕は帰国する審査を強引に、そして「手順通り」にすることでどさくさに紛れて日本へ「帰国」する

ことができた。


日本へ到着するまでの間、僕は穏やかな海を眺めながら色々な設定を考えていた。

下の名前をどうしようか考えたりして、これからが楽しみで仕方なかった。

僕は見ての通り外国人だから違和感のないものを考えないとね。

あの時、僕が手を下した「本物の姫野さん」のパスポートの下の名前には黒線を引いた。


僕の名前は姫野、まだ都心には行けずにいるんだけど…

この国でプリンセスなんだ。


面白いと思わない?



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2024.12.28 公開

【第一弾】『僕は3日前、日本人になった』~ とあるシリアルキラーの話 ~ CV:鬼灯馨【オリジナル音声作品】 https://youtu.be/Tl4zfRacQKc?si=d4jqIInIoyQ-JwOL


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クレジット

声の出演


姫野役 / 鬼灯馨

ニュースキャスター役 / ナユキユズ


企画&原案

Markka


イラスト

Markka・こややかわ


ADデザイン

さく


音響

Prefab Sound Design


動画

戸愚呂親戚


ロゴ

れお


BGM

KATYUSHA | Epic Orchestral Remake by Kamikaze Legacy

• KATYUSHA | Epic Orchestral Remake by ...

クラシック音楽アレンジ

ドビュッシー「月の光」

• フリーBGM ドビュッシー  月の光 ♪名探偵コナン「紺青の拳」挿入曲


注意事項

この作品はフィクションです。

名前、登場人物、企業、場所、出来事、事件などは、すべて架空のものであり、実在の人物や出来事との関連性は一切ありません。


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■ 姫野とは?

姫野は「自分にだけ優しいシリアルキラー」というテーマで描かれたキャラクターです。

彼の本名や国籍は明かされておらず、素性は謎に包まれています。

故郷で出会った日本人観光客「姫野さん」の身分を奪い、その名を騙るシリアルキラー。

退屈な現代社会・日本の平穏な日常に潜む、異色の存在です。


■ 姫野プロジェクトとは?

「姫野プロジェクト(通称:姫プロ)」は、架空のシリアルキラー「姫野」を中心に描かれるエンターテイメントであり、創作者集団のことを指します。

さまざまなクリエイターが集まり、一つの世界観を作り上げるコラボレーション企画です。

モキュメンタリー形式で進むこのプロジェクトは、世界観を共有する形で物語が展開していきます。


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「姫野プロジェクト」の今後の展開もお楽しみに!

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