捨てられた一般人は、世界で唯一の魔法蹴士(マギケル)だったようです。

いとう縁凛

1.ウキウキの馬車旅


「勝敗は、狩ってきた獲物の数だからな!!」

 そう言って飛び出した幼馴染みを追って、コリンナも森へ入る。

(わたしがトルちゃんの名誉を守るんだ!!)

 幼馴染みのトルステンは、魔法戦士マギシュラだ。速度上昇の機械魂ストリーゼをブーツに着けている。

(トルちゃんすごい! 速い! 格好いい!)

 コリンナが見惚れている間に、トルステンはさらに森の奥へ行ってしまった。

 トルステンの生活をサポートしているコリンナは、この場所で待機して今夜の献立を考える。

(絶対にトルちゃんが勝つから、トルちゃんが好きな果実水でしょ。それにトルちゃんが好きな豆煮込みスープ、メインは獲ったお肉によるかな)

 トルステンが現在やっている試合は、村でどちらが美男子か優劣を決めるため。コリンナはもちろん、トルステン推しだ。というか、トルステンだけが美男子で、他はジャガイモのようなもの。

(トルちゃん以上に格好いい人なんて、この世にはいないんだから!!)

 この世界には、魔力がある者と僅かな魔力しかない者がいる。コリンナは後者だが、生活に不便はない。前者が注いだ魔力を使う力、機械魂は消耗品だが誰でも使える。

 一方、トルステンのように選ばれし者しかなれない職業がある。

 魔法戦士、魔法技士マギヴェルなど八つの職業につけるということは、その人の魔力の高さを表していた。

 その中でも魔法戦士は、実力だけでなく見た目も考慮される。

(トルちゃんを越えるような人なんていないけどね! あぁ、でもどうしよう。トルちゃんを世界がほっとかないよ!!)

 トルステンを待っている間、有名になった幼馴染みの一番近くで支える自分を妄想したコリンナ。うっかり、戻ってきたトルステンを見逃すところだった。

(まずは鳥が三羽ね。鳥の丸焼きも良いな)

 トルステンが、次の狩りをするために獲物を持って村の広場へ戻っていく。トルステンの頬に魔力型の、Bを視認した。

 この世に生まれた人は、魔力量がどうであれ、A、B、O、ABの四つの魔力型に分けられる。それが表面に見えているということは、傷があるということだ。

(いけない! 妄想している場合じゃなかった!)

 コリンナはすぐに斜めがけ鞄から魔力箱マプットを取り出す。手の平よりも小さいそれは、毎日コリンナがなけなしの魔力で作っているものだ。それをつま先に向けて落とした。

(トルちゃんは真っ直ぐ進むから、ここ!)

 トルステンの歩行速度、身長、木々の間隔など全てのことを考慮して魔力箱をつま先で蹴る。

 抜群のコントロールで飛んでいく魔力箱は、トルステンの頬の傷にぶつかった。その瞬間、トルステンの傷が消える。魔力型を示すBも見えなくなった。

(よし! これでトルちゃんの名誉を守れたぞ!)

 上機嫌でトルステンを追うように森を進んだコリンナは、ざわついている村の広場へ急ぐ。

「どうかしたの?」

「コリンナ! やったじゃん! トル君、DBBHにスカウトされたみたい。さすが、無傷の戦士だね!」

「DBBH?」

 興奮気味の友人によれば、DBBHは、最大手の商社らしい。土地の賃貸や施設の建設、道の整備等々、とにかく住環境を整える事業を扱っているらしい。

 コリンナとトルステンの仲を知っている友人から、結婚式には絶対呼んでねと言われる。気が早いよ、と謙遜しつつ、笑顔で頷く。

 トルステンから話を聞き、村から馬車で十日かかる旅の供に誘われたコリンナは、即時了承する。

 DBBHは寮もあるそうで、トルステンはそこに住むらしい。これからの生活に心を弾ませながら、さながら従者のようにトルステンの世話を焼く。


 十日の馬車旅を経て辿り着いた首都は広く、建物は見上げる首が痛くなるほど大きい。そんな建物の前に来たトルステンは、コリンナに手を伸ばす。首を傾げていると、持っていたトルステンの荷物を取った。

「トルちゃんの部屋まで持っていくよ」

「いや、いい。寮は関係者以外立ち入り禁止だ」

「え、だってわたしは、トルちゃんの」

「幼馴染みだろ、ただの」

 そう言い、トルステンはコリンナに背を向けて建物の中に入っていった。

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