これは逆転の物語
うたたねさん
第1話
これは逆転の物語
うたたね
後に全てを救うことになる八人の少女たちの話をしよう。
一人は漆黒の大望を抱え、
一人は皆の一番の理解者となり、
一人は罪と悪を裁き、
一人は純真無垢に人々を救い、
一人は仲間達の荒んだ心の拠り所となり、
一人は敵も味方も救おうと願い、
一人は世界を救うためなら命を奪うことも厭わず、
そして一人は自分を犠牲にしてでも世界を、皆を救う固い意志を持っていた。
彼女達は皆、住んでいた世界と記憶を失い、とある世界に迷い込んできた迷い子達。これから始まる物語は、八人の少女達が全てを救う物語であり、逆転の物語に至るまでの冒険の過程の物語である。
序章 世界と天使と人間と
並行世界、というものを聞いたことはあるだろうか。私たちが生きている世界とは全く違う世界。唯一共通していることと言えばどの世界にも人間という物は居て、それぞれのコミュニティを通じて生活をしているということ。
では、そんな並行世界が一つ、また一つと消滅していると言うと、キミたちは信じるだろうか。ゲームのデータを消去するときのように、世界はそこに存在しなかったかのように消えていく。しかし新たな世界が生まれることは無い。破壊と創造は表裏一体ではあるが、今この場所で起きているのは創造なき破壊。これを行っているナニカは並行世界全てを破壊しようと企んでいる。
ところで、人類が生活を営む世界とは別に、それを見守り世界を護る天使が住む世界が存在する。人々の最終到達点であり、天国と呼ぶ場所。天使たちはこの場所のことを天界と呼ぶらしい。少し前から、この世界には人間の少女が迷い込むようになった。それ自体は大したことではない。人間たちの魂は、その役目を終えたら天界の世界樹に還る。そして浄化の後あらたな命として芽吹くのだ。つまり人間の魂という物は大体の天使たちは見慣れている物なのである。問題は迷い込んだ人間が肉体を持っていたこと。つまりまだ天界に来るはずではない人間。これは人類史が始まったときから世界を見守っていた彼女らにとって初めてのことであった。
偶然、少女を見つけた天使は聞いた。「お嬢さん、どこから来たの?」
しかし、少女は黙って首を振る。天使は考えた。そりゃあそうか。この子からしてみれば普通に生活していたところ急によく分からない場所にほっぽり出されたということ。そんな場所で話しかけた私は少女の眼にはさぞ不審者に写っていることだろう。いや別にやましいことがあるわけではないけれど。
「何か、ここに来る前のこと。なんでもいい。分からないかな?ご飯食べてた、とか。お昼寝してた、とか。」
少女は首を振る。天使は心の中でため息をついた。困った。この子を帰そうにも生きていた世界が分からなければ帰そうがない。考え込んでいると、少女が口を開いた。
「何も分からない。覚えているのは名前だけ。いや、これももしかしたら私の名前じゃないかも。何も覚えていないから。」
「それでいい。それでいいんだお嬢さん。キミのお名前は?」
少女は少し考えた。しかし天使と眼を合わせ、言う。
「メイジ。」
「よーしメイジちゃん。今からキミを元の世界に帰したい。というのもここはキミがいた場所とは全く違う場所なんだけど、どうかな。お姉さんのことを信じて着いてきてくれるかな?」
メイジちゃんはこくりと頷く。そして天使は少女を連れて帰り、ありとあらゆる手を使って元の世界に帰そうとした。しかし奇妙なことに、メイジが生きていた世界が見当たらない。それだけではなく、メイジという人間が生きていた痕跡も見当たらない。いないんだ。メイジという女の子なんて。私は文献を漁った。そして分かったことが一つ。世界が消えるとき、その世界の情報はバックアップが取られる。そして新たな世界に異常が発覚した時、そのデータを使って巻き戻しを図るらしい。初めて知った。なんせ何万年とこんなことは無かったから。そのデータは一人の適格者の中に保存され、その人間は新たな世界に存在を引き継がれて生きていく。その人間はあらゆる世界の改変の影響を受けず、不思議な能力が芽生えることすらあるらしい。世界を作った人物はこの人間のことを特異点と呼んだ。つまりメイジの住んでいた世界は消えたということだろうか。調べたけどそんな痕跡もなかった。世界が消えた痕跡も、世界が生まれた痕跡も。そしてメイジを一人目として、天界にはこんな少女がたびたび迷い込んでくるようになる。その数五人。そして少女たちは新たな能力にも目覚めていった。例を挙げると、メイジは友好的な可愛い狼をどこからか呼び出すことができる。(彼女はその狼のことをおおかみちゃんと呼んでいるが)。さらに今天界では、謎の勢力から攻撃を受けている。それにより天界の天使八人の内六人は行方不明、残ったのは二人の天使と五人の少女たちだけ。正直に言わせてもらうと、私は今頭を抱えている。天使だけでは天界を守り切れず、少女たちの力も借りている状況。少女たちの家を探すことすらままならない。
安楽椅子に揺られながら考えていると、家の玄関からとんとんとんと音がした。はっとして外を見るととっくに太陽が昇っている。朝、ということは。
「メイジちゃんか。」
普段、メイジちゃんには朝ごはんを私の家まで届けてもらっている。別に楽をしているわけではない。メイジちゃんが「届けますよ!」って言ってくれているから届けてもらっているだけで。決して自堕落な生活をしている悪い大人ではない。
「はいはい、いつもありがとうねメイジちゃ…あああああ?!」
メイジちゃんとおおかみちゃんの、困ったような笑顔。二人の背にはどこからどう見ても二人の少女が背負われていた。
失われた楽園のことを失楽園という言葉で表すことがある。これから始まる物語にはそんな言葉がふさわしい。始まりは二人の少女がとある世界、天界に迷い込んだことから、長く憂鬱な物語は始まった。
第一章 これは失楽の物語
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