忘れられた約束

五条理々

第1話 記憶の中の彼

私の学校には、西村亮という名前の男子がいる。誰もが彼を知っているし、憧れている。だが、私は彼にまったく興味がなかった。むしろ、いつも冷たい目で周囲を見下ろしている彼に、少しだけ苦手意識を持っていた。


「こんなに完璧で冷徹な人間がいるんだ…」


初めて彼を見たのは、2年前の春。新学期が始まったばかりで、私はまだ転校生だった。その日、教室に入ると、誰もが一斉にそちらを向いた。


西村亮。その目を見た瞬間、私は強く引き寄せられるような感覚を覚えた。だが、それは一瞬のことだった。彼は私を無視して、別の方向を見ていた。


「…なんでだろう。あの目、どこかで見た気がする」


それからというもの、私は西村亮が気になりだした。だが、どんなに見ても彼の目は私をまったく見なかった。まるで他人のように、私が透明人間のように扱われる日々が続いた。


そして、今日。放課後、私は図書室でひとり、本を探していた。その時、背後から声がかかった。


「お前、ずっと図書室にいるな」


振り向くと、そこには予想外の人物が立っていた。西村亮。


「…え?」


私が驚いた表情を見せると、彼は少しだけ面倒くさそうに眉をひそめた。


「…やっぱり、普通に反応するんだな」


西村亮は私に向かって一歩近づくと、手に持っていた本を差し出した。


「これ、借りてくれ」


私はその本を受け取りながら、何も言わずに黙っていた。なぜか、彼が私に話しかけてくるなんて、信じられなかったからだ。


「…これ、あんたのじゃないけど?」


「いいから、読んでみろ。感想を聞かせろ」


その瞬間、私は彼の目を見た。目の奥に、確かにかつて見たようなものを感じ取った。焦燥。切実さ。まるで、私に何かを伝えたくて仕方ないかのような瞳だった。


「…わかった」


私はしばらく考えた後、彼の目をしっかりと見返した。


「でも、どうして私に?」


「別に、理由なんてない」


西村亮は言い訳のように言ったが、私はその声に少しだけ違和感を覚えた。だが、言葉にできないその感覚を私はしばらく自分の胸の中で抱えていた。


彼が去った後、私は本を開いた。その本は、決して普通の本ではなかった。ページをめくるたび、何かが私の心に響く。それは、私がかつて覚えているような感情だった。


それは、彼がかつて私に語りかけたような気がした。ただし、それは夢の中で、過去の記憶の中で…。


「…この本、どこかで見たことがある」


気がつけば、私は本の中に引き込まれていた。そして、少しずつ思い出す。彼と私は、何か深い繋がりがあることに気づく。


「西村亮…あなたとの関係は、ただの偶然じゃない気がする」

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忘れられた約束 五条理々 @riri_gojo

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