中編 私いや……僕、俺に惚れちゃったのかな!?

「お~い、けんすけくん待った? 」


 長い黒髪を冷たいクリスマスの夜風になびかせる少女は俺に向かってそう言った。

 その少女は、ウエディングドレスのような純白の衣装で身を包み、黒色の小さなバックを肩からかけ、小走りでこっちに駆け寄ってくる。


「――ッ! まじか……。あぁ、いや……。ぜんぜん待ってないヨ」

「そっか。よかったぁ。それじゃあ、けんすけくん行こっか」

「あ、あぁ」


 俺の名前は伊藤健介いとうけんすけ。年齢=彼女いない歴の俺は、クリスマスの今日、クリぼっちを回避しようとある作戦を実行中なのだが……。まじか……。あいつ……。


「ん? どうかした? 」

「あっ! いや、なんでもないヨ……」



 ““じゃなくて!!!””



「――キャッ! いきなり壁ドンだなんて……」


 おい! そんな声を出されるとこっちが悪いことをしているような気持ちになるのだが……!それにしても、なんでこんな声を出せるんだか。女の子そのものじゃないか。いつもの声とのギャップがヤバい。

 おい! やめろ! そんな目でこっちを見るな。……そして、諦めたように目をつむり……って! 違う違う! お前、マジでやめろ!


「いや、ちち、ちがう……じゃなくて、お前やり過ぎだろ」

「え? なにが!? 」

「いや、その、なんていうか。ほら、話は聞いてたけど、ここまでとは思わなくて、なんかな」

「いやだって、やるからには本気でって言ったじゃん」

「それはそうなんだけど、ここまで本格的とは思わなくて……。ほら、こんなに本格的だと他の人にバレたらヤバいだろ。下手すれば人生終了しかねない……」

「そんなの覚悟の上だよ。っていうか本格的だろうがどうだろうが、バレたら人生終了には変わりないんだし……。」


 まぁ、それもそっか。


「――あ、分かった。私が思ったよりもずっと可愛すぎて惚れちゃいそうになったんでしょ。そりゃ、私いや……僕に惚れたらいろいろとヤバいもんね」

「いや、 んな訳……」

「あ、図星かな? 」


 くぅ! 手玉にずっととられてるようで悔しいが。あいつに非は全くない。

 直前になって怖じ気づくなっていといて、俺の方が怖じ気づいてしまっただけで、こいつが悔しいが正しい。

 ここまで来たら作戦続行だ。


「はぁ、降参だ。なんでもない。お前がやっぱ正しいわ。それじゃあ、作戦続行するか」

「うん。そうしよ! 」


「あ~、そうだ。お前のことなんて呼べば良い? お前呼びで良いか?」

「いや、お前って呼ばれるのなんか嫌だし、ひなって呼んで」

「ひな、ね」


 ひなたからたを取ってひなってか? なんとも安直だが、悪くない。


「じゃあ、行くか、ひな! 」

「うん、頑張ろうね!」

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