【続】のっぺらぼうの、お正月!

崔 梨遙(再)

1話完結:1300字

 京本暇太(きょうも と ひまだ)は40代のサラリーマン。嫁も恋人もいない、寂しいサラリーマンだった。しかし、昨年のお正月、公園で女性の“のっぺらぼう”と出会い、スグにのっぺらぼうと結婚した。それから1年、暇太は幸せな新婚生活を過ごしていた。そして正月、結婚してから1周年の記念日を迎えた。


「紡(つむぎ)、結婚してから1年経ったな」

「どうでした? 暇太さんにとって幸せな1年でしたか?」

「紡のおかげで幸せな1年やったで。僕、こういう暖かい家庭に憧れていたから」

「私も最高に幸せな1年でした。私も暖かい家庭を持ちたかったんです」

「お互いに幸せなら、これで良かったんやな」

「そうですね。それに、暇太さんは浮気はしないんですね」

「浮気をする理由が無いやんか。紡が毎晩相手をしてくれるから、いつもスッキリしてるし。紡との営みには満足してるし」

「顔の無い女を抱いて楽しいですか?」

「うん、楽しいよ。というか嬉しい。顔が無いとか、気にしたらアカンで。僕は紡が嫁で満足してるんやから」

「あら、ありがとうございます」

「お正月と言えば、お年玉やな」

「お年玉?」

「明日から2泊3日で温泉旅行やで!」


 暇太は旅行のパンフレットをテーブルの上に広げた。


「わあ! 嬉しい」

「庭に小さな露天風呂がついてる部屋を予約しているから、のっぺらぼうの姿でも温泉に入れるようになってるねん。でも、大浴場では顔を作らないとアカンけど」

「ありがとうございます! 最高です!」

「それから、これ」

「なんですか? この小箱は。あ、スゴイ! 指輪ですね! 石が大きい!」

「結婚指輪はお互いに左の薬指につけてるけど、よく考えたら婚約指輪を渡していなかったことに気付いたんや」

「ありがとうございます」

「ええねん、僕、4月から課長になるねん。給料がアップするで」

「おめでとうございます。良かったですね」

「ところで、式と披露宴は辞めたけど、ウエディングドレス姿の写真だけでも撮っておくか? やっぱり写真で残しておきたいやろ?」

「ですが、どの顔で映ればいいのか? わかりません」

「そうやなぁ、ほな、“この顔で撮る”と決まったら言ってくれ」

「はい、その時は言います」

「温泉旅行とこの指輪がお年玉ということでええかな?」

「じゃあ、私からもお年玉を渡しますね」

「お年玉? 何?」


 紡は少し大きめの壷を持って来た。壷の中身を床にぶちまけた。それは沢山の大判や小判だった。幾らくらいの価値があるのだろう? わからない。かなりの金額になりそうだ。


「私、江戸時代くらいから生きていますので、結構貯金はあるんですよ。これ、私から暇太さんへのお年玉です」

「いやいや、もらい過ぎやって」

「いいじゃないですか、2人で話し合って使い道を決めたらいいんですよ」

「じゃあ、2人の財産ということで」

「そうですね、では、そういうことで」

「なんだか、僕の方がお年玉をもらい過ぎてるような気がするなぁ」

「そんなことないですよ! 私、最高のお年玉をもらっています」

「最高のお年玉って何?」

「私、赤ちゃんを授かったんです!」



「いやいや、それは僕にとっても最高のお年玉やで!」







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