第7話
遡ること、数時間前。
◇◇◇◇
コンビニのガラス張りの一面から差し込む太陽光は徐々に少なくなり、不自然なほどに白く照り輝くLEDの街灯だけが差し込む時間帯。
そんな外では仕事帰りのサラリーマンや学校帰りの学生が行き交い、街中をやや外れている場所に位置しているこのコンビニにもお客さんがひっきりなしに入っては出ていく稼ぎ時。
ここ、裏の休憩室で作業をしていてもアルバイトさんたちの声が聞こえてくるほどに店内は慌ただしいものとなっていた。
「……ど、どう、どうしたらいいですかね?」
そんな中、唯一頼れる休憩中の村坂さんに私は昨日の出来事を赤裸々に打ち明けていた。
「へぇ……小山内君か、そうかぁ」
「っん」
固唾を呑み込み、村坂さんの唇を見つめる。
27歳。
アラサーという年齢になってもこういうことでくよくよ悩んでいる自分が嫌なのは確かだけど、それはそれとしてこの機会は捨てたくはない。
そういった気持ちで
神妙な面持ちで聞いていてくれた村坂さんはついに、その唇がピクリと動かし呟いた。
「……羨ましい」
「へ?」
何か、先駆者としての大きなアドバイスを頂けると思って待っていると返ってきた言葉は私の方をまっすぐキラキラした様子で見つめてくるその瞳の理由を説明するものだった。
気がつけばさっきまでの神妙な面持ちは消え、どこか笑みを含んでいる。
あれ?
そう思った直後。
村坂さんはテーブルを挟んで前のめりに倒れて私が座る方へと身を乗り出し、冷え性によって冷たくなった私の両手をがっしりと包み込む。
「あ、え?」
「和奏ちゃん! なにその、羨ましい展開は‼」
「は、はい?」
「コンビニでレジ打ちしてたら、やってきたのは疎遠になっていた幼馴染で、最初はまったく気が付かなかったけど気づいたきっかけが昔和奏ちゃんを助けてくれた時についた傷で?」
「え、ちょ」
「それで、声掛けたら相手も気づいてくれて、帰りは家まで送ってくれて、さりげなく道路側を歩いてくれて、和奏ちゃんのこともしっかりと考えてくれたと!」
「わ、私、そんな細かいところまで言って――」
「もちろん、女の勘よ」
「は、へ?」
私の手を握り、そして逃がさまいと力を込めながら彼女はにやりと笑みを見せる。
言われなくても分かる、私はどうやら嵌められたらしい。
勿論、意味わからずに声が漏れるとさらに身を乗り出して村坂さんは心底楽しそうな笑みを漏らしながら訊いてきた。
「でもどうかしら、図星じゃないの?」
「べ、別……別にっ」
もちろん図星だ。
というかそのために相談をしたんだから図星じゃなくてはおかしい状況ではあった。
ただ、これでも27歳。
自分がどれだけ馬鹿らしいことで悩んでいるのかくらいは分かっているつもりだ。そのせいもあり、私自身のプライドと言うか見栄? か何かがそれを認めることを邪魔していた。
「あらぁ? その割に、顔は真っ赤だけど?」
「い、いつものことですよ、寒いですし……」
「へぇ、そっかそっか。だってカッコ良かったんだもんね、彼。そうなんでしょ? スラッとしててイケメンで、仕事もできそうで……何より大人っぽい感じ?」
「うひゃ、そんなことまで私言ってないでs—―」
「あら、やっぱり」
「—―あ、あぁ」
そうして二度目、私はまたもや嵌められた。
「そ、そうですよ。そうですよ。私は久々に再会した幼馴染の男の子が気になってる年甲斐もない幼稚女ですよ~~。もぅ」
どつぼにどぼんとハマってした私は逃げることもできず、不貞腐れて唇を窄めていると村坂さんが愛おしそうに呟いた。
「いいじゃん~~別に! すっごく可愛いし、青春じゃないの!」
「か、かわ――って」
「ほら、いつもアピールしてくるあのオーナーよりいいでしょ? それにあんなに男っ気感じさせなかった和奏ちゃんに春がやってきた! 私はそれだけで応援しちゃう!」
「は、春って……そこまでじゃ、ないと思うんですけどね」
いい大人になってなんて馬鹿らしい心配事を。なんていう恥ずかしさは村坂さんの唐突な熱意と情熱に焼かれてしまい、どこかに行ってしまう。
そして、拍子抜けした感じだけが残り、それもどこかむず痒くて頬をカリカリと掻く。
「いやいや、春ね、青春ねっ! 私は応援してるわ、絶対に彼をものにしなさい?」
「も、もも、ものって――――――できます、かね?」
いつの間にか予防線のように張っていた見栄を忘れ、胸の内に抱いていた不安を漏らす。
そんな不安に対して村坂さんはサムズアップし、お姉さんの大人びた微笑みを見せる。
「とにかく、連絡先聞き忘れたって話なのよね?」
「まぁ、はいっ……このままじゃ、会えないかもと思っていて」
そうして話は本題へと戻る。
何よりそこについてだ。あんなに偉そうに「やり直したい」なんか言っておいて、連絡手段が全くないことが一番ダメで意味がない。
むしろ、あの頃みたいにこういう勘違いからまたあんな風になることだってある。
しかし、そんな私のぐずぐずした不安に対して村坂さんは狂いのないハッキリとした言葉でこう言った。
「大丈夫。安心しなさい」
「安心って、でも連絡手段がないんじゃ――」
「じゃあ質問。その彼は昨日、嫌そうにしてたかしら?」
「え?」
嫌そうに?
どうしてそんな質問をするんだ。と考えながら首を横に振る。
「むしろ、私のことを考えてくれたというか……怖いくらいに優しいくらいで」
私が原因を作ったのに、何食わぬ顔で考えてくれて。
嫌なくらいにそれがカッコよく感じて。
「それなら、大丈夫ね」
「えっ」
ただ、やはり私の心配はよそに村坂さんは豪語する。
「でも」
「いいから大丈夫! 彼は来るわ絶対にねっ!」
「それは――でも」
「はいはいっ。大丈夫だから、気にしないでほら仕事するわよ‼‼」
「えっ、ちょまだ話が!」
渦巻く不安をまるで気にしない彼女は椅子から立ち上がり、私の背中をグッと押して表へ出させていく。戸惑ってまだ話の先が見えない私も、さすがにお客さんが待っていると対応しないわけにもいかずに不安を抱えたまま仕事に戻ることになった。
「村坂さんは一体何を……い、いらっしゃいませ~~」
それにしても、今の私はちゃんと接客用笑顔をできているだろうか。
そんな不安もプラスアルファで乗っかった。
◇◇◇◇
「へっ、あ、いやその……自分はなんというかその、小山内ではあるんですけどもぉ……」
コンビニの前。
おそらく店員の方に名前を言い当てられて内心焦っていた。
「あなたがそう、小山内君ね。案外ふつうなのね……ま、いいかしら」
「え、ふつう? ちょっ、俺は別に怪しい者なんかじゃっ」
「そう? コンビニの前で立ち止まって地団太踏んでたら十分怪しいけどねぇ~~」
「あ、まぁ……確かに」
まずい。
言い返せない。むしろ、彼女の言う通りすぎて辛い。
しかし、何か言い返さないとこのまま警察を呼ばれて詰む未来だけはなんとか食い止めないといけない一心で首を横に振ってアピールする。
「って、違うんですよ! ほんとに! 俺はそのですね」
挽回しなければ。
一つ選択肢を間違えるとバッドエンドルートに入る美少女ゲーみたいに、俺の人生もエンドルートに入ってしまう。
というか、コンビニの前で屯してて不審者扱いで捕まるとか親に顔見せられない。
一人で俺のこと育ててくれたお袋に見せる顔がなくなってしまう。
そうして、慌てて始めた釈明をコンビニ店員さんは軽く流すように呟いた。
「—―和奏ちゃんに会いに来たのよね?」
「それがその――はい?」
「だから、和奏ちゃんに会いに来たのよね? ほら、店長の可愛い女の子に」
「かわいい、オンナノコ、わかなちゃん……?」
そして、唐突のネタバレに俺は言葉を失った。
「そうそう、和奏ちゃん、そうでしょ?」
「あ、は、はいっ。和奏に会いに……え?」
「知ってるのよ私、ほら」
そう言ってサムズアップ。
「—―は、
彼女が振り返って背中を向けるとコンビニの方から慌てて出てきたのか息を絶え絶えにしている渦中の和奏がそこに立っていた。
「和奏……」
コンビニの制服に、五十嵐表記の名札。
昨日は降ろしっぱなしにしていた綺麗な亜栗色の髪の毛は後ろで結われ、大人しいポニーテールへと変貌していた。
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