第38話 良い男は世界に愛を振りまく

 宴会は子豚の丸焼きを始め、料理はスペシャルに豪華だ、俺の巫女の手作りだぜ、マズいはずがあるものか。


 腹がはち切れるまで食べてしまった、しまった、これじゃ下痢をしてしまう、セーブするべきだったな、パンツを汚しちゃうよ。

 おしっこを超えて汚いものだから、〈さっちん〉は洗ってくるか、すごく心配になる。


 自分でこっそり洗うしかないだろう、運のつきだ。


 お酒は、ふざけた〈ハッチ〉が俺に口移しで飲ませてきたから、後の三人も真似をしてさ。

 断る訳にもいかなくてさ、さんざん飲まさせてしまったよ。

 もうお酒は当分飲まないぞ、例えキスが付随してもだ、コリコリじゃなくてコリゴリなんだ。


 俺は完全に酔っぱらって、前後不覚に陥っていたらしい、頭はガンガンと鳴るし良く覚えていないな。


 喉の渇きを覚えて起きれば、ド、ドン、ドドン、ドーンと四人の巫女全員が、素っ裸で緑の草の上で眠り込んでいるじゃないか。


 壮観だけど、どうなんだろう。

 あまりよろしくない事が起こったらしい、俺も裸ん坊だからな。


 昔見た女子プロゴルファーを題材にしたAVに酷似している、無理がある設定だと思った覚えがある。


 このままにして風邪を引いてもいけないから、おっぱいか、お尻をムギュとして起こしてあげた。

 仰向けがおっぱいで、うつ伏せなのがお尻となる。


 四人は「おはよう」「おはようございます」と一応挨拶をしてくれたけど、フラフラと自分の神殿へ帰っていった。

 ただ俺はどこへ帰っていけば良いんだろう。


 俺は〈さっちん〉の神殿に帰ることにした、一応嫁だからな。

 〈さっちん〉は体に草の汁でもついていたのか、朝風呂に入っていた、噂の露天風呂だ。


 「〈さっちん〉、お邪魔するよ」


 「うん、入ってよ。 あったまってね」


 俺と〈さっちん〉は、昨日なぜ裸になってしまったかについて、話し合わなかった、覚えていないのが正解だろう。

 代りに今後何をするのかを話あってみた、もちろん、おっぱいをモミモミしながらだ。


 目の前に浮いているのだから、無視をする訳にはいかないんだ、遺憾だけど。


 「はぁ、〈よっしー〉は。 触っても良いけど、夜まで相手はしないわよ」


 「これは癖だから別に良いよ。 風呂から上がったら、一度現世を偵察してくるよ」


 「〈癖と別に〉って、私の胸に失礼だわ。 ただ気を付けて行ってくるのよ。 〈よっしー〉は抜けているところが多いんだからね。 私は他の巫女達と情報交換をしてみるわ」


 「えぇー、みんなで俺の悪口を言ったりしないよね」


 「うふふっ、それはどうかな。 普段の行いが良いなら心配はいらないね」


 ちくしょうめ、それが悪いから聞いているんじゃないか、〈さっちん〉は悪い嫁になってしまったな、悲しいよ。


 「これ以上触られたら、その気になってしまうから、もう上がりましょう」


 〈さっちん〉がザバンと大きなお尻を俺に向けて、風呂から上がってしまったから、ひょこひょことそのお尻についていった、ひょこひょことなったのは、朝の生理現象のせいなんだ。


 「現世に行く前に、朝ご飯を作ってあげるわ。 お味噌汁と目ざしと納豆で良いでしょう」


 「はい、よろしくお願いします」


 現世に行こうと思い、鋭い刃物で空間を切ろうとしたら、オレンジの線が一杯あるぞ。

 はて、どうして一杯あるんだ、それにどれを切れば良いのか、まるで見当がつかないや。


 悩んでいてもしょうがないので、一番濃い線を切ってみる、どうやら正解だったらしい、外の世界には、のどかな田園が広がっていた。

 幌付きのトラックは、ニンジン畑に用事があったようだ、運転者がいない間に降りてしまおう。


 しばらく田舎の道を進むと、ポツンと一軒の田舎らしい家が見えてきた。

 ここで聞き込みをするか、他に出来そうな所は見当たらないし。


 「こんにちは。 お留守ですか」


 玄関口で声をかけてみる、呼び鈴って言うのか、呼出ブザーがどこにも無いんだ。


 「おるよ。 あんたは誰じゃね」


 「俺は、オレだよ。 孫の〈ヨシキ〉じゃないか、顔を忘れたのか、〈糸〉ばあちゃん」


 表札に、〈絹川 糸〉と〈絹川 源蔵〉って書いてあったんだ。


 「ほぉ、そうだったかの。 孫が三十人いるんで、覚えきれねぇんだ」


 「はぁ、すごいね。 源蔵おじいちゃんにも、挨拶をしたいんだ」


 「おぉ、そうしてやってくれるかぁ。早くお上がりよ」


 家に中に入った俺は、立派な仏壇の前に案内された、源蔵おじいちゃんはすでに亡くなっているんだな。

 線香に火をつけて、チーンとして、両手を合わせて拝んでみた、俺には神様がいるみたいだけど、気にしたら負けがそこで決まってしまう。


 相互の信仰を尊重して、平和を目指そう、源蔵おじいちゃんも、きっとそう思っているはずだ。


 「仏壇を拝んでくれたお人は、かれこれ十年ぶりだ。 ありがてぇことだぁ」


 「そんな、孫として当然です」


 「お茶でも飲むか。茶請けは漬物しかねぇが良いかぁ」


 「はい、喜んで」


 お茶はかなり渋くて、漬物はとても塩辛かった、昭和だな、明治かも知れない、こうでなければ日持ちがしないのだろう。

 源蔵おじいちゃんは、塩分の摂り過ぎで高血圧症だったかもしれないな。


 「〈糸〉ばあちゃん、テレビをつけても良い。 ニュースが見たいんだ」


 「えぇぞ」


 ニュースを一通り見ても、〈いかい生活研究所〉のことは取り上げられては無かった。


 相変わらず芸能人の不倫を糾弾していただけだ、お茶の間のお年寄りと一緒に、俺も激しい怒りを覚える、不倫はやっちゃいけない、相手を傷つけてしまんだぞ。

 どうして一人だけを愛し続けられないんだ、んー、んー、んー、俺は何人だ、四人もいるよ。


 考え方を変えよう、昔の考えに凝り固まっていたから、日本は世界から遅れてしまったんだぞ。

 良い男は世界に愛を振りまく存在なんだ、俺もそうなんだろう、目をつぶって良い男ってことにしておいてくれ。

 巫女となったせいもあり、みんな傷ついていない感じだから、何も問題はないと信じたい。


 「〈糸〉ばあちゃん、浮気は男の甲斐性だね」


 「はっはっ、ばあちゃんは、ジジイの玉をガギッと噛んでやったぞ。 ぴぃぴぃ泣き叫んで、笑えたなぁ。 ほんに懐かしいのぉ」


 「ひぇー、嘘だろう。 急所だよ。 聞いているだけ痛くなるよ」


 「はっはっ、おめぇに嫁子はいるんかぁ」


 「いるよ。 〈さくら〉って言うんだ」


 「〈さくら〉ってか、良い名だぁ。 親御さんが春を思いつけたんだなぁ」


 春は春でも、売春の春だと思う、トドママは〈さっちん〉を風俗に売ろうとしてたからな。

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