第19話 日本語表示は止めて

 いやらしく交合こうごうしている神様、液体以外は、どうか何も出さないでください、お祈りいたします。

 神像から液体が出たら、それはそれで怖いけどな。


 だけど俺のお祈りは、何の効果も無かった、きっとふざけ過ぎていたからだろう。


 「使徒様、来ます。 呪いのわら人形です」


 〈アッコ〉が鋭く叫んで、教えてくれるが、ただ怖いだけです。

 呪われたらどうするんだよ。


 呪いの藁人形は、薄い茶色で五十cmもある大きなものだった。

 当たり前だけど、手も足も頭も、全てを藁で編んである、胸の部分には白い布が張ってある。


 〈ひろぞう〉〈ためごろう〉〈とき〉〈いなこ〉


 うわぁ、呪う相手の名前なんだ、具体的な昔の名前が書いてあるのが、リアルでぞっとする。

 俺のメンタルをけずるためなんだろうが、日本語表示は止めてよ、せめて英語でお願いします、読めないからね。


 「張ります。 神秘術〈守りの帳〉」


 呪いの藁人形と戦士団の間に、半透明のカーテンみたいのが現れて、藁人形から繰り出される藁のムチを防いでいるぞ。


 おぉ、神秘術〈守りの帳〉って言うのは、半透明の防御幕ぼうぎょまくを張るものなのか。

 すごいぞ、〈アッコ〉、やるじゃん。


 股の膜は無くなったが、こんな立派な幕が張れるなんて、よく成長したな。

 おっぱいの大きさに変化はないが、それでも素晴らしいことだ。


 「使徒様、〈守りの帳〉がある間に、最前線へお進みくだされ」


 長が苦み走にがみばしたった真剣な顔で、イケオジでも無いのに、無茶を言ってきた。


 「えぇー、嘘だろう。 使徒なのに最前線なのか。 俺は偉いんじゃないの」


 「はっ、呪いの藁人形は、使徒様でないと解呪かいじゅ出来ないのです。 さあさあ、前に行きましょう」


 長は俺の手を強引に引っ張って、〈アッコ〉は背中を押している。

 俺はつんのめるように、前へ前へと進んでしまう。

 俺は状況の急激な変化に、頭がついていけてない。


 何も抵抗が出来ないまま、流されてしまったんだ、なんにでも流されるは俺の悪いくせだ。

 せめて手を握るのは、〈アッコ〉でいて欲しかったな、じいさんの手はゴツゴツしている。


 「使徒様、その聖なる釘で、呪いの藁人形の真ん中を突き刺してください」


 俺は最前線へ連れて行かれて、目の前には三十体くらいの藁人形が、ずらっと並んでやがる。

 恐過ぎて俺はチビッてしまった、股間がベショベショでとても気持ち悪い。


 「使徒様、早く、早く。 〈守りの帳〉を、長くたもつ事はまだ出来ないのです」


 〈アッコ〉が少しイラついた声をかけてくる。

 あの時は早いですけど、それ以外の事はグズなんです、急かしたら上手く突けないと思いますよ。


 違うところを刺しちゃう。


 俺はしょうがないので、聖なる釘と過大に評価された、錆びた釘付きの棒を、エイヤと突いた。

 当然だけど、真ん中には当たらなかった。


 うっ、かすからだよ、自分のタイミングじゃないもん。


 長と〈アッコ〉の「はぁー」という溜息が、とても心にくる、勝手に期待するは止めて。

 大変迷惑です。


 「使徒様、下手くそなのは、回数でおぎなえばいいのです」


 〈アッコ〉がはげましてくれるけど、何のことを言っているのか、両方のことじゃないよな。


 俺はしょうがないので、〈アッコ〉の言う通りに、藁人形を突きまくった。

 〈守りの帳〉に突き当たり、動きを止めているので、よくねらえば何とかなりそうだ。


 「ぜひぃ、ぜひぃ」


 突き疲れて肩で息をしているが、俺は何体かの真ん中を突くことが出来た。

 突かれた藁人形は、陽炎かげろうのようになりけて消えていく。


 目も鼻も口も無いのに、笑ってように見えて、またぞっとする。

 

 まさか。


 〈ひろぞう〉〈ためごろう〉〈とき〉〈いなこ〉


 呪われた方々への呪いが、達成したんじゃないよな、俺がしたんじゃないよ。

 不可抗力なんだ、俺に罪は無い、ごめんなさい。


 「痛って」


 藁人形の藁のムチが、俺の手を叩いた。


 人形の手の先から伸びた縄状なわじょうのものが、俺達へ向かって、無数にはなたれている。

 ヤバいな、〈アッコ〉の神秘術が切れてしまっているぞ。

 これほど多くのムチを、わしきるなんて出来ない。


 だけど、あまり痛くないな、藁だからだろう。


 でも俺の直ぐ横にいた戦士は、顔をたたかれて、血を流しながらドッと倒れていくのが見えた。

 藁だからとバカにしていたが、どうも俺以外には、かなり有効な攻撃らしい。


 こっちは槍だけだから、射程が長い武器で攻撃されれば、一方的な展開になってしまうぞ。

 予想通り、その後はバタバタと、戦士達が藁のムチのやられ出した、俺の体にも次々と襲いかかってくる。


 ただ、俺は少し痛いだけだ、戦士との差はなぜなんだろう。


 「おぉ、使徒様はやはりさすがです。 神秘術〈蠢く鱗うごめく〉を会得えとくされているのですね。 その可能性にけて武具はつけていただかなかったのです。 〈蠢く鱗〉の邪魔になると伝承でんしょうされています」


 長が俺の後ろに隠れながら、褒めてくれるが、黙って俺の命を賭けるんじゃない。

 それに輪をかけて、使徒様を盾にするってどういう事だ、このバチ当たりが。


 それにしても、〈蠢く鱗〉か。


 皮膚が硬い鱗状になって、身を守ってくれるって事か。

 便利そうだけど、蠢くっていうのが、かなり気持ち悪いぞ。

 活発な寄生虫を、皮膚の下に飼っているようで嫌になる。


 「すみません。 私の神秘術は、使徒様との交合時間がまだ少なくて、あまり持たないのです。 次はもっと短くなりますが、もう一度かけます」

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