第18話 〈多角回廊〉への侵攻

 結果は良好だった、〈アッコ〉はもう泣いていない、クスクスと俺の体の下で笑っている。

 俺がヘタだから、笑っているんじゃないよな、とても不安になってしまいます。


 「〈アッコ〉は、美人で良い女だ」


 「うふふっ、そんな事はないですよ。 でも、もっと言って」


 「〈アッコ〉は、綺麗でそそる体をしているよ」


 「んう、もう。 使徒様はいやらしいです。 うふふっ、私の事を気に入っているのですね」


 「そうだよ。 絶対に離さない」


 「うふ、ずっと離さないで欲しいです。 でも今は離してください。 準備が整ったので、〈多角回廊たかくかいろう〉にこれから侵攻しんこうするんです」


 「えっ、信仰って、神殿だからなの」


 全く違っておりました、神殿の奥にぽっかりと空いていた洞窟が、〈多角回廊〉らしいです。


 〈アッコ〉は質問にほとんど答えないまま、バッと俺を押しのけ素早く服を着てから、神殿の外へ駆け出していった。

 あっ、おまたから俺が出したものが、太ももにれているじゃないか。

 せめてそれをいてから行ってくれよ、生臭くて恥かしくないのか。


 それほど急いで何をしようって言うんだ、嫌な予感がヒリヒリとしてくる。


 〈アッコ〉が連れて帰ってきたのは、おさを指揮官とする百人程度の〈イヨセカ国〉戦士の集団だ。


 うそだろう。

 戦争でも、おっぱじめようとしているのか。


 戦士は俺の事を、うやうやしく見ているが、五人ほどの若い戦士が挑発的な目で見てやがる。

 俺は使徒様と呼ばれているが、それに反発している人もいるらしい。


 これは、ちょっと危ういな、神殿の外には出ない方が良いのかも知れない。


 「ほほっ、使徒様。 いよいよ〈多角回廊〉の侵攻が始まります。 私は武者震むしゃぶるいが止まりませんぞ」


 長がすごく張り切っているのが、超絶ウザい。

 鉄で作った簡単なかぶとと、腰までのよろいを装着しているのが、かなり嫌になる。


 本格的な武装じゃないですか、手には長い槍まで持っているし。


 「はぁ、侵攻って何だ」


 「そのままです。 使徒様に下げ渡して頂いた資源を、魔鋳造まちゅうぞうし武装がこの通りととのいました。 後はガンガン進むだけです」


 魔鋳造ってなんですか、猫でも食べられそうにありませんね。

 俺が異界へ運んだ不用品が、どうして兜や鎧になるんだ、おかしいだろうが。


 「使徒様、ご心配は不要です。 真の巫女である〈アココ〉が、神秘術で必ずお守りします」


 「えっ、〈アッコ〉は神秘術なんてものが使えるの」


 ここは異界なんだろうけど、神秘的な術が使えるなんて、ファンタジー過ぎる。


 「えぇ、使えますとも。 三回だけですが、使徒様の精を撃ち込まれましたので、〈守りのとばり〉が三回使用出来るのですよ。 うふふっ」


 えぇっと、やったのは三回だったかな、覚えていないな。


 「それでも、戦闘には参加したくない。 俺は平和の方が向いているんだ」


 断固言だんこいってやろう、俺は泣き寝入りしないで、ちゃんと主張が出来る男なんだ、今言わないでいつ言うんだと思う。


 「うぅ、やはり使徒様は、私を捨てられるのですね。 もう私を抱きたくは無いのですね。 とても悲しくて、私は死んじゃいます」


 〈アッコ〉がポロポロと涙を流すもんだから、俺はつい「うん」と言ってしまった。

 決してスケベ心が勝った訳じゃないぞ、嬉しそうに笑う〈アッコ〉が見たかっただけだ。


 この侵攻が終わったら、色々とエッチなサービスをしてもらおう。

 俺は、〈アッコ〉へ親指を立てて、サムズアップをしてあげた。

 当然ながら親指は、あそこを見立てている、俺のはっているって事を表現したんだ。

 現実では無い理想だけどな、夢を見てもいいじゃないか。


 〈アッコ〉はヘッという感じの素の顔になっている、そんな、俺の意図は何も伝わっていないらしい。


 落ち込んでいる俺は、手を長に引っ張られ、〈アッコ〉に背中を押されて、〈多角回廊〉の方へ進まされている。

 逃げるかと思い、後ろを見たら、戦士集団に逃げ場をふさがれてしまっているじゃないか。


 せめてものお慈悲じひだ、長と〈アッコ〉の役割は変わってくれよ。

 戦士集団の半分は、俺達の前に展開しているのが救いだ、しっかりと俺をガードするんだぞ。


 〈多角回廊〉に出る敵は、どんなヤツか知らないが、前面の戦士集団がやられる前に逃げよう。


 俺はそう心に固く誓う。


 ただ俺が持たされている武器がおかしい、棒の先にでっかいくぎがついているんだ、それもび錆びだ。

 この釘は、〈さっちん〉の高校から引き取った、不用品の中にあったものだな。


 どうして俺のは槍じゃないんだよ、錆びた釘になんの意味があるんだろう。


 ありうる事だけど、あそこの大きさに合わせているんじゃないよな。

 そうなら俺はキレて帰らせていただきます、例えそれが真実であっても、真っ向から否定したい、違うと言い張るぞ。

 それが俺の生き方だ、アレがおっきいのなら、こんな事にこだわりません、あなたも、小さい人は皆そうでしょう。


 それに兜や鎧が俺には支給されていない、丸腰だよ、かなり心配になる。


 〈多角回廊〉と呼ばれる洞窟の中は、ぼんやりと薄暗い、未知の穴だよ。

 天井も床も壁も、全てが石を組み合わせたもので、出来ている。


 頑丈そうな造りで、まるでどこまでも続く石の牢屋ろうやのようだ、うぅ、俺は罪人じゃないぞ。

 あっ、犯罪はしたんだ、忘れていたよ。


 それは良いとして、いかにも何か、得体の知れないものが出てきそうだ。

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