〈金に〉飢え〈職を〉持たず、〈夢は〉奪うな、〈神へ〉与えよ

品画十帆

第1話 刃物と神殿

 冷蔵庫から、缶酎ハイが無くなってしまった、もう一本も無い。

 ちょー、だりぃなぁ。


 一昨日おとといも昨日も飲んだんだ、残り少なくない事に、気づいていただろう。

 ちっ、そうだよ、それがどうしたって言うんだ。


 こんな真夜中に、缶酎ハイだけを買いに行くのか、しん邪魔じゃまくさい事だね。

 けっ、コンビニへ買いに行けば、良いだけの話じゃねぇか。


 俺は脳内の争いに終止符しゅうしふをうち、缶酎ハイを買いに行く事にした。


 これ以上争いが続くのが怖かったんだ、けど、お利口りこうさんの平和主義者では、俺は無い。

 アルコール依存症になっている可能性に、ははっ、思い当たってしまったんだ。


 ちょっと、ヤバイぞ。

 ぞぉー。


 手遅ておくれかも知れないので、かまわず飲む事にしよう、それが現時点での正解だ。


 缶酎ハイは俺を救うんだぁー。


 ポケットに手をっ込んで、猫背ねこぜぎみに歩いてコンビニまで、缶酎ハイを買いに行く男。


 それが俺だ。


 六畳一間の安アパートが似合い過ぎて、ははっ、こまっちゃう男でもある。


 コンビニで缶酎ハイを二本買って、トボトボと歩き出した、二本しか買わないのが洒落ているだろう。

 そうは思わない。

 そりゃそうだ。


 ケチった訳じゃないぞ、金を持っていないだけの話だ。


 ザ貧乏って言う喜劇の主人公を、演じているんだよ、俺の希望じゃないのが、かなり悲しいよ。


 少し先で、人が争っている物音が聞こえてきた、一瞬疑ったが俺の脳内じゃない、体の外から音がしている。


 こんな真夜中に、こりゃ厄介やっかいだな。


 そう思ったのと同時に、俺は男に体当たりをされて、道にコテンと転がっていた。

 一瞬の出来事だ。


 「あいたたぁ」と俺が言っている横を、今度は二人の男が走り抜けて行ったらしい。

 暗くて良く見えなかったんだ、それに肘や膝が痛かったからな。


 「ちぃ」


 俺は道につばき捨て、自分の運の無さを呪う事しか出来ない。

 どこの誰かも分からない、しかもヤバいヤツらみたいだ、慰謝料なんて、とてもじゃないが取れないだろう。


 缶酎ハイが入っているビニール袋を、もそもそと拾い、俺は「くそっ」と毒づいた。

 痛みをこらえて、トボトボと帰るしかないな。


 やっとアパートに帰ったのに、これだ。


 缶酎ハイを開けて飲もうとしたら、「プシュー」と顔に噴出ふんしゅつしやがった。

 俺の運は、もう最底辺だな、沈んでいるよ。


 顔かられてくる酎ハイを、舌でめている俺は、かなり上位の道化師かも知れない。


 観客がいれば、このギャグで大爆笑だ。

 だが、自分では笑えない。


 残った一本は冷蔵庫で、炭酸を大人しくしよう。


 久しぶりに投稿してみるかと、ノートパソコンで書いていた小説モドキは、今日はもう止めだ。

 どうせ誰も見ないのだから、急ぐ意味は何も無い、誰も待っていない。


 ボーっとしてても、しょうがないので、今日はもう寝るか、体もズキズキと痛む。


 引きっぱなしの布団に入る前に、上着を脱ごうとしたら、何か固い物が手に当たったぞ。


 ポケットに何か入っている。

 あれー、何を、いつ入れたんだ、俺のおつむはヤバい事になっているぞ。


 ポケットから出て来たのは、木で出来た棒だ。


 棒ってなんだろう、犬が歩けばってあったな、俺は犬か、野良だな。


 木の棒は、長さが十センチ程度で、握りやすい太さだと思う。

 物はかなり古そうだな、三分の一くらいの所に、線が走っているぞ。


 ここで開きそうだから、開けてみよう、これが何か全く予想がつかない。


 骨董品的こっとうひんてきな物で、少しでも金になったらな、なるわけが無い、ゴミに決まっている。


 俺は淡い期待と好奇心を刺激されて、線から上を引き抜いてみた。


 〈ギラリ〉と音がしそうなほどするどい刀が、スッーと出てきた、いやいや、こんなに短いのは刀じゃない。


 それなら何と呼ぶのか、俺には分からない、ようは七センチもない短い刃物だ。


 ただ、怪しい雰囲気を出している、いかにも切れそうな刃だ、濡れているようなヌメッとした輝きをはなっている。


 これが玩具おもちゃじゃないのは俺でも分かる、けど、用途が不明だ。

 人をす用途としては短すぎる、刃はもろにそうなんだけどな。


 出所でどころは間違いない、俺をころがしたさっきの男だ、それ以外は考えられない。

 ぶつかった時に、俺のポケットに入れやがったんだ、すげぇ早業はやわざだ。


 でもよ、目的は何なんだ、全く予想も出来ないな。

 あの男に何のメリットがあるんだ、なぜ俺なんだろう。

 俺は偶然歩いていただけだ。


 それにしても、この刃物はなんだ、何を切る物なんだ。


 俺は試しに、刃物を振ってみた。

 そしたら驚愕きょうがくの現象が、おきちぃまった。


 噛むのはしょうがない、俺の目の前の空間が切れてやがったんだ。


 切れ目からは、薄暗い建物の内部が見えている、まさかこれは異界なの。

 女っぽくなったのは、驚きのあまり男の部分が、引っ込んでしまったからだ。

 その証拠に俺の股間は、ちぢみが上がっているぞ、痛いくらいに引っ込んでいる。


 俺は空間の隅間すきまから、恐る恐るその建物に入ってみる事にした。


 〈どうしてそんなに危険な事をするの〉と問われたら、金のためだと胸を張って答えたい。

 俺にはその建物が神殿のように思えたんだ、仏像やお地蔵さんは、結構良い値段で売れるんだぞ。


 その建物は俺の、ピンポン、予想どおり、神殿だった。


 男と女をあらわした巨大な彫刻が、色んな体位でからみ合っている、それが一杯ある。


 うわぁ、いやらしい神様だよ、お子様は拝観禁止だな、俺はこの神殿がR18だと断定した。

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