寓話シリーズ

桂英太郎

第1話 『 おかしなタヌキ 』

 キツネと縄張り争いしていたタヌキ一族。ある時、見たこともないキツネの大群に襲われ、命からがら逃げてくる。すると一族の或る者が「このままだと危ないから、足の遅い奴は足手まといになる前に仲間から外すか、殺して食ってしまおう」と言った。切羽つまったタヌキたちは仕方なくその意見に同意し、ある者は一族から離れ、ある者は泣く泣く狸汁になって皆の腹のなかに納まった。そうして一族は半分になった。

 しばらくしてタヌキたちはまたキツネの一族から襲撃された。相手はまたまた数が増えているように思われた。今度はいろいろな物に化けることで難をしのいだが、また仲間の或る者が言った。「このままだと危ないから、化けるのが下手な奴は足手まといになる前に仲間から外すか、殺して食ってしまおう」すると今度も皆しぶしぶ了解し、ある者は一族から離れ、ある者は泣く泣く狸汁になって皆の腹のなかに納まった。そうして一族は最初の四分の一になり、残りはたったの三匹となってしまった。

 そしていよいよ今度は物々しく現われたキツネの軍隊に取り囲まれ、残った三匹は死んだフリをして切り抜けようとした。もう、すぐそこまでキツネの軍の気配が迫ってきた時、三匹のうちの一匹が緊張のあまりくしゃみをして居所がばれてしまった。キツネにつかまった三匹のタヌキは必死で命乞いをし、一匹がこう言った。

「俺は他の二人よりも足は速いし、化けるのも上手い。死んだふりだってそうさ。だからどうか食べるのは他の奴にして、俺は助けてくれ」

 するとそれを聞いたキツネはしばらく考えて「だったらお前を食べたほうが僕たちには得だ」と言って、そのタヌキを大口を開けてぺろりと一人で食べてしまった。

 他の命拾いしたタヌキが言った。「お前は確かに賢い。だけどせっかくの狸の肉を大勢の仲間には分けずに独り占めするなんて、なんてズルくて情けない奴だ」

 するとキツネは鼻を鳴らしてこう言った。「ふん、タヌキの中にも多少はまともな奴がいるみたいだね。でも仲間を大事にしなかったのは君たちの方じゃないか。そうだよね?」

 するともう一匹のタヌキがすっくと身を起こすとその姿を金色のキツネに変えた。

「そう、その通り。弱い仲間を追い出すとき、狸汁にして食べる時、君たちは誰一人『もっとみんなで考えよう』なんて言わなかったもんね。君なんか涙も見せずに狸汁、五杯もお代わりしてたじゃないか。お陰で僕は一杯しか食べれなかったよ」

 驚いた残り一匹のタヌキはたまらず言った。「なんてこった。ひょっとして俺たちは最初から化かされてたのか。それじゃ、もしかしてあのキツネの大軍も?」

 すると草場の陰からもう一匹のキツネがピョコっと顔を出し「ご名答!」と叫んだ。「あれは僕一人でやったのさ。だって僕たちキツネの兄弟はもともと三匹。君たちタヌキ一族に親を殺されて、知恵をしぼって助け合うしかなかったのさ」

 それを聞いたタヌキはあまりの驚きに泡を吹いてぶっ倒れてしまった。すの姿を見ながらキツネの兄弟は笑った。

「あれあれ。まったくタヌキってのはおかしなものだなあ。せっかく助かったっていうのに、また死んだフリをするなんて!」

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