NarrowGame
かずぅ
プロローグ:ビバ異世界
(1)NarrowGameってパクリじゃん
今日の予備校、マジでハードだったな。
講師の説明なんて、お経かってくらい眠くなる。隣のエイジなんて、完全に寝てたし。まぁ、オレもだけどさ。
オレらは夏期講習で池袋の予備校に通ってるけど、ほんとに来年受かるんだろうか。無理じゃね? オレらバカだし。せいぜい三流大学に滑り込めればラッキーって感じかな。
やりたいことも特にないし、スポーツもダメ、勉強もできないとなると、どうなるんだかね。
頑張った自分へのご褒美ってことで、駅前のマックでエイジと時間つぶし。
エイジが珍しく本なんか読んでてさ。お前、いつからそんな賢いヤツになったんだよ?
「ネット小説だよ」って。ああ、ラノベとかね。
「20分で読めるから読んでみろよ」って。
いやだよ、活字嫌いだし。さっき予備校で寝そうだったのに、読むだけ無駄だって。
なになに。小説のタイトル『ナローゲーム』?
変な名前だな。そもそもナローってどういう意味だよ。サイトも『文豪にな◯う』って、安易すぎだろ。なんかパクリじゃね?作者。
ちなみに、英語だとNarrowって狭いって意味なんだぜ。今日、授業で教わったから知ってる。まぁ、いいっか。
エイジ曰く、異世界モノらしい。
もう、異世界モノって多すぎだろ。なんでもアリだよな、あのジャンル。まぁ、炎上するかもしれないから、何も言わないけど。
どれどれ…
主人公がひょんなことから異世界へ。
いや、定番すぎるだろ。トラックに引かれるとか、そのシーンもう見飽きたって。
おっ!あれ? 意外と面白いじゃん。
主人公も少しずつ成長してるし、なんかミステリーっぽい要素もあって悪くない。
でもさ、これ5話で終わりなの? 続編書けばいいじゃん。オレ読むよ。安易なタイトルとか文句言わないからさ。
で、中で書かれてるけど…
(この物語を友達に伝え、読んだあとに、ナローゲームと叫べば、君も物語の世界へ)って。
なんか昔のホラー映画みたいだね。
エイジ?マジで?
本気でやるの?嫌だよ、ここマックだぜ。恥ずかしいじゃん。
わかったよ。それじゃあ…
「ナローゲーム」
…
何も起こらないじゃん。
え???
…
(2)マックじゃないの
どこ、ここ??
マックの2階じゃないの?
とりあえず、落ち着け、オレ。
エイジと一緒にマックの2階で、なんだかいい加減なタイトルのラノベっぽいのを読んでたんだよな。で、「ナローゲーム!」って叫んだんだっけ。そうだ、確かに叫んだ。
…で、ここ。
いや、ほんと落ち着けって。
エイジは?エイジはどこに?
いない。エイジがいない。
あれ、やっぱおかしいだろ。どうなってんだよ、これ。
目の前に広がるのは中世の街並み。いわゆる「異世界」ってやつか?
オレの服、完全に浮いてるし。周りの連中、オレのことジロジロ見てる。
言葉、通じるのか?
「あの人、なにぃ~?」
あれ、言ってることわかる。
ラノベのお約束通り、言葉が通じるってわけか。ってことは、これもお約束通りの展開ってこと?
「ステータス!」
…。
恥ずかしい…。
カッコつけて叫んじゃったよ。しかも右手まで振りかざして。
何も起きないし。
次は小声で。
「アイテムボックス!」
「収納!」
「ウォーター!」
「ファイア!」
「◯ラ!」
「ホイ◯!」
「変身!」
最後は違うか。
でも、何にも起きないんかい!
ゲームマスター?運営~?誰かいませんか?かみさま~?めがみさま~?
…
反応なし。どうすりゃいいんだよ、オレ。
こんな人がたくさんいる中で、立ち尽くしてもしょうがない。
とりあえず、あそこの広場なら少しは目立たないかな。
お、エルフさんとかいるじゃん。やべ、ちょっと楽しくなってきた。
この異常な状況に慣れてきたのか?それとも、これが異世界ハイってやつか?
あそこのベンチっぽい丸太に、手紙が置いてある。
これって、RPGでよくあるパターンじゃん。勇者が何かを拾って物語が始まるやつ。
オレ、勇者なのか?えへへ。
手紙、読んでみよう。ふむふむ。
『マックにいたと思ったらこっちに来ていた。どうやらこの世界の人は、日本語が読めないらしい。でも、言葉がわかるのはなんだか不思議だが、そこはバグだということにしよう。だから、多分、これを読めるのはお前だけだと思う。』
やるな、エイジ。置き手紙とは、まさに異世界っぽい。
続きは、どれどれ…
「はっきり言って、よくわからん。何度考えてもよくわからん。」
オマエもかよ!
「とりあえず、お前もこっちの世界に来てるなら合流しよう。ひとまず、俺もこの周辺を調べてみてくる。もし、これを読んだなら夜にこの場所で落ち合おう。」
まったく、類は友を呼ぶってやつだな。思考が全く一緒だよ、オレら。
…
(3)異世界なら闘技場だよね
さて、どうやらエイジもこっちの世界に来ていることはわかった。
オレもオレなりに、少し調べてみるか。
まずは、やっぱり金が必要だよな。
手持ちの荷物は、予備校帰りのバッグだけ。中身は…
教科書、ノート、筆記用具…だけか。
まじめか、オレ。
ポケットには財布とスマホが入ってる。
いや、まじめか、ほんと。
これで何か売って金が工面できるかな?
「すいません。雑貨屋とか道具屋とか、持ち物を買い取ってくれる店ないですか?」
「ありがとうございます。雑貨屋、あるんですね。あっちですか。ありがとうございます。」
優しいな、この犬耳の人。
異世界のルールでは、大型犬系はおっとりしてて優しいっていうのが決まりみたいなもんだからね。
店に入ると、まさに異世界って感じ。中世っぽい雰囲気だ。
海外旅行に来たみたいで、なんか楽しくなってきた。
アメリカとかフランスとかも、こんなふうに日本語が通じれば不安なく旅行できるんだろうな。
やっぱりバイリンガルは大事。日本に帰ったら英語の勉強、ちゃんとしよう!
でも、結局、買い取ってくれるものは何もなかった。
筆記用具も便利だけど、文字が書ける人が少ないから需要がないらしい。
「ボールペン?インク使い切ったらただのゴミじゃん!」って、商人のツッコミが鋭い。
チョークよりは長持ちするだろうけど、それでもその程度の価値ってことか。商人、侮れない。
でも、いい情報は得た。
金を稼ぎたいなら、闘技場に行けば何か稼げるかもしれないって。
そうそう、こういうのだよ!
異世界旅行の醍醐味はギャンブル的な要素でしょ。
闘技場は屈強な猛者たちが集まる場所らしい。
おお、すごい!大きな施設だ。
ギリシャのコロッセオみたいなものを想像してたけど、残念。
実際は学校の体育館みたいな感じ。でも、たくさんの人が集まってて賑やかで、ちょっと圧倒される。
…ん?
あのちょっと場違いな感じの服装してるヤツ、あれエイジじゃないか?
「よう!マックぶり!」
街の景色が一変したから感動的な再会シーンになるかと思いきや、そうでもない。そりゃそうだよね。別行動してたの、たったの2時間くらいだし。
これって、海外旅行でちょっと自由行動してる感じだしね。
まあ、とにかく異世界でエイジと再会できてよかったよ。
…
(4)エイジ!エライ!
って、エイジ。なんで闘技場に来たの?戦うの?
いやいや、オレも出場しないよ。腕力ないし、喧嘩弱いし、低血圧だし。朝とか特に弱いからね、こんなところで闘ったら、すぐに気絶しそうだよ。
ちなみに、異世界人だからって特別な能力があるわけでもないんだよ。
『ステータス!』とか『アイテムボックス!』とか『◯ラ!』とか、そういうのも使えないしさ。
エイジも試してみたんだって?
ああ、そうなんだ。ちなみに『◯ァイラ』のほうか。いきなり最上位魔法は無理だって。とりあえずオレも試してみるよ。『◯ラゾーマ!』…ああ、やっぱり何も起こらないね。現実って辛いな。
で、どうする?賭けに参加しようにも、元手がないから賭けられないしさ。
考えているようで、何も考えていなかったね、オレ。ほんと、どうしようもないな。
さっき、雑貨屋に行ったけど、何も売れなかったよ。エイジ、お前のほうは何か売れそうなもの持ってる?
よし、エイジ、カバン見せてみろ。えーっと…参考書、ノート、筆記道具。優等生かい!まじめだなぁ。
スマホは…もちろん電波届かないよな。モバイルバッテリーも残りゼロパーセントか。まあ、使えないよな、異世界じゃ。
財布にはほとんど金が入ってないし、そもそもここじゃ使えない通貨だよな、これ。
エイジ。なにこれ?ライター?お前、タバコ吸わないじゃん。
えっ、最近始めたの?うわ〜、わるぅ〜。
でもやめとけ、身体に良くないぞ!やっぱり健康大事だぜ。
ほら、オレのジイさん、肺炎で死んだって言っただろ。『1日50本吸ってても元気!元気!』って言ってたのに、やっぱり肺ガンになったよ。スポーツやってたし、畑仕事もバリバリで体力はあったんだけど、やっぱり身体の内側からは勝てないんだよなぁ。
って待てよ、これ、ライター売れるかもじゃん!エイジ、お前、エライ!
…
(5)異世界の歌
さっきの雑貨屋に行って、ライターを見てもらったんだ。あの店主の驚きようったら、まるでラノベのワンシーンみたいだった。腰を抜かしそうになっていたよ!
やっぱり、火を起こせる道具ってこの世界じゃ貴重なんだな。店主は目を輝かせながらライターを手に取り、日本円にして10万円くらいで買い取ってくれたんだ。
「えっ、どうやって日本円換算したって?それは触れちゃだめなヤツだよ。とりあえずビックマック指数ってことにしておいてくれよ。屋台で売っている肉をパンに挟んだヤツ200個分くらいだったんだってさ。でもさ、もしもこの世界で『◯ラ』とか『◯ァイア』が普通に使えるなら、ライターなんて売れなかったかもしれないね。運がよかったってことで!」
お店の人にちょっと話を聞いてみたら、安宿で素泊まりが一晩3千円くらいで、屋台の食事が300円くらいだって。だから10万円あれば、エイジと二人で10日くらいはなんとか生活できそうだって。
エイジ。何?誰に話してるって?そりゃ、外の人にだよ。
そんな細かいこと気にするなって、楽しんだもん勝ちだろ!
とりあえず、広場に戻って作戦会議だ。
広場に戻ると、そこには歌っている人がいた。吟遊詩人っていうんだっけ?異世界の雰囲気にぴったりだよなぁ。まるでラノベの中にいるみたいだ。あれ、いるのかな?
「せかいのはて~~~!」
「かみが~~」
「ひかりと~~~」
「あすへ~~~」
「だ~も~ん~」
歌詞はほとんど意味不明だけど、妙に耳に残るんだよね。リズムもいいし、なんかテンション上がってくる。特に「だ~も~ん~」も味がある。
さて、どうする?ここからの方針を決めようぜ。」
1.日本に帰る方法を模索する。
2.日本に戻れない前提で、ここでの生活を考える。
3.とりあえずビールを飲む。
まあ、やっぱり『3』だよね!こういうとこ、エイジとは意見が合うからいいよなぁ。楽天的?それとも何も考えてないだけ?ま、俺たちレイワ生まれだし、深く考えすぎるのも野暮ってもんさ。
ほら、酒場で情報収集だってできるし、それに異世界メシも楽しみだよな!ビールで乾杯しながら、異世界の味を堪能しようぜ!
…
(6)異世界の洗礼
酒場に入ったけど、やっぱり世界は甘くない。
まず、ビールがなかった。いや、考えてみれば当たり前だ。ここは異世界だし、ビールがないのも仕方ないよな。
それにしても、酒場の値段は日本とあまり変わらないな。さっき露店で売ってた焼いた肉の串、酒場ならなんと5倍の値段だよ。財布が痛い。恥ずかしいけど、仕方なく「とりあえず水ください」って言ったんだ。
でも、驚いたことに水も結構いいお値段。水がこんなに高いなんて、炎上するよ。
エイジ、とりあえず少しだけ料理を頼もうか…。でも、メニューの内容が全然わからないから、何が飲み物で何が食べ物かを聞いて、それから値段で決めるしかないね。
そうこうして出てきたのは、ワインみたいな味のお酒。色、青かったけど。と、肉を焼いた料理。見た目以上に美味しくて、正直びっくりした。
食レポ?無理無理。語彙力ないし。まあでも、異世界でもみんなが『米が食べたい』と思うのは本当だってわかったよ。やっぱり日本人の魂(ソウル)は米だね。
店の中は雑多な感じで、「ザ・異世界酒場!」って雰囲気が漂っている。
◯ィズニーの◯リブの海賊の入口にあるレストランみたいだよ。伝わるかな?
荒くれ者たちが集まっている場所って感じだな。ほら、あっちではガタイのいい男たちがジョッキを持って、青い酒を浴びるように飲んでいるよ。いや、ほんとに浴びてるんだって。頭からジョッキを逆さにして…。
聞き耳を立ててると、いろいろな情報が入ってくるけど、ほとんどが女の話ばかりだな。アニメやラノベみたいに都合よく、冒険に役立つ情報なんて出てこないもんだなあ。まあ、こんなところで次の展開のヒントが出ることなんて、現実にはないよな。
えっ、でも待って、こっちは定番通りの展開が来たぞ。
あの、2メートルくらいある屈強な男に目をつけられたんだけど…。
ほら、こっちに近寄ってくる。どうする、エイジ!
「あ、すごい体ですね…。オレたちですか?はい、はじめてです。道に迷ってこの街に来たんです。今夜はとりあえずこの酒場の宿に泊まろうかと…。」
「えっ?奢ってくれるんですか?ありがとうございます、おじさん!いや、お兄さん!嬉しいです!!この街に乾杯!」(この街の名前なんて知らないけど)
よかったな、エイジ。なんとか命が残ったよ。あの人、いやあれは人じゃなくてクマだよな。ほんとにクマ。異世界ではやっぱりこういうことがあるんだな。
あと、クマがしゃべると、なんか◯ィズニーの◯~さんのキャラみたいな感じになるんだな。
『つぅみたち、どぁいじょうぶ?』って感じでさ。
はあ~、今日は色々あったな。とりあえず部屋に戻って寝ようか。ほら、問題は先送りするもんだからね。
…
(7)ビバ!
朝は、どこの世界でも爽やかだ。異世界の朝も例外じゃない。宿の部屋に差し込む朝日が気持ちよくて、目が覚めた瞬間、まるでここが自分の家のように感じたよ。
宿の朝食は予想以上にボリューム満点。大きな皿には焼きたてのパン、肉の塊、そして不思議な色をした果物が山盛りに盛られている。ホテルの朝食ビュッフェに負けないくらい豪華だよな。
食べている間に気づいたんだけど、この宿の店員、猫耳がついてる。しかも、尻尾まで。エイジ、異世界の料理店の店員って猫系って決まっているのか?絵に描いたように山猫だよ。
これって、ほら、日本の童話の影響かな?ほら、店に入るとクリーム塗ったりするあの話。日本の文化ってやっぱすごいな。影響力が異世界にまで及んでいるね。
猫耳店員さんから、街のこと教えてもらった。
街の様子を見たいなら、少し先にある塔に登るといいって。そこから街全体が見渡せて、晴れていれば遠くの山まで見えるんだってさ。自然が多いから、登って損はないって。しかも、タダ。
あと、何か調べたいことがあるなら役所の図書館がオススメらしい。安い値段で入れるし、読み放題なんだって。なんでも、この街では字を読める人が少ないから、いつもガラガラなんだってさ。
なんだよ、昨夜のクマさんより猫さんのほうがよっぽど頼りになるじゃん。
エイジ、どうする?とりあえず、塔に登っとく?タダだっていうし、異世界の景色を堪能するチャンスだよ。
塔に登ってみた。予想以上に高い。階段を一段一段上るたびに息が切れて、エイジもつらそうだ。
あと、柵が、あまり安全そうじゃない。
うーん、さすが異世界って感じだな。見渡す限り、自然が広がっている。人工物、ほとんどないし。どこを見ても森ばかり。山がいくつも連なっているのが見えるけど、海はないみたいだ。あとは川か沼か、池のようなものがちらほら見えるけど…
いや、景色を見ても結局わからないな。とりあえずわかったことと言えば、ビバ!自然!ってところかな。
どうする?このまま街をぶらぶらするのもいいけど、猫さんから教えてもらった図書館に行ってみるか。なんか面白い情報が見つかるかもしれないし、地図とかあればさらにいいしな。よし、図書館で異世界の知識を仕入れよう!
…
(8)読んだけどわからん
ここが図書館か。建物は古く、まるで時代を超えてきたかのようだ。入口の扉を開けると、中はひんやりとしていて、まるで時が止まったような空気が漂っている。
入館料100円で読み放題か。安いな。でも日本の図書館とは全然違うよね。
役所の一角にある小さな部屋に、本棚が二つ並んでいるだけ。200冊くらいの本が並べられているが、どれも古びていて、まるで時代に取り残されたように見える。エアコンもないので、夏場はさぞ暑いだろうな。
やっぱり、日本の自治体は素晴らしかったんだな。日本に帰れたら、もっと図書館を活用しなくちゃね。
もともと本を読むのは得意じゃない。手当たり次第に本を開いても、馴染みのない地名や文化が次々と出てくる。地名が書かれていても、地理がわからない。こっちの文化の予備知識もないし、結局、何が書かれているのかさっぱりわからん。
ふと目に留まった一冊の本。吟遊詩人の歌集らしい。ページをめくると、あの広場で聴いた歌の歌詞が書かれている。
ほら、”かみが~~”とか、”あすへ~~~”、”だ~も~ん~”って歌詞。歌詞がわかっても、やっぱり何のことだか理解できないな。
アニメやゲームのキャラクターは、こういうところで知識を吸収してストーリーを進めるものだけど、俺にはそんな才能はないみたいだ。エイジもお手上げみたいだね。
もう、メシにしようか。広場の向かいにあった屋台、美味そうだったし、そこ行ってみよう。
屋台に着くと、炭火でじっくりと焼かれた肉の匂いが漂ってくる。
うーん、やっぱり肉か。でも、これ何の肉なんだろう?
さっき裏で何かを捌いてた気がするけど、まあ、聞かないほうがいいよな。知らなかったことにしとこう。味が美味ければそれでいいんだし。「うまい、しか勝たん!」ってな。
昨日見かけた吟遊詩人が、今日も同じ場所で歌っている。
あの吟遊詩人って、どうやって生活してるんだろう?ずっと一人で歌ってるけど、歌うだけで食べていけるのかな?
吟遊詩人は単なる歌うたいではなく、教会の伝道師も兼ねているって。つまり、あれは教会の布教活動でもある。エイジ、博学だねぇ。
広場に響く歌声が、だんだん耳に馴染んできたよ。
”せかいのはて~~~!かみが~~だ~も~ん~”・・・うん、やっぱり”だ~も~ん”のところがいいよな。なんか韻を踏んでるみたいだし。いや、踏んでないか。
頭の中で歌詞をまとめてみる。
”せかいのはて かみがみちびきし くらやみのおくのひかり あすをえらんだもの”・・・
なんか、昭和時代のゲームの復活の呪文みたいになったな。
いやいや、そんな都合よく、これが俺たちへのヒントになってるなんてこと、ないって。
まさか”明日”が異世界のことを指してるとか、”暗闇”が洞窟のことだなんて、そんな偶然あるわけないよ。
でも、ふと昨日図書館で見た地図を思い出したよ。森の奥に洞窟があるって。昔の採石場で、今は眩しい光が原因で使われていないって。
なんか、RPGみたいな話になってきたな。もしかして、これって俺が勇者として目覚める展開?
どうせすぐに帰る方法が見つかるとも思えないし、長期滞在も覚悟して、手当たり次第にヒントを探してみるか。まずはあの洞窟に行ってみよう。・・・って、オレ達、本当に大丈夫か?こんなノリでうまくいくのか?
行動しなければ何も始まらない!ってね。そうだろ?
…
(9)洞窟!?いっちゃう?
この話さ。引っ張るだけ引っ張って、最終的には中途半端なところで打ち切りとか、そういう展開にならないだろうな?終盤になると、そろそろ終わるかなって思いながら読むけど、だらだら続いて結局収拾がつかない。そうなると、読者としては少し疲れちゃうよね。もちろん、会社の都合でそういうこともあるんだろうけど、やっぱりシンプルでテンポがいいのが一番。何と言っても、今の時代、タイパ、重要だからね。
で、話は戻るけど、俺たち。次の行動として例の旧採掘場を探索しに行く計画を立てている。
でも、その前にちょっと考えないといけないことがある。先立つものがないのは不安だ。
仮に採掘場に行ったとして、何も収穫がなかったら?その後、街に戻ってきても、宿に泊まるお金すらなかったら?それはさすがに困る。レイワの賢い若者としては、リスクを最小限に抑えたいわけだ。ということで、洞窟に行く前に、少し稼いでおかなければならない。そう、ここが重要なポイントだ。
それで、まずは、宿のおじさんに相談してみた。「日雇いの仕事、ありませんか?」ってね。「皿洗いでも何でもやります!」と伝えてみた。
はい、念のため言っておくけど、決して皿洗いの仕事を軽く見ているわけじゃない。立派な仕事だし。やったこと無いことでもやる覚悟があるってことで。
日本でもよくある短期バイトみたいなものを想像してただけなんだ。「タイ◯ーでスキマバイト」とか、そういうノリのやつ。簡単に見つかると思ってたけど、現実はそう甘くないらしい。
そりゃそうだ、毎日来てくれる常勤の方が雇う側としてはありがたいに決まってる。日本でも、そうだよね。っていうか、これが異世界ラノベだったら、ギルドで仕事が見つかるのが定番じゃないのか?なんだよ、現実の異世界ってのは。
いいねぇ。宿のおじさん。その思い出したように、「そういえば、知り合いに・・・。」っていうの。力仕事ができる人を探しているらしいって。ありがとう!おじさん。
よし、やってみようよ。異世界でガテン!
ビバ、異世界!
…
(10)あっという間に
一ヶ月が過ぎた。
この間、頑張って働いた。正直、この一ヶ月のことを詳しく説明しても面白くないだろうから、
サクっとまとめるけど、俺たちが働いていたのは川幅を広げるための土木工事みたいなものだった。まさにガテン系の日雇いバイト。現場では、例のクマさん。◯ーさんじゃない方のクマさんが親方だったんだ。
あの人、いや、あのクマさん、すごいパワーを持っているんだよ。多分、何百キロくらいある石をひょいっと持ち上げてたんだから。日雇い労働者雇う必要ないんじゃないかって思ったくらいだよ。あのクマさんがいれば、すべて解決するって感じ。
特筆すべきことはそれくらいかな。
あとは同じことの繰り返し、るーてぃ~ん。
毎日、日が昇る前に現場に出て、日が沈む頃に帰る。汗まみれの労働の日々。あと、宿で青い酒を飲む。それも今日も終わり!
でも、蓄えできたよ。ようやく、次の採掘場に向かう元手が整ったよ。
で、いよいよ旧採掘場へ行く準備だ。
採掘場までの道のりは片道で2日かかるらしい。洞窟の中で2日過ごすとして、何も見つからず街に戻ってくるなら合計は6日。
準備は万全、とはいえないが、最低限の装備は揃えた。
テントなんて贅沢なものはないけど、少し厚手の毛布を持っている。
野営することにはなりそうだが、森の中でのキャンプは少し怖い。
でも、まあ、なんとかなるだろう。
というわけで、俺とエイジの異世界冒険旅行へ!
…
疲れたよ・・・。まだ着かないの?
え?まだ1時間しか歩いてないって?
気づかなかったけど、この世界って一日が24時間じゃないんだね。今はまだ昼間なのに、俺の時計は21時を指している。どうやら、この世界の一日は20時間くらいらしい。
…
幸運なことに、森の道はそこそこ整備されていた。
夜が近づくと、急に辺りが暗くなり始めた。今日はこの辺りで野営するのが良さそうだね。
道の脇で寝る方が安全だと聞いたことがある。森の中に入ると動物に遭遇するリスクが高いが、道の脇なら人の気配があるせいで、動物が近寄らないらしい。魔獣も避けてくれるといいんだけどな。
でも、やっぱり夜の森は怖い。
聞き慣れない音が四方八方から響いてくるし、遠くで何かが吠えているのが聞こえる。
すぐ近くでは、ガサガサと何かが動いている音もする。
夜の闇が不気味に包み込んでくるような感じだ。
でも、さすがに歩き疲れていたから、あっという間に寝てしまった。
…
(12)いざ!
こういうところも、簡単でいいよね。
いろいろあったけど。はい、もう洞窟到着!
でも、ちょっとだけ森の中のハイライトを振り返ってみる?何せ、せっかくの異世界だしね。
まず、魔獣に遭遇したよ。名前もわからないし、見たこともないやつ。
でも、俺たちを見て驚いたのか、あっちが先に逃げていった。まさに「逃げるが勝ち!」って感じだね。ラッキー。
その後、小川を発見。一口飲んでみたら、冷たくて美味しかったんだけど。やっぱり俺たち現代人。
しばらくして、お腹を壊したよ。幸い、少ししか飲まなかったから、なんとかやり過ごせたけど、教訓だね。未知の世界の川の水は飲まない方がいい。
さらに、クマみたいなクマに出会ったよ。いや、まさにクマだったんだけどね。でも、意外と気さくな感じのおじさんクマで、気をつけていくんだよって。優しかった。でも、内心では超ビビった。だって、本物のクマだもん。
そして、見たこともない動物にも遭遇。角がいっぱい生えてるんだよ。鹿と牛と豚をミックスしたような感じの生物で、まさに「ビバ・異世界の野生動物」。こういうの、何だかんだ言っても、ちょっとワクワクする。
そんなこんなで、ついに洞窟に到着したわけだ。
洞窟の入り口は暗くて湿っていて、何か不気味な雰囲気が漂っている。
ここがかつての採掘場だったことは、一目でわかる。人工的に掘られた感じがあるけれど、使われなくなってから随分と経っているようだ。
苔や湿気で滑りやすくなっている地面が、今の荒れ果てた状態を物語っているね。
奥は真っ暗で、どこまで続いているのか見当もつかない。
深い静寂の中で、わずかな水滴の音が反響しているって感じ。その音が、余計に暗闇の奥行きを感じさせて、怖さマックス。
異世界では、松明が普通に店で売っているんだよ。一本で2時間くらい持つんだって。思ったよりも長持ちするもんだね。俺たちは洞窟の中に2日間いるつもりだから、念のため20本買っておいた。つまり、松明を10本使ったところで引き返すつもりさ。帰り道も怖いからね。無計画に突っ込むのは、ちょっと違う。
あ、それから。気になってると思うけど、どうやって松明に火をつけるのかって?
実は、エイジがライターをもう一個持ってた。念の為に売らなかった。
そういうとこ、気になるからね。ほら、よくあるご都合主義とか冷めるからね。
…
(13)帰還?
ずいぶん洞窟の奥まで来たよ。
入り口付近はかつての採掘場の名残で整備されていたけれど、半日も歩くと、どこか未開の地に踏み込んだような感覚に襲われる。暗くて足元がよく見えないから、慎重に進まなきゃならなくて、思ったほど距離は歩けていないみたいだけど。
昨日はまる1日歩いたけど、特にこれといったものは何も見つからなかった。
今、手元にあるこの最後の松明で、用意した10本すべてを使い切るから、今回は何も見つけられずに引き返すことになりそうだね。
奥からエイジの悲鳴が聞こえたよ。
何だよ、疲れすぎて幻覚でも見たんじゃないの?
あら、本当だね。明るい場所になっている。
まさか地上に通じる出口でもあるのか?それとも・・・。魔法の石とか?
えっ?ホント?魔法の石だって!?
エイジが指差す方向を見ると、たしかにあるね。光っている石。
光る石が周囲を淡く照らしていて、その光の中に古めかしい文字が刻まれているみたい。
言語は分からないが、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。興味津々で近づいてみると、よく見ればそれは日本語だった。
「この石で、日本に帰れる」って書いてあるじゃん。
いやいや、これってどういうこと?こんなあっさり帰還できる方法があるの?
おいおい、これが異世界冒険物語の結末で本当にいいのか?
あまりにもあっさりすぎるだろう。
しかも、合言葉叫べって?しかも、ナローゲームって。
まあ、いいか。エイジ、帰ろうぜ!
何だかんだで楽しかったよな。
エイジ、笑いすぎだって!
じゃあ、せ~の。
「ナローゲーム!」
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