ペット専用一戸建て不動産
ちびまるフォイ
大切な家族の暮らす家
「いらっしゃいませ。ペット用不動産へようこそ」
「うちの子の家を探しているのよ」
「犬種をうかがっても?」
「ゴールデン・プードルメシアンよ」
「めずらしいですね。今はご自宅で飼われてるんですか?」
「ええそうよ。でもヒト用の家だから、
うちのココアちゃんには暮らしずらいでしょう。
思い切ってココアちゃんのおうちを買うことにしたのよ」
「素敵な飼い主さんですね」
「ええ私もそう思う」
「これなんかどうでしょう? 日当たり良好ですよ」
「いいわね。実際に見に行ってもいいかしら」
「もちろんです。車用意しますね」
「いいえ結構ですわ。ココアちゃんにも見せたいし。
私のプラベート・ヘリで向かいますわ」
二人と1匹は内見先の一軒家に向かった。
「いかがです?」
「あら。意外とちっちゃいのね」
「ペット用ですからね。ヒトには小さく見えても
これくらいのサイズ感がペット向きなんですよ」
「そうなのね。それに日当たりもたしかに良さそう。
ココアちゃん? どうかしら?」
「ワンワン!」
「あらあら。これはいけないわ。違う物件にするわ」
「え? なにか悪かったんです?」
「床よ、床」
「はあ」
「このフローリング。すべるでしょう?
ココアちゃんの足に悪いわ。私、家でも床に滑り止め敷いてるのよ」
「ではこっちの物件はいかがでしょう?
こっちはペット用加工の床ですよ」
「あらよさそうじゃない。それも見たいわ」
「車だします」
「結構。私、プライベート・新幹線がありますの」
次の物件に二人と1匹は訪れた。
床はたしかに滑りにくい加工がされている。ペット向き。
「いいわね、この物件」
「お気に召しました?」
「ココアちゃん、どうかしら?」
「ワンワン!!」
「あら? あらら? これもだめなの、ココアちゃん?」
「なにかこの家に気に入らないところが?」
「いいえ。この家は申し分ないのよ。問題はお隣よ」
「隣?」
不動産屋は物件の隣の家を覗いた。
隣は別のペット用の家が建っている。
「普通のペット用住宅ですけど……?」
「それが問題なのよ。隣はチワワが住んでるでしょう?
うちのココアちゃん、どうしてもチワワと相性悪いのよ」
「そうなんですね」
「別の物件にしましょう。
いくら家がよくても隣がチワワじゃ
ご近所トラブルは避けられないわ」
「でも隣も考慮した物件なんて……」
「ないの? ココアちゃんのためならいくらでも出すわ?」
「でしたら……」
不動産屋はごく一部の客にしか紹介しない秘伝の黒ファイルを取り出した。
高額な物件のみがファイルされている特別なもの。
「これなんかどうでしょう」
「これまでと価格帯が全然ちがうわね」
「ええ。そのかわり設備と品質は保証しますよ」
「それはいいわね。すぐいきましょう」
「車は?」
「結構よ。プライベート・ポータルがあるわ」
最後の物件に3匹がやってきた。
これまでの家とあきらかに敷地面積がちがう。
「これよこれ! こういうのが欲しかったの!」
「気に入っていただけましたか?
見ての通り、玄関あければ2秒でドッグランです」
「ココアちゃん、ドッグランが大好きなの!」
「それだけじゃないです。夏場にはプールもありますよ」
「最高じゃない!!」
「中もまだまだおすすめがあります」
「見たいわ!」
「床は全面ペット加工、壁は遮音性にすぐれてます。
どれだけ夜に吠えてもけして外には漏れませんよ」
「ココアちゃんにぴったり!!」
「それに獣医が24時間待機していますから、
急な病気になってもすぐに治してくれます」
「それは安心ね!」
「さらに、1日決まった時間にペット用シェフが
うでを振るってごはんを提供しますよ!」
「ココアちゃんも大喜びだわ!!」
「いかがですか?」
「ここに決めます!!!」
「ありがとうございます!!」
高額なペット用一戸建ての豪邸がついに売れた。
飼い主はほんとうに嬉しそうな顔をしている。
「ああ、こんなにいい物件を教えてくれて……。
本当にありがとうございます」
「いいえこちらこそ」
「ココアちゃん、ずっと自宅で飼ってたんですけど
そろそろ手狭に感じたかなと思ってたんです」
「ここならきっと快適に過ごしてくれますよ」
「よかったわね、ココアちゃん」
「ワンワン!」
こうしてまた町に幸せな家がひとつできた。
数日後、不動産屋は管理のためにペット用豪邸を訪れた。
「ココアちゃん、元気にしてるかな」
不動産屋が門を過ぎ、ドッグランまで向かう。
ちょうどそこに飼い主がいた。
「あら、奥様。今日はこちらに?」
「ええそうですわ。不動産屋さんは?」
「定期メンテナンスでうかがたんです」
「そうでしたの」
「ところでココアちゃんは?」
「いないわ」
「えっ? どうして?」
ペット用の家に犬がいないことに驚く不動産屋。
飼い主はにこやかに答えた。
「ココアちゃんったら、やっぱり元の家から離れたくないみたいで」
「はあ……」
「だから、元の家をココアちゃんに住んでもらって
こっちの家には私が住んでいるのよ」
飼い主はペット用のごはんをモリモリ食べながら話した。
ペット専用一戸建て不動産 ちびまるフォイ @firestorage
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