生き延びた方へのインタビュー
――この記事について、公開するか否か迷いましたが、これらのメモ書きについて、残された意義を確認するためにも公開に踏み切りました――
「ええ、あ、名前ですか……『大ニチ棒空』です、はい、大きいの『大』にニチミソの『ニチ』あとはよくある『棒空』です」
ペンで紙に何かを書く音
「はい、私が乗っていたのはチハマレ航空のニハ泥便です、ちょうど帰省ラッシュの時だったので、飛行機には日本人ばかりだったと思います、いえ、特に変わったようすもなく……皆さん疲れたーとか、楽しかったねーみたいな話をしていて、とにかく休みが終わるあの時みたいな雰囲気で和気あいあいとしていました」
椅子にしっかり座り直した音?
「ええ、フライトが始まってシートベルトのランプが消えてから、とにかく4時間のフライトの予定でしたので、皆さんも機内サービスや、お土産のお菓子を食べたりしていました、ええ、私も、その、飛行機が苦手なので、ワインを貰ってのんでいました」
グラスの氷が溶けて鳴った音
「それから、ええ……機内で映画をみました、正直見たこともない映画ばかりでしたけど、窓の外を見るのも緊張してしまうので、フライトから二時間過ぎたころぐらいですかね、ワインをのみすぎてしまって、私、お手洗いに向かったんです、で用を済ませていた時に、あの、悲鳴が、聞こえてきたんです」
おしぼりのビニール袋をくしゃくしゃする音?
「それでお手洗いから悲鳴の聞こえた方を覗いたんです……前後左右丁度真ん中の3列シートの左側くらいに男の人がたっていて、自分の首に何かを刺してました、怖かったです、何が起きてるのか理解できませんでした、その人が自分の首に刺した何かを抜くと、噴水みたいに血がバーッて、それから今度は窓際に座っていた女性がいきなり立ち上がって、その人……ごめんなさい、ちょっと休憩させてください」
録音が飛ぶ
「はい、すみませんそれで、えっと、あっ女性が立ち上がってその、自分の上顎と下顎に手をあてて、そう詰め放題のビニール袋あるじゃないですか、あれみたいにこう……ぐっと」
グラスを倒す音
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい……えっと、それからはもう滅茶苦茶で、色んな所から罵声やら怒号やらで、私怖くてトイレに鍵書けて籠ったんです、それから気付いたら私も病院に運ばれてて、はい、トイレットペーパーを喉に詰め込んでたみたいです、なんでそんなことしたのか私も未だに分からなくて……それから私、トイレットペーパー使えないんです、家でしかお手洗いに行きませんし、ウォシュレットで済ませてるんですよ」
紙に何かを書く音
「えっ……手で……」
このインタビューの後、彼女が家で死亡しているのが発見されたそうだ。
右手を喉の奥に突っ込んで、嘔吐しながら窒息していたらしい。
――ここまでがメモに残っていた全てです――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます