董卓の朝食

風馬

第1話

朝焼けが赤く空を染める長安の城内。宴の余韻を残した部屋の片隅で、董卓は呻き声を上げていた。


「うう、胃が痛い……なんだこれは、誰だ、昨夜の酒に毒を盛ったのは!」

寝台に転がる董卓の顔は蒼白だ。昨夜の豪勢な宴会で酒池肉林を存分に楽しんだ彼だったが、今はその報いを受けているらしい。


「相国、朝から大騒ぎですな。」

冷静な声が部屋に響いた。軍師の李儒が手に巻物を抱えて入ってきた。


「胃痛ですか。昨夜の宴で何をどれだけ食べたか覚えていらっしゃいますか?」

李儒は顔色一つ変えず、床に転がる董卓を見下ろした。


「お前の策のせいだ!もっと強い酒を持ってこいと言ったのは誰だと思う?」

「おっしゃる通り、相国のお言葉には逆らえませんでした。それに、昨夜の豚肉の塩焼きに酒を注いで飲み込む姿はさながら飲食の猛将でしたよ。」


董卓は眉間にしわを寄せて呻いた。

「お前は皮肉を言いに来たのか!医者を呼べ、医者を!」


李儒は溜息をつきながら、手元の巻物を広げる。

「医者なら既に城を出ました。『酔った相国に対する治療は私の手に余る』と申しておりました。」


「なに!?」董卓は怒りに震えるが、立ち上がるどころか腹を押さえたままだ。

「ならば、お前が治せ!お前は策に長けた軍師だろう?」


「確かに策は得意ですが、胃袋の中で相国の大酒が起こした乱を平定する術はありません。ただ……」

李儒は少し考えた後、傍に置いてあった董卓の朝食を手に取った。皿の上には脂っこい肉料理が山盛りだった。


「胃が痛いと言いながら、この朝食を平らげようとしていたのは相国自身です。」

「これがどうした!男たるもの、肉を食わねば力が出ぬ!」


李儒は皿を掲げ、董卓の目の前に差し出した。

「それは素晴らしい覚悟ですね。しかし、胃の反乱軍が相国を討ち取る前に、次の宴会の準備を考えるのが先決では?」


董卓は皿を睨みつけ、ようやく沈黙した。そして次の瞬間、皿を放り投げる。

「くそっ、食えぬのは無念だが、今日は粥を持ってこさせろ!」


李儒は心の中で笑いを堪えながら頭を下げた。

「かしこまりました。粥の国を制覇する相国が見られるとは、歴史的な一日になりそうです。」

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