壊れかけの天使

Rio✩.*˚

壊れかけの天使

ガラス細工のような美しい透明の玉が列を作り、手前を流れていく。念じながらそれに触れると、そこに色がついた。


淡い赤。濃い青。グレー。それと透明のままのも。


透明のままでも美しいそれに、色をつけ加えて行く。つける色は、ガラス細工のようなそれを見ればすぐに分かった。


ひたすらに蒼く、ほの暖かい空間の中で、僕達はそれらにそっと触れ続ける。


「なぁ、たまにさ、俺達がなんというかとてつもなく傲慢なことをしてる気がするんだ」

「どうしたの?急に」


レオが珍しく浮かない表情をしていた。僕は、レオに聞き返しながら、絶えず魂に触れ続けた。


「俺達ってさ、こうして魂に触れて勝手に才能を与えてさ、しかもわざと与えなかったりして…与えた後は放ったらかしだろ?それって無責任なんじゃないかって」


「レオが言いたいことはちょっとは分かるけど、僕らの役目は上からの指示に従い、こうして神様から授かった力を行使して、才能を与えることだけ。それに与えられない魂は、前世で悪い事をしたからだよ」


魂を見れば分かる。これには運動神経。これには知能。これには諦め。これには美貌。

これは前世で人を殺したから何もなし。


触れてく度に、色がついた。濃い赤。薄い黄色。淡いオレンジ。紫っぽいピンク。そして、無色。


全部とても綺麗だ。


「でもさ、この人は親に虐待され続けて復讐で殺して、それからも悪いことばかりで自殺した人じゃんさ。そこまで分かるのに何で何も出来ないんだろうな。この人は次の人生だって何も才能のない自分に絶望して上手くいかないかもしれないじゃないか。それに…」


彼は何故かとても苦しそうだった。焦っているようにも、自分に絶望しているようにも見えた。

何でだろう。周りも、魂もすごく美しいのに。


「何で、そんなに苦しそうなの?」


僕がそう言うと、レオはイラつくような素振りを見せた。


「何でだよ…。お前もさ、少し前は疑問に思ってたじゃねぇか。何で何にも思わなくなっちまったんだよ。この、理不尽に才能を与え続ける天使の役割に」


そうだっけ。一瞬そう思ったものの、そういえばと思い返した。

そういえば、僕だって、まるで何かに怯えるかのように、魂に才能を与えることに拒否感を示していた。


「そうだね。でもさ、全員に同じ力を与えたって、結局苦しいんだよ。その事に何を思ったって仕方ないでしょう」


才能を持たない者は無力に苦しみ。才能を持つ者は他人からの評価に苦しむ。普通な者は目立てないことに苦しむ。


誰だって苦しい。


「ぶっ壊れてるよ。お前」


レオは、口の悪い言葉を吐きながらも、泣きそうだった。でも、僕は彼を励ます言葉を知らない。


「壊れていないとできないよ。この役割は。君だってそうだ。壊れられないと天使の力を剥奪される」


僕達の前を進んでいくこれらは、壊れないで生きていける。でも、だから苦しいんだ。


「…そっか。でも、まだ壊れるのは怖いな。だからって壊れてないでいられる人たちに理不尽に才能をつけるのがいいとは思えないけどさ」


彼は苦悶の表情のまま、魂に触れた。色は白に変わった。やっぱり綺麗だ。


レオは付け足すように再び口を開いた。


「どんな色の人もいい人生送れるといいなってつい願っちまうよな」


不器用に笑顔を浮かべ魂に触れる彼は、僕の知るどの天使よりも人間っぽくて、天使らしくも見えた。


視界から消えていく魂は全部、美しく光り輝いていて、全てがいい一生を送る気さえする。


僕達は、このただ蒼い空間の中で、ひたすらに世界一傲慢で、代償ばかりの役割を果たし続けた。

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