守りたいあなたへ
咎日心彌
第一話《太陽がどんなに輝いていても、沈む時がある》
剣の光が空気を切り裂き、剣先が突き刺さる音とともに、彼の手が剣を握って止めようとするが、彼の恐怖の声「怪物…!」は途中で途切れる。倒れた者は目を見開き、口元には消えぬ恐怖と憎しみが浮かんでいた。彼の血は急速に地面に染み込み、濁った赤色が焦土を染めていく。
男は足元の死体を見下ろし、顔は鉄のように硬く冷徹だが、どこか言い表せない疲れを感じさせる。左頬に刻まれた深い傷は重い息を吐くたびにわずかに歪み、無数の苦しみを物語っている。彼は一度もそれを長く見つめず、ただ剣を引き抜き、血が四散し、鮮やかな赤い弧を描いて彼の血痕だらけの鎧に滴る。
壊れた馬車のそば、華奢な体がに包まれ、残骸の中に丸まっている。マントの影が顔を隠し、ただひとすじの髪の毛が風に揺れる。男は長剣を腰に剣を鞘に納める、膝をついてその少女を優しく抱き上げ、背中に負う。動きには苦しさが漂うが、その眼差しは異常に決意に満ちている。
「俺は…守らなければ…」彼は低くつぶやき、声はかすれ、低く沈んでいる。それは自分への命令のようであり、未来への誓いのようでもあった。
周囲の景色はまるで地獄のようだ。焦げた大地に、残骸と折れた武器が散らばっている。死者の中には、死ぬ間際まで抵抗していた者もいれば、顔が崩れ、血肉と灰が区別できない者もいる。ここは、戦場であり、また地獄でもある。
男は少女を背負って重い足取りで歩き、馬に乗せる。傷ついた顔をわずかにしかめ、眉間に深いしわが寄り、それはまるで自分の苦痛を嘲笑うかのようであり、また忘れられない記憶を思い出させる。彼は馬に乗り、少女をしっかりと固定し、疲れながらも歩みを続ける。彼の歩調は、まるで世界と戦っているかのようだった。
馬背に乗せられた少女は、依然として無言で、眠っているようにも、苦しみから解放された世界にいるようにも見える。
夕陽の余韻が荒れ果てた大地に降り注ぎ、血と火が残酷な赤に染まりながら一つに溶けていく。天の光は次第に低くなり、まるでこの死のような土地を覆う最後の幕を降ろすかのようだ。男の姿は孤独に前進し、その影は夕陽に引き伸ばされ、未知なる遠くへと延びていく。地平線と一体化するまで。
夕陽が完全に隠れる前に、馬は足を止めた。男は顔を上げ、煙の中から前方を凝視する。廃墟となった町が地平線の先に現れ、崩れた城壁が半分倒れ、煙はすでに消え、周囲は静寂に包まれている。
かつて繁栄を誇ったこの町は、今や死寂に包まれている。男の眼差しは一切動じることなく、まるでこのような光景にはすでに慣れてしまったかのようだ。彼は馬背に載せた少女を少し調整し、彼女が落ちないように確認した後、再び歩き始める。
廃墟を歩く中、地面の瓦礫や骨がかすかな音を立て、彼の足音と混ざり合って響く。彼は倒れた木造の家の前を通り過ぎ、その中から飛び散った家具の破片の中に、かつて何かを掴もうとした枯れた小さな手がかすかに見える。男はその手をちらりと見たが、足を止めることなく、さらなる一歩を踏み出した。
馬背の少女がわずかに動き、寒さを感じ取ったかのように身じろぎした。男は彼女をさらに包み込み、低く言った。「もうすぐだ、耐えろ。」
その言葉は冷徹でありながらも、どこか微かな優しさを含んでいた。
廃墟の中央に到達した男は立ち止まり、少女と馬をそこに置いて、毛布を取り出して彼女にかけてやった。彼は周囲を見渡し、まるで何かを探しているようだった。振り返り、少女を見たが、彼女は目を覚まさず、ただ微かに眉をひそめて不安そうな夢を見ているようだった。男は少し迷った後、彼女の額に手を伸ばし、軽く撫でる。その動作は、過去の影に触れるかのようだった。
最終的に彼は、草に覆われた隅の方を見つけ、ゆっくりと歩いていった。
そこには古い井戸があり、井口は苔で覆われているが、水は澄んでいる。男は身をかがめて水を汲み、顔にかけると、冷たい水が傷跡を滑り落ち、一瞬、彼の意識が鮮明になった。
井戸の水面に映る彼の顔—荒れ果て、疲れきった顔。左頬の傷は、決して癒えぬ裂け目のようだった。彼は自分を見つめ、軽く息を吐いた。
その瞬間、遠くから低い咆哮が響き渡った。男はすぐに立ち上がり、手を剣の柄に置き、廃墟越しに音の出どころを見据えた。
そこに現れたのは、ひどく歪んだ怪物だった。その体は巨大で、粗い鱗に覆われ、隙間から黒い膿が染み出している。腐った野獣のような顔、露出した犬歯、耳の根元まで伸びた口、そして粘着質の黒い液体が滴っている。目の中には狂気と飢餓が宿っている。
男はゆっくりと剣を抜き、刃が夕陽の最後の光の中で冷たく輝くのを感じた。彼は少女の前に身を挺して立ち、足元は地面のように安定し、身影は岩のように動かない。左頬の傷跡が引き締まった表情とともに、より一層恐ろしげに見える。
夕陽が完全に沈み、夜の帳が降りると、最初の星が空に浮かび、廃墟の中の戦いを照らした。
剣光が夜の幕を切り裂き、怪物の鋭い咆哮が響く。その怪物は狂ったように突進してくる。地面が震え、砂土や瓦礫が舞い散る。まるで滅亡が近づいているかのようだ。
男は後退せず、深く息を吸い、足元は岩のように安定していた。眼中には決然とした光が宿り、剣を振りかぶり、怪物の心臓を目指す。その瞬間、彼はもはや一歩も退くことはなかった。
怪物は大きな口を開けて男に噛みつく。鋭い歯が男の鎧を貫き、血が飛び散るが、男はひるまない。怪物の牙は彼の腕に深く食い込み、しかし彼は構わず、右手の剣を怪物の心臓に向かって突き刺す。
だが、剣尖が鱗甲と衝突し、耳障りな金属音が響き、貫通しなかった。怪物は激しく暴れ、男を投げ飛ばす。
「くそ!」男は痛みに喘ぎ、ほとんど意識を失いそうになったが、それでも諦めなかった。投げ飛ばされた瞬間、男は頭を低くして、怪物の片目を思い切り噛みついた。黒い液体が四散し、怪物は激痛に動揺する。
その一瞬だ!
男は全力を振り絞り、剣を怪物の心臓に向けて突き刺し、左手で剣柄を鉄槌のように叩きつけた。数回の衝撃で、剣尖が鱗甲を貫通し、心臓に達した。
怪物の咆哮が突然止まり、その巨大な体が地面に倒れ込み、土埃を舞わせた。男は息を荒げ、半分膝をつき、血が流れ出る。体は崩れそうだが、彼は知っている。止まってはいけない。
彼は辛うじて立ち上がり、体中に傷だらけで血を滴らせながら、確固たる決意を胸に、少女の元へ歩み寄った。
男は手を伸ばして、少女の髪を軽く払い、低く囁く。「エリア、パパは…ずっと守るから。」その声は優しく、しかし強固なものだった。
傷だらけで血を滴らせながら、男は歩みを進めた。足元の土地はすでに赤く染まっている。
「この日々は…一体どれだけ続いたんだろう…三ヶ月?」男は呟いた、その声には疲れと自嘲が混じっていた。
あの天変地異のような出来事以来、彼は時間の流れを覚えていなかった。昼も夜も、彼には違いがない。ただ、終わらない戦いと怪物の襲撃が続いているだけだった。
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