第9話

弔問客がやっと途絶えたのは夜も深まった頃だった。


外の雪は相変わらず音もなく降り続いている。


母親はいつの間にかうたた寝をした兄の子供を抱きかかえると、一足先に家に帰って行った。



一刻も早くここから離れたいのだろう。


兄にはその気持ちが分かる。



いくら弔問客が多くても。


いくら愛されていた事を実感できても。



その人はもう目覚めない。

その人をもう愛せない。




後片付けをする葬儀屋を兄は椅子に座りながら腑抜けた顔で見つめていた。



「蓋外しておいてください」



急に言われた言葉に葬儀屋は眉をしかめ、疑いの眼差しを向けてきた。



「大丈夫です。今晩はコイツについていてやりたいんです」


「しかし」


「閉め切られたまんまじゃ息苦しいだろうと思うから」



まるで生きているかのように言った兄を訝しげに見やりながら、葬儀屋は棺桶の蓋を外した。

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