第43話

胸から暴れるような鼓動が聞こえる。

それはきっと全力疾走していたせいだけではないだろう。


左手に握り締めていた箱をそっと両手で包み込む。


そして口付けた瞬間、



「鬼ごっこもここまでだな」



すぐ後ろで低い声を聞いた。


それと同時に右のこめかみに感じる、冷たい感触。


恐る恐る視線を向けてみると、暗がりの中に黒い銃口を見た。


ヒッと小さく叫んで振り返れば、そこには今しがた自分を追いかけていた男、ヨシキの姿があった。


足音は聞こえなかった。それはおろかドアを開ける音すら聞こえなかった。


若葉は箱を持った両手が誤魔化しきれないくらい震えているのに気づく。



「案外足が速いな」



ニッと笑うヨシキが持つのは銃。

ヨシキの威圧的な出で立ちにその銃が偽物ではないと、若葉は覚った。

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