第26話

「お客様…困ります」



すると、ぼんやりとしていたヨシキに近づいてきた従業員の黒服の男が困惑しながら耳打ちをしてきた。



「ドアマンに料金をお支払いになってから入場をお願いします」


「そのドアマンに俺らの身分聞けよ」



興をそがれたヨシキはうんざりとしながら言い返す。

従業員の男は耳につけたインカムにぼそぼそと何かを囁くと、驚愕の眼差しをヨシキに向けた。


タカオが話をつけていることは分かりきった事。あいつはそういう男だ。


失礼しました、と言いながらも傍を離れず警戒する目つきを向けてくる従業員に、ヨシキは「失礼だから消えろよ」とつい言いたくなる。


別に女を見定めてるわけじゃない。この光景に酔いしれているわけでもない。


ただただ強制的に与えられる非現実的な感覚に、わずらわしい事を瞬間的にでも忘れたかった。


しかしそんな悠長にしている暇はない。

客の男らがダンサーの胸にチップを挟んでいる光景を見て、ヨシキは満足した。ビジネスなんてこんなもんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る