第3話

誰も居ない広い屋上。



その光景を目にしながら私は自分の顎までせり上がった縁を掴んだ。



地面を蹴って縁に足を掛ける。



やっと落ち着く事の出来た足がフラフラして、立ち上がろうとしても上手くはいかなかった。



ゆっくりと。意識を整える様に。



真っ直ぐ背筋を伸ばして前を見れば、そこには青い空だけがあった。



地上から見るのとは違う隔てる物が何も無い空。



その景色に満足した私は、次に足元に視線を落とした。



途端に吹き上げてくる風に私の髪がバラバラと宙を舞う。



乱舞する髪に視野を妨げられながら地上を見つめると、さっきまで私と同じ大きさだった人が蟻んこの様に小さく見える。



マンションの前を行き来するその蟻んこを、私は手を伸ばして掴んでみた。



大きな私の手の中に収まった蟻んこはそのあまりの小ささに上手く掴めなかったらしくて人差し指と中指の間からもぞもぞ出てきた。



……楽しい。



地上の世界がこんなにも楽しいって感じるのはどれくらいぶりだろう?

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