第8話
あの酸いた香りが好きだった。
発酵途中の乳酸菌が元気よくうじゃうじゃ暴れ回るのが、顕微鏡を通さずとも晋太郎の目に見える気がした。
それを舌の上に載せれば、何億という得体の知れない微生物に自分が侵されていくような錯覚を起こす。
辛味か、酸味か、その先にある甘味か。
晋太郎はキムチを食べているとどの味覚に身を委ねて良いのか曖昧になりながらも、舌を代わる代わる刺激される感覚にキスよりも満足感を覚えた。
それを少し前、知り合いに話したら例の引きつり笑いをされた。
関鼎会の血を引く人間が言う常人では理解し得ない話は、笑い飛ばされもせず、かと言って馬鹿にもされない。
晋太郎は分かり合う気などない。
恐らく、こんな気味の悪い話を「馬鹿か」と呆れるのは父親か組の上層部くらいだろう。
そう思うと、入る気は無いにしても関鼎会は自分の居場所だと気付く。
晋太郎は瞼を開けた。
組の人間とキムチを食べる夢を見たような気がしたけれど、覚醒した今となっては空気中に散っていく朝靄のようにその輪郭すら見えなくなる。
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