第7話

青白い肌が雪に照らされて更に白さを増し、一見すると病弱なまでに見える。


それでも急いで来たのか上気させた頬が彼の健康を物語っていた。



少年は深く積もった雪に何度も足を取られて、謙真がやった靴を何度も置き去りにしていた。


巨大な哺乳類の二足歩行のように右に左に大きくなおかつ慎重な足取りで、彼はやっと謙真の前に辿り着いた。



「先生。皆さんがお待ちです」


「ああ……」


佐世サセ様も探しておられました」


「そうか」


「あと少しで出航だそうです。ええっと……」



少年は肩に羽織った短いケープの下から懐をまさぐって何かを取り出そうとした。


すっと引き出された厚手の手袋の中に隠されていたのは、銀色の懐中時計だった。


その蓋を開くと神妙な面持ちで文字盤を見つめて……。



「この長い針がここに来る頃には出るそうです」



……それでも分からなかったのかバツの悪そうに懐中時計をかざして見せた。



常盤トキワ



謙真はそんな常盤にやっと面白さから微笑んだ。



「それは『十分』と言うのだ」


「じゅっぷんですか?」


「ああ。この針の一刻みが一秒。それが六十回刻んで一分。だから十分はこの針が何回刻まれた事になる?」



常盤は瞬時に黒目だけを真上に上げた後、にんまりとした。



「六百刻みになりますね?」


「お前は聡明な子だ」



謙真は賛辞を送る様に噛み締めながら呟くと、再び蒸気船に目を向けた。

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