第7話

「先生?今日はどうなされたのですか?」


「さあ?ただ飲みたいだけだ」


「お一人でいらっしゃるなど、暮れ以来ですね?」



ふふっと笑った口を袖で隠した阿市は実は気付いているのかもしれない。もしくは女の勘か。


このまま寂しさに酔って阿市を抱いてしまおうというよこしまな思いが過ったが、過去の二の舞だけはしたくなかった。



「ああ。たまにはな?」


「振られましたの?」


「どうだか?」



曖昧に笑って杯に口を付けた謙真は、ふと瑪瑙の簪を阿市にくれてやろうかと思った。


だけどそれもやめた。


阿市とて別の女の為に買ってきた物を貰っても嬉しくもない筈。


結局、その晩は飲んで阿市の舞を見て、帰った。



そして次の日の早朝、謙真は誰にも告げずに常盤を伴って島を離れた。

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