第6話

家が一気に暗くなった。



夏の日差しが肌を刺してじりじりと焼き蝉の声も喚く様に騒がしいのに、謙真の心には果てしない虚無が広がっていった。


島の環境は良くなっていった。それは謙真の周りの誰もが認めるくらいに。


でも讒言は一向に止まなかった。


心が虚ろになって墨汁を注ぎ入れたかのように真っ暗になる。


それでも外見は平然を装っていた。



そんな緊張の糸が切れたのは佐世からの手紙だった。



『治水工事が上手くいかない。中央は俺を首都に呼び出してばかりだ。きっと工事の足止めをさせたいんだろう』



その日、謙真は辞表届を中央に送った。



手回しは鮮やかだった。



タカには暇を与えた。



「妙ですねぇ?こ~んな時期にお暇をくださるなんて」



訝しげなタカを言いくるめて実家に追い返した。


府庁の奴等には何も言わない。中山にも明北にも。


ただ島を離れる前日の晩、櫛亭に上がった。

阿市を呼び出して他愛もない話をした。


寂しいのかもしれない。本当は。


しかしその思いもどうする事の出来ず謙真はただ杯を重ねていった。

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