異世界転生できたのだから夢オチだけは勘弁してくれーリセットー
磁石もどき
第1話 異世界へようこそ
目が覚めたはずなのに、目の前に暗闇がひろがっている。瞼を開けている感覚はあるのに、何も見えない。一瞬不安がよぎるも、夜中なだけだと安心し、再び眠ろうと横になる。その瞬間だった。
突然、天井から暗がりを切り裂くように光が降り注ぐ。その光は不自然な程に白く、眩しさに目がくらんだ。
「お待ちしておりました!創造主様!異世界へようこそ!」
鈴の転がるような声が響く。目が慣れてくると、目の前にはスポットライトを浴びる愛らしい少女の姿があった。サラサラとした白い髪は腰まで流れ、真っ赤な瞳はルビーのように輝いている。その目は確かに俺を捉えているのだが、『異世界』だの『創造主』だの、全く理解出来ない。とりあえず、ゆっくりと後ろを見てみた。しかし、そこには暗闇があるだけだった。
「創造主って俺の事言ってます?」
「はい!ハジメくんのことです!」
「俺が創造主……?」
「はい!」
彼女は嬉しそうににっと笑顔を浮かべる。なんだか気恥ずかしくなってそっと視線を逸らした。もしかして、俺が創造主、として異世界転生できたとかそういうことか?
「創造主って、なんなんですか?なにか国とか創ったとかですか?」
「そんなちっちゃなものじゃないです!この世界そう、君はこの異世界の創造主様なのです!」
彼女のセリフと共に、俺はスポットライトに照らされる。彼女は大袈裟に両手を広げ、くるりと1周まわって見せた。
「それで、異世界はどこですか?」
「ここもそうですよ?」
「え……」
再度辺りを見渡すも、特に異世界らしさはどこにもない。首を傾げていれば、彼女は慌てはじめた。なんか、怪しい。
「えっと、ここはお部屋の中と言うかなんというか……ほらあそこに窓が見えますよね?」
彼女が指さした先には田の字に切り取られた窓があった、のだが、どうもにも不自然だ。窓枠境界線がぶっとく、ふにゃふにゃと歪んでいる。小さな子供のラクガキがそのまま立体化したようだった。窓の外を見ればそこには草原があった。遠くのほうに町を囲うレンガの外壁らしいものが見える。だが、どれもこれも不自然だ。草は二色の絵の具できっちり塗り潰したような感じだし、外壁には奥行きが感じられない。
「なんか、ちゃっちくないですか?」
試しに窓を開いてみた。だが、困惑は深まるばかりだった。ただのイラストが貼り付けてあるだけだと思いきや、窓の外はちゃんと続いていたのだから。
「それは創造主様の想像力がちゃちぃからです。いいですか」
彼女は人差し指を立てながら説明し始める。
「ここは君が想像したものが、そのままえいやっと創られていくんです。例えば、割り箸を思い出して見てください」
箸ね。何の変哲もない割り箸を想像してみた。おてもとって書いてある紙の中に割り箸か1膳。すると、俺の目の前にぽとりと何かが落ちてきた。それは、紛れもなく割り箸そのものだった。
「流石、創造主様!ほぼ毎日使ってるだけありますね!割り箸の創造に成功です!」
彼女は大袈裟にパチパチと拍手をする。とはいえ、割り箸だ。盛り上がりにかける。試しに割ってみれば、全く綺麗に割れずに偏ってしまった。
「妙にリアルだな」
「割り箸の解像度が高い証拠ですね!」
彼女はとっても嬉しそうにするのだが、俺は割り箸マニアではないのであまり喜べなかった。
「では、異世界っぽいアイテムを創造してみましょう!」
「最強の剣とか……?」
「ド定番でいいですね!じゃあ想像してみましょう!」
言い方が妙に鼻につくけど、まぁいいや。えっと、手に持つ部分と、刃の部分。刃はなんか凄そうな鉱石で出来ていて、大地をも切り裂くみたいな。十字になってるあの部分に、凄そうな宝石が埋め込まれてて、魔力が無限に入ってる……とか。今度はごとっと重そうな音が聞こえてくる。目の前には、境界線がぶっとくふにゃふにゃとした剣があった。赤い宝石が埋め込まれている。
「流石です!創造主様!最強の剣も創造に成功しました!」
「……威厳も何もなさそうな剣なのですが」
一先ず手に持ってみれば羽根のように軽かった。鞘から取り出せば、光に受けてきらんと刃が光る。こんだけふにゃふにゃなのに、鞘に引っ掛からないのは物理的におかしくないか。
「最強の剣で何しますか?世界征服ですか?ドラゴン大事ですか?経験値稼ぎですか?それとも誰かに自慢しちゃいますか?!」
「ちょっとずつスケール小さくなってません?」
彼女が話しながらグイグイと来るもんだから俺はその度に、グイグイと後退していった。正直何したいとかなんも考えてなかった。でもまぁ、異世界転生と言ったらやっぱり
「俺TUEEEEしたい」
「いいですね!じゃあ早速俺TUEEEE第一弾かいっまく!」
ピギャグギャー!
彼女の合図とともに何かの鳴き声が辺りに響いた。少し遅れて、スポットライトがもうひとつ何かを照らしだす。モンスターが現れた。目はぎょろりとでかく、上下アシンメトリーにくっついている。身体はぬちゃぬちゃとしている。絶対に触りたくない。その身体は幼い子供が、クレヨンで豪快に塗ったような配色で、不気味さがより一層際立っている。しかもそれが1mはあるのだ。恐ろしさのあまりに竦み上がる。
「ふぁいとー!ですよ!」
「いや怖いですって!」
「大丈夫です!最強の剣があるんですから!」
俺は弱音を吐き、彼女は勇気づけるを何度も繰り返した。その間何故か相手は攻撃してこない。最終的にへっぴり腰になりながら剣を構えた。
「うりゃぁぁあー!!!」
情けない掛け声とともに、振りかぶるも、距離を見誤りモンスターに刃は届かなかった。
「あ、やったわコレ」
俺の独り言の少しあとに、遅れて斬撃が飛んでいく。凄まじい破壊音が鼓膜を劈き、パカっと目の前に大きな地割れを作った。地割れを覗き込めば奥が見えず遠くに赤いマグマがチラと見えた気がした。思わずゴクリと息を飲む。
「流石です!」
「すっご…」
俺の情けない声が静かに響いた。
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