亡国のモデュラシオン~どうか助けて頂けないでしょうか、幾度やり直そうとも国が滅んでしまうのです~

中谷 獏天

第1話 始まり。

『お前を処刑する!!』

「違うんです!私は」

《滅ぼしましょう》


『アナタは』

「女神、様?」

《ふふふ》


『いや神々は、お姿をお隠しになられ』

《どうせ滅ぶのです、せめて直々に宣言しに参りました、もう記録にも記憶にも残らないのですから》


『何故ですか!!』

《それが分からないから滅ぶのです、では、ご機嫌よう》

「どうかお止め下さい!!」


《では、止めてみせなさい、王妃よ》


 そうして私はやり直す事になった。




《王妃様!おめでとう御座います!!》


 最初に私が巻き戻ったのは、王の戴冠式の直後。

 私の不貞が捏造される前だった。


「ありがとう」


 それからは以前よりも更に気を付けた。

 不貞の捏造さえされなければ、そう考えていた。


 けれど。


『嫉妬から側妃の暗殺を企てるとはな』


 失敗してしまった。

 夫は私を、最初から愛してはいなかった。


 そうして再び私は、処刑された。


「女神様、どうかお願いします、次こそは」




 次に目覚めた時は、婚約が決まった直後だった。


《おめでとう御座います、王太子妃》


 私は愛される努力をした。

 彼が選んだ側妃の様に、可愛らしく振る舞う努力をし。


 子に恵まれ、このまま平穏が続くだろうと思っていた。

 けれど。


『お前とは婚約破棄だ!!』


 息子は婚約者に汚名を着せ、大勢の目の前で断罪を。

 そして。


《やはり、滅ぼすしか無いですね》

「女神様!お待ち下さい!!」


《何故です、既に未来は決まりました》

「どうか!もう1度だけ」


《良いでしょう、頑張りなさい、王妃》




 私が王妃に相応しく無いからなのか、婚約前に巻き戻っており。

 私は、王妃となる事を諦めた。


 けれど。


「何故、あの方が王太子妃に」


 側室としては問題無いけれど、とても政務の補佐には向かない者が王太子妃となった。

 そうしてやっと、私は問題の大きさに気付いた。


 この国は、容易く滅んでしまう。

 

《また、やり直しますか》


「もう、運命は決まっているのでしょうか」

《そうですね》


「どうか、もう1度、お願い致します」




 そうして私は、王太子妃となり。

 息子もしっかりと育てた。


 けれど、また、ダメだった。


 農民による反乱を抑える事が出来ず、私は民により、処刑される事となった。


『贅沢をしやがって!』

「それは違うの!!外交を行わなければ」

《言い訳なんか聞いて堪るか!処刑だ処刑!!》


 王族の覇権争いに負けた者が、国家転覆を企み流した噂が広まり、反乱へと繋がった。

 そして噂を流した者も、何もかもが処刑され。


 国は滅んだ。


 私は女神様の横で、国の最後を看取る事になり。

 結末を知るに至った。


「最後に、どうかお慈悲を」




 私は王に愛される為、可愛らしい子女の振る舞いをし、王太子妃となり。

 王妃となる前から、国の教育に全力を傾けた。


 けれども、国は滅ぶ事となった。


 数十年で民を変える事は不可能だった。

 再び、私は民に処刑される事となった。


《また戻しますか》


「いいえ、私の代ではもう、遅いのでしょう」

《はい》


 能力より、可愛らしさを優先し王妃を選ぶ王。

 幼稚な嫉妬心から正妃を追い遣る側妃。


 それを許す王、側近、家臣。

 あの様な王に、側妃に育てた親達。


 国が滅びては自らも苦しむ、その事すら理解出来ぬ民、貴族。


「滅びるしか無いと分かっていながら、何故なのですか!!」


《アナタが願ったからよ》




 私は、絶望のままに幼い私へと再び戻された。

 けれど、傍には女神様が。


「何故です」

《正解を教えてあげるわ》


 私は言われるがまま、国を出て隣国を回った。

 そして女神様の正解に、思い至る事が出来たのは、16才の頃だった。


「あまりに、我が国は、幼稚です」


 周辺諸国の教育水準に比べ、我が国は遥かに劣っていた。

 諸国より小さな国でありながらも、識字率・道徳教育、何もかもが劣っていた。


《滅びる他にない》

「はい」


《では、正解は何かしら》


「穏便に侵略して頂く他に、無いかと」

《そうね》


 そうして私は、最も大きな力を持つ国。

 帝国へと赴き、命を賭し手紙を出した。




《お手紙を拝見させて頂きましたが、何がお望みでしょうか》

「穏便な侵略です」


《侵略とは如何なる行為か存じてらっしゃいますか》

「はい、あの国はいずれ滅びます。全て焼かれ滅びるか、少しでも何かを残せるか、の違いに過ぎません。帝国に於いては周辺諸国の治安維持の利が御座います、ですが、それだけの事。どうぞ、この身をお使い下さいませ」


 表情も覇気も無い子女は淡々と話し、媚びる様子も一切無く。

 ただただ、事実をありのままに述べる様な態度だった。


《売国の罪は重い事を承知していますか》

「無辜の民を守る為です、それは矮小な我が国だけで無く、周辺諸国の民も含めての事」


《矮小、ですか》

「私は自国が私の全てでした、ですが世は広く、様々な国が存在しています。我が国は単に甘やかされていたに過ぎず、その立場に甘んじ、瓦解目前となっている。既に滅びの一途を辿っております、せめてもの温情に、どうか侵略して頂けませんでしょうか」


『そなたの益は何だ』

「無辜の民の安寧です」


『では侵略後、そなたに何が出来る』

「教育の強化、良き伝統や文化の選別、継続」


『侵略後の教育は容易では無いぞ』

「人質を使います、王族を使い民を正しき道へ戻します」


『正しき道、とは何だ』

「教育は投資では無い、誰にでも最低限有るべき財産、道であり階段。無ければ次へ進む事は不可能」


『断言するか』

「例え農民であろうと、文字が読めなければ容易く扇動されてしまう。我々にとって有り得ない夢物語であろうと、暴れるだけで益を得られる、そうした事を容易く信じてしまう根本が出来上がってしまう」


『教育だけで済むのか』

「いえ、娯楽と食の豊かさを提供し、職業を充実させ。農民意外の選択肢を広く理解させ、より優秀な者を国として雇用する」


『そなたが祖国に戻り、行えば良いのでは無いのか』

「いえ、それではもう遅過ぎる。国を思うべき貴族が己の利益に目が眩み、国家転覆を図ろう等と画策している、もう根から腐ってしまっているのです」


『穏便な侵略、その方法を示せ』


 子女は言葉を失った。

 その若さで根が腐っている事に気付けたものの、結局は若い子女。


 どう帝国が成すべきか、までは考えが至らなかったらしい。


「申し訳御座いません」

《まだ若い子女なのです、時間が足りなかったのかと》

『だが素養は有るらしい、勅命を出す』

《はい》


『侵略統括部門に組み込み、主導させよ、補佐はお前だ』

《はい、畏まりました》

《ふふふ、久し振りね》


《アントワネット・マリー、侵略統括部門への任を拝命す、コレは勅命である》

《皇帝は賢明であらせられます》

『《「皇帝は賢明であらせられます!謹んで拝命をお受けします!皇帝陛下万歳!!」》』


 彼女は本当に使い物になるのかどうか。


 その素養は偽物か、本物か。

 星の子か、そうで無いのか。


 私に見抜け、と陛下は命じられた。

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