5.騎士と軍人の邂逅


勇が居る客室の前まで来て、見張りの騎士が居ない事に気が付きケリーは怪訝に思った。

近くを通りがかった侍女を捕まえ、見張りの騎士の行方を聞くと、勇が外に出かけると言って部屋を出たため、一緒に行ってしまったのだと言う。

何処へ向かったのか聞くと、侍女は困った顔をして分からないと答えた。

ケリーは行方知れずとなってしまった勇を探しに城内を捜索する事にした。

数十分して。

勇の行方を掴めたケリーは城壁の上へ登る。

城壁の上を巡回している騎士以外の人影を探し、城壁の上を歩いていると城下町の方が良く見える位置に、二人の騎士と見慣れない髪色をした男を見つけた。

見張りの騎士まで近付き目配せして、ケリーは騎士の二人を下がらせる。

遠くを見つめる黒髪の男に、ケリーは意気揚々と声をかけた。

「――……見事なもんだろう?」

「!」

突如声を掛けられ驚いた勇は警戒心を剥き出しにケリーを睨みつけた。

しかし、ケリーは意にも返さず勇から少し離れた位置から、勇と同じ様に城下町に目をやった。

「皇帝陛下が座する、ここ首都アルベロは石壁の外が砂漠化してるとは思えないほどに立派に発展した城下街だ。当然、人の行き交いも多いし、お前の様な転移者やその子孫達が多く住んでいる」

名乗りもせずに城下町である首都アルベロについて語り出したケリー。

ケリーの誇らしげな横顔を見て、それまで接して来た人間とは少し違うと察して、勇はふっと警戒心を緩めた。

「……あの、目立ってる大木は何だ?」

勇の問いを受け、ケリーは嬉しそうに笑い、答えた。

「あの大木は、我らが主神で在らせられる女神ティアナを祀るために植えられた御神木だ。確か……樹齢千三百年ほどだったか……」

「千三百年……ふぅん……そんなもんか」

勇の反応を聞き、ケリーは意外そうな声をあげる。

「もっと驚くもんかと思ったが、お前からすると大した事ないか?」

「いや、千三百年もあれば立派な御神木に数えられるだろう。ただ、俺の世界ではそれ以上に長生きの御神木がいるから、その基準から言えば、あの木はそれほどじゃない」

しれっとして答える勇に対して、ケリーは興味深そうに目を輝かせて言った。

「ほぉ……やはり、異世界には木は沢山有るもんなのか?」

「異世界はって……、……まぁ、少なくとも俺の故郷は緑に溢れてる」

「そりゃ羨ましい! この世界は……あ、いや。我が国の緑地は少ないもんでなぁ」

心底羨ましそうに語るケリーを見て、勇は完全に毒気が抜かれ、何の躊躇もなく神国アロウティについて問う。

その問いに対して、ケリーはまた嬉しそうに語った。

誇らしげに語るケリーから強い愛国心を感じられて、勇は親近感まで沸いた。

暫くの間、他愛のない話を繰り広げていたケリーと勇だったが、話の途中で勇がハッと気付きケリーに名を尋ねた。

「――……そう言えば、おたくの名前は?」

「ん? 名乗ってなかったか! すまんすまん。私の名前は、ルイス・ケリーだ。一応、侯爵でな。最西端の土地を領地として任されてる。騎士としての階級は中佐。歩兵部隊三つを取り纏ってる中隊長だ」

名前以外の情報まで聞かされ、勇は微妙な顔をした。

「おたくが中隊長?」

「うむ。……何か気になるか?」

「……いや……」

尊敬する上官と階級は違えど、同じ立ち位置に居る男が目の前に現れた事に複雑な心境を持つ勇。

そんな勇の心境を知ってか知らずか、ケリーは構わず話を続ける。

「お前はイサム・カジロだろう? 異世界の戦士だ。私と同じように何らかの部隊に所属していたのか?」

ケリーの問いに勇は溜息を吐いて、苦い顔で答える。

「戦士じゃなくて軍人だ。階級は上等兵」

「ほぉ! お前の歳で上等兵とは立派なもんじゃないか!」

勇が答えた事を嬉しく思ってか、ケリーは勇を褒めた。

しかし、褒められた勇は更に苦い顔をして言う。

「……そりゃ、嫌味か?」

「ん? 嫌味? 何故だ? 十五、六で上等兵なら随分と立派なもんじゃないか!」

全く悪気なく言われ勇は怒る気も失せて、静かに否定する。

「……俺は二十歳だ」

勇が実年齢を明かすと、ケリーは目を点にした。

「……。何!? 二十歳だと!? 私の娘より一歳上ではないか!? お前の様な異世界人は、皆そうして若い見た目をしてるのか!?」

更に心底驚いた様子で童顔である事を言外に指摘され、流石に勇は顔を引き攣らせる。

「おたくらが老け顔なだけだろ」

「むっ! そんな事は無いぞ! 私だって年相応で……」

「四十代後半に見えるが?」

「私はまだ三十七歳だ!」

「やっぱり老け顔じゃないか」

最後の勇の言葉を受け、ケリーはむっとした表情で口を閉ざした。

心の中で勇に対して童顔である事を呟いていそうな顔をするケリーに、勇は神妙な顔をして言う。

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