初恋の少女は、なぜ【悪逆非道】の【魔王】になったのか?

熱燗徳利

第1話 消えた少女

 新年、諸白了哉もろはくりょうやは、幼馴染の篠国稚夏しのぐにちなつとともに、地元の鬼樫神社に初詣はつもうでに来ていた。寂れた神社なので、参拝者は他に誰もいない。


「了哉、何をお願いする?」


 そう尋ねる稚夏は、振袖を着こみ、後ろ髪をかんざしでまとめていた。了哉にとってその姿はいつも以上に可憐に感じられた。


「それは秘密……」

「えー、ケチ。教えてくれてもいいじゃん!」


 言えるわけがなかった。なんせ了哉は稚夏に『絶賛片思い中』であり、「今年こそ勇気を出して彼女に告白し、幼馴染の関係からもう一歩進展しますように」にと願うつもりなのだから……

 幼少期からいつか告白しようと考えて、もう了哉は一六歳の高校生になってしまった。そろそろ彼女にこの思いを伝えなければならない。


「もしかして、あれかな? 今年こそ剣術の試合で私に試合で勝ちたいとか?」

「あ、ああ。それもあるな……」

 

 了哉の実家には創破鬼伝流そうはきでんりゅうという剣術を中心とした古流武術が代々伝わっている。了哉と稚夏は幼少の頃よりお互い稽古に励んでいたが、高校生になって男女の身体能力に大きな差が開いた現在においても、竹刀を持ち、防具を着けての試合では稚夏の方が上手であった。


「それもってことは、他のお願いもあるんだ?」

「俺の願いはいいだろ……そういう稚夏は何を願うんだ?」


 了哉は必死に話をそらした。


「やっぱり皆の健康かな~」

「まあ、健康が一番だけどさ……」


「あとは……そうそう。今年はどっか遠いところに旅行したいなって」

 

 彼女がそう呟いた時だった。神社の本殿が青白く光り輝く。そして、稚夏の身体も光に包まれていく……


「稚夏、お前……身体が!」

「えっ? 何これ? 何なの!」


 突然のことに、稚夏も戸惑った様子だった。

 稚夏を包む光の青い輝きは徐々に強くなり、その姿が見えなくなる。


「稚夏!」

「了哉!」


 お互いの名前を叫びあう。しかし、それが最後に了哉が聞いた稚夏の声だった。



――そうして、光が搔き消えた後、篠国稚夏の姿もこの世から跡形もなく消えていた。

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