星喰らう者

@oscars_tavern

第1話 星の光、闇の中

凍てつく寒さが骨の髄までしみる、そんな季節のことだった。


日本のとある田舎町。周囲にはあまり人影もなく、静まり返った道が続く。

この町は、他の町とは少し違っていた。山々に囲まれ、空がどこまでも広がっている。

そんな町の魅力は、なんと言っても「星空」だった。まるで広大な宇宙そのものが、この町に降り注ぐように、毎晩満天の星々が輝いていた。それを求めて遠くから訪れる者も少なくなかった。


この町に住む少女、成瀬優は、部活動を終え、もう薄暗くなった田舎道を一人で歩いていた。

周りには誰一人としていない。寒空の下、優は友人たちと別れたばかりの心地よい余韻を残していた。

普段から人通りが少ないこの帰り道も、今日は一層静かに感じられた。冷たい風が頬を刺すが、それがまた、何故か心地よくもあった。

冷たい空気を吸い込みながら、優は足早に家路を急ぐ。その歩みの先には、薄暗くなる町並みを照らす、ほんの少しの灯りしかない。しかし、街灯の光に頼ることなく、足元の暗さにも慣れたものだ。

と、ふと歩みを止めた。視線が上に引き寄せられる。


どこまでも深く、果てしなく広がる冬の空。その空が、まるで優を見つめるかのように、無限の星々に包まれていた。その中でも、一際目を引く青い星が、そこにあった。

まるで燃え上がるような青さを放つその星は、新星と呼ばれていた。最近発見されたばかりのこの星は、その美しさから世間を賑わせ、注目の的となっていた。


優はその青い星を見つめ、ふと不思議な感覚にとらわれた。冷徹に輝くその青い光が、どこか遠くから優に語りかけてくるような気がした。それがただの思い込みなのか、星そのものが持っている不可解な魅力なのか、わからなかった。

ただ一つだけ確かなことは、その星がまるで、優の運命を予感させるような、そんな気配を感じさせたことだった。


「本当に綺麗…」


優はひとりごちる。その声は、静かな夜に溶け込んでいった。


ひとしきりその美しさに浸った後、優はふと我に返り、足元を見やった。

冷たい風が頬を撫で、耳元でささやくように吹き抜ける。まるで時間が止まったかのように、青い星に心を奪われていたが、現実の冷たさが再び身体を突き動かした。


再び歩き出そうとしたその時、急に背後の静寂が不安に変わり、胸の奥にひと筋の緊張感が走った。辺りには誰一人としていない。

だが、何かがおかしい…そんな気配に、優は無意識のうちに足を速めた。


その瞬間だった。


優の身体は、突如として闇の中に引き寄せられるようにして、無数の手に取り押さえられた。強引に腕を掴まれ、顔を覆うように力強い手が塞がれる。驚きと恐怖が一気に胸を締め付け、無意識に抵抗しようとしたが、相手の力は圧倒的だった。足元が崩れ、身体が持ち上げられる。どこからともなく響く、低い笑い声。だがその音も、まるで遠くから届く幻のように感じられた。


周囲には誰もいないはずだった。この田舎道に、こんなにも多くの人が隠れていたのだろうか?それとも、初めからここにいたのだろうか?答えを出す暇もなく、優の視界がぼやけていった。


その時、優の前に現れたのは、黒いローブをまとった男だった。長く、重そうなローブの隙間から覗く不気味な仮面。表情は一切読み取れない。その仮面の目の部分には、無機質で冷徹な輝きが宿っているだけだった。男は無言で近づいてきた。


優は、その男の手に持つ布が目に入る。それはただの布ではない、息ができなくなるような、強い化学的な臭いを発している。男はゆっくりとその布を優の鼻と口に押し付けた。優は必死に顔を背け、呼吸をしようとするが、息を吸おうとした瞬間、強烈な臭いが鼻腔に流れ込んでくる。


その瞬間、全身に冷たい感覚が広がり、足元がふらつく。意識が徐々に遠のいていくのを感じた。目の前が霞み、視界が暗くなる中で、唯一感じることができたのは、冷徹な仮面の男の存在だけだった。その顔が、ますます遠く、ぼやけていく。


そして、優の意識は完全に闇に飲み込まれた。

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