森の中でクマさんと出会ったらすぐに逃げようね

「コケーッ!」

「グルァアァアアアァ!!!」


 ミカンの腕の中で、思いっきり鳴き声をあげる。それによって現実に引き戻された二人は、咄嗟にその場を飛び退く。


「っ!?」

「あぶなぁっ!?」


 森のヌシの鋭い爪が、さっきまで二人の居た場所に深々と突き刺さっていた。

 いや、怖すぎるんだが? あんなの当たったら即死じゃん?


「あ、危なかったぁ〜……大丈夫だった? アイ、リス……?」


 安堵の息をついて、ミカンはアイリスの方に視線を向ける。

 すると、そこには──肩口から大量の血を流し、青いローブを鮮血で染めるアイリスの姿があったのだった。


「え……」

「へ、平気、よ……これ、くらい……かすり傷だわ……」

「コケー!」


 肩で息をしながら、アイリスは気丈に笑ってみせる。しかし、どう見てもかすり傷ではない。流れる血はとめどなく、肩口から脚を伝って地面に流れ落ちていく。

 早く止血しないとマズい。素人目から見ても、そう思ってしまうレベルの傷だった。


「アイリスッ!!!」


 悲鳴のような声を上げ、ミカンはアイリスの元へ駆け寄る。オレもミカンの手元から飛び降り、同じくアイリスの足元へ駆け寄った。

 ああクソ! この身体じゃ応急処置もできやしない! なんでニワトリの姿なんだ、オレは!

 

「ダメ! ダメだよ! しんじゃダメ!!」

「大げさよ……死ぬくらい……大したことないわ……」

「ふざけないでよ!! 蘇生の魔法は寿命を削って蘇生するんだよ!? アンタこれで何度目よ!!」

「コ……」


 今明かされる衝撃の真実ぅ。蘇生魔法さん、だいぶ重いリスク有りだった。

 いやまぁ、そんなゲームみたいにノーリスクでポンポン蘇生できるわけないよな。

 どんな凄い奇跡にも、対価は必要って話らしい。世知辛い世の中だぜ。


「グォアァアアアァアァアア!!!」


 二人が必死に言い争ってる間にも、当然相手は距離を詰めてくる訳で。

 目と鼻の先まで接近した森のヌシは、その鋭い爪を高々と掲げてみせた。


「っ……!」

「なにをっ……! ミカン、だめっ……!!」


 そんな絶望的状況を前に、ミカンは両手を広げてヌシの前に立ちふさがった。

 これ以上友達を傷つけさせまいと、覚悟の炎を瞳に宿して。


「やらせない──これ以上、アイリスを傷つけさせたりしないんだからぁっ!!!」


 そう、威勢よく啖呵を切ってみせたミカンを。


「────あ」


 森のヌシの爪が、容赦なく引き裂いてみせた。

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