山のバス停

天川裕司

山のバス停

タイトル:山のバス停


登山していたら、途中で道に迷ってしまい、

運良くバス停を見つけた私は

そこからバスで帰ろうとした。


登山に来たこの山は

自宅からも比較的近かったので

ちょっと油断していたのもある。


していると、

女の子がいつの間にかそのバス停に居り、

私の方へ近寄ってきた。そして、

「ねぇお姉ちゃん、一緒にバス乗ろう一緒にバス乗ろう」

となんとなく切羽詰まった顔して言ってくる。


「え??ちょ、何?」

いきなりの事だったのでちょっと泡食った。

でもバスに乗るつもりだったので

とりあえずその子と一緒にバスを待った。


そして何秒後かに、

私と女の子の後ろの茂みの方から

ガザガザ…と音が聞こえ、

黒ずくめの身なりをした男が現れた。


そしてその男は

女の子の手を思いっきり引っ張り

女の子はなんとか連れて行かれまいと

泣き叫んだ。


私は途端に怖くなり、

女の子を見捨てて逃げてしまった。

逃げる時、バスが来たのを感じた。

全部背後での事だったので

何がどう起きていたのかよくわからない。


走って居ると車が前を通ったので、

私は手を挙げて初めてのヒッチハイク。

その運転手さんは良い人で、

すぐに停まって私を乗せてくれた。


そして一言。

「ああ、あのバス停なぁ。時々見える人が居るんだよ」

と言ってわざわざ引き返して

そのバス停の前まで来ると、

「あ、あれ?」

バス停は無かった。

あるのはガードレールと向こうの茂み。


「連れて行かれなくて良かったな」

運転手さんはそう言って、

あの場所で何が起きたのか少し話してくれた。


昔、1人の女の子がそこで拉致され

男にズタズタにされた事があったと言う。


当時はまだそこにバス停があり、

おそらくその子は1人そこでバスを待って居た。

でも人通りがあまりに少なく、

事件が起きた当時は誰の目に触れることなく

すべての事が終わってしまった。


それからあのバス停は撤去されたようで、

それから少し外れた

人通りが比較的ある場所に

改めてバス停が設置されたとのこと。


「あのバスにもし乗って居たら…」

「あの場所にもう少しとどまって居たら…」


そんな事も少し考えたが、

もう戻らなくなったその子の命が

あまりに不憫に思えてならなかった。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=iHsCzXN5EWY

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山のバス停 天川裕司 @tenkawayuji

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