真実の立証

@Stiria1935

第1話 生誕

神歴、0年。

「神よ、私をどうか、お許しください」

”アルファ”と名付けられた人間は、その命を海へと投げる。

神から与えられた力を、存分に使った。

世界は戦争に塗れ、血で血を洗う、人間は死に、そして


再び生誕する。




神歴956年、大きな大陸の北側

その寒さに負けず、神が生みだした人間が必死に今日を生きていた。

「おい!何をボサっとしてる!早く来い!」

髭の深い、年老いた男が、少年を連れて教会へと向かった。


白く凍えるような外とは異なり、白い陽の光を浴びて輝く神の像が、祈りを捧げる人々を見下している。

「神よ、今日も私達を、生かしてくださりありがとうございます」

神父は神への感謝を述べ、聖書を読み上げる。

「まず、忘れてはならない!神を信ずる者として、”アルファ”とはどのような存在なのか!」

神父は怒りを込めた怒号を放つ、”アルファ”と言う存在が如何に憎たらしいか、如何に怨めしいか。

「神を裏切り!世界に不安を振りまいた!優しさを被った悪魔である!」

神父はそう叫ぶと、”アルファ”を描いた絵を暖炉の前へと持ってゆく。

「神に捧ぐ!我らは常に!神と共にあり!」

神父は、絵を暖炉の燃料に加えた。


人間は、約900年の時を経て、北方、南方、西方、東方へと別れ、独自の環境を活かした”国家”を形成した。

北方、最も神に近いとされる、神を盲信せんとする宗教国家。

南方、”アルファの眠る国”、北方と敵対しており、アルファが身投げをした海へ面する国家。

東方、右手なるもの、神を信仰する国家上層部、それに反して南方から移り住んだ人々が多く不安定な土地。

西方、砂漠が多く、独自の神を信じる国家。

世界は4つに別れたのだ。


約1000年前の話。

神は、アルファに頼み事をした。

「もし、私が眠りにつくとなったのなら、理想郷を完遂させて欲しい」

アルファは、神の手を取り誓った。

「必ずや、願いを実現させます」

アルファは自分のような人間が居れば、神の願いを叶えられるだろうと人間を増やした。


そして、10年もしないうちにアルファは世界に争いを残し海へと身投げしたのだ。



「…そしてアルファは、世界を破滅に導き…そして!…おい、聞いてんのか!小僧!」

髭面のオッサンはデカい声で叫ぶ。

「うるさいよ、オッサン…、聞いてるってば」

日曜日、1週間が終わる日には教会へ”説教”を受けなければならない。

この国では、法律により義務付けられているのだ。

「大体、ホントにアルファが悪いヤツなのか分かんないでしょ、バカみたい」

齢16にして両親を失った”俺”は、この小汚いオッサンの元へと引き取られた。

「なんだと?!神に無礼な事を言うんじゃない!」

胸倉を捕まれ、揺さぶられる。

「…ハイハイ、スミマセンでした。」

体格でも勝てやしないし、大体オッサンと言っても50代、ガタイじゃとても勝てやしない。

「ったく…、お前の両親はあんなに神へ信仰熱心だったのに…、お前と来たら悪態ばっかりだ。」

このオッサンの言う通り、俺の両親は若くして死んだ。

父と母は一過性の流行病に当たってしまい、何かをする前に…”天国”へと旅立っちまった、とな。

「だから何だっての、あ!仕事の時間…!オッサン!先行ってるからな!」

丁度仕事で用事があるのを思い出すと、オッサンの手を払ってパパっと逃げ出した。

オッサンは不服そうにため息を漏らすと、1人家へと帰って行った。


北方から南方の豊かな鉱石を狙うべく、国境を越えないようコソコソと採掘を続けている採掘場へとたどり着く。


「おい!遅ぇぞ!早くしろ!」

監督官にド叱られる、いつも通り。

「手伝ってくれないか…、これは少しタフだ…」

他のオッサンの手伝い、いつも通り…?

「…なんか、ホントに鉱石か?こんなに浅いのに…」

採掘の仕事、いつも…?


オッサンの隣へと向かってみる。

「明らかに手応えがおかしい、ヤケに柔らかいというか…崩れるというか…」


監督官達が駆け寄り、オッサンと俺は後ろに立つ。

非常事態。

「……下がれ!今すぐ!」

足場は直ぐに消え去った

わずか4m程度の、小さな人口のトンネルに繋がった。


「か、監督官!!大丈夫ですか!!」

オッサンは顔を真っ青にして監督官を探す

仕事が無くなっては冬は越せないだろう。

「げほっ…!?わ、私は大丈夫だ!」

監督官はオッサンへ手を伸ばす


オッサンは手を掴めなかった。

腰が悪いオッサンでは、地面に落ちた手を取るには厳しかった。

ビシャビチャ、ビチャと、赤い鉱石が増えていく。


「アルファの名の元に。」


「早く逃げろ!町に伝えるんだ!早く逃げろと!早く!」

オッサンは俺を突き飛ばす、言われなくったって逃げるよ、俺は。

ピッケルと剣がぶつかり合う音を置き去りにして、町へと逃げてゆく。

何気ない道が、危なっかしい。

道に落ちている石は、足を攫おうとする。

道を横切る牛は、こちらを見ている。


「逃げろ!軍を!早く呼べ!」

声を張り上げる、胸が張り裂けそうなくらいに叫ぶ。

喉が痛い、声が出ない、関係ない。

「おい!馬鹿野郎!ついにホラ吹きに転職かクソ!」

また胸ぐらを掴まれる。

オッサン、髭、見覚えがある。

震える手で服を掴む。

「信じて、お願い、アルファのヤツらが来る」

見た事もない、こんなガキが、涙を堪え、懇願する。

葛藤した、これが嘘なら打首だ。

これがホントなら、皆殺し。

「……わ、分かったよ!早く荷物をまとめてこい!」

そう言うと、オッサンはどこかへと走る。

その後ろ姿を見ると、慌てて家へと向かった。


国を統べる大司祭の耳へ入るのは、そう遠くない時だった。

アルファが採掘場を制圧し、町を占領、教会を燃やし、男を皆殺しだと。

「…アルファめ。アルファの使い共め!アルファの野郎が!遂に蘇るのか!」

煌びやかな杖を、床へ突き立てる。

祭壇のイスから立ち上がり、宣言する。

「アルファを、打ち破るのだ!」

聖戦の始まりだ。

「神の名のもとに!」



神は、望んだのか?

アルファは、裏切り者なのか?

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