ヘビ嫌いの俺が屈指のヘビ好き皇子に転生して今これ〜おまけにコイツらは神の使い?!〜

@1204Os

第1話 勘弁してくれ

 いつからだっただろう、俺がヘビ嫌いになったのは。ふとそんなことを考えて記憶を遡る。あれは5歳くらいだっただろうか、両親に連れられて動物園の爬虫類コーナーを見に行って「アレ」を見たとき衝撃が走ったのを憶えている。あんなに恐ろしいものはそれまでの人生で見たことがなかった──。

 そして今、俺はそいつらに囲まれている。奴らは学名Serpentes。そう、「ヘビ」と呼ばれている生物だ。



 ここはサペントラ帝国。どうやらこの世界は異世界というものらしい。大学受験に失敗し、高校を卒業してからバイトを掛け持ちしながら予備校に通い詰めていた俺は、ついに限界がきて倒れそのまま死んでしまったようだ。

(大学に合格することを目標に努力していたのに、そのせいで死ぬなんて本末転倒すぎるだろ…なんてバカだったんだ…。)

悔やんでも悔やみきれないが、もう死んでしまった後なのでどうしようもない。むしろせっかく異世界に転生できたのだからこちらの世界でやりたいことを存分にやろう。

 だって俺はこの国の皇子なのだから──!!金も権力も申し分なく、学びたいことがあれば国中の実力者を教師として雇うことができる。なんて恵まれた環境なのだろう。第3皇子だから少しだけ立場は低くはあるが、それでも立派な皇家の人間である。しかも今の俺は5歳だ。両親、兄達、使用人、貴族に諸外国の使節団まで、みんなにチヤホヤされる年頃だ。前世では苦労が絶えなかったぶん、こちらの世界で贅沢をしながらのんびり暮らそう。

 と、思っていたのだが……。早くも俺の前にとてつもなく高いハードルが現れた。この国はヘビを神の使いとして崇めており、国の至る所にヘビの紋章が描かれていたり像があったりあらゆる雑貨までヘビのデザインが落とし込まれているのだ。別にここまでは良かったのだが、ペットといえばヘビというほど「ペット=ヘビ」の概念があることが転生早々発覚した。庶民にそれほど親しまれているのだから、皇室がどれほどのヘビを飼っているのかおわかりいただけるだろうか?答えはだいたい1万匹だ。恐ろしいことに、神殿では5万匹ほど飼育しているらしい。きっと頭のネジが1本、いや2本、いや3本ほど外れてしまっているのではなかろうか。しかしこの体の元の皇子はもっと頭のネジが外れていたみたいで、なんとヘビがそれはそれは大好きだったらしいのだ。この国はみんなヘビ好きだが、560年ほどの帝国の歴史をみても群を抜くほどの溺愛っぷりだったらしい。少しばかり元の皇子の記憶が残っているのだがヘビと共に寝たり、何匹まで体に巻き付くことができるのか挑戦したりとヘビ関連の記憶しかない。大のヘビ嫌いの俺からしたら信じられない行為の数々である。


 「きょうのよていはなに?」

優しくて献身的な侍女、ラミアに尋ねる。

「今日は特にご予定はありませんので、ナーガ様達とお戯れになられてはいかがでしょう。」

「うge…あ、うん…そ、そうだね!!」

無理やり笑顔を作る。この国ではヘビのことを「ナーガ様」と呼んで親しんでいる。つまりヘビ達と遊ぶことを提案されているのだ。きっとめちゃくちゃ顔が引きつっているんだろう、ラミアの表情がたちまちとても心配した顔になる。

「殿下、やはりまだお休みが必要なのでは?とても顔色が悪いですよ。」

「いや全くもって問題ございませんご心配おかけして申し訳ありませんそんなことを仰らないでください。」

「……殿下…?」

いけない。つい子供が使わないような言葉を恐ろしいほどの速度で発してしまった。

「…ぜんっぜんへーき!このあいだはね、そう、ねぼけてて!!!」

この間というのは4日前の転生初日のことである。ヘビが容赦なく俺に襲いかかってくるので(ヘビにとってはいつも通り遊んでほしいと構ってきただけだったのだと思うが)、全力で泣き叫び抵抗したところ、周りの使用人達を何か重大な呪いにでもかかってしまったのではないかと物凄く心配させたあげく、即皇帝の父上と皇后の母上に報告が届いて城中大騒ぎになったのだ。

「ご気分が優れなかったり、何か変わったことがあればすぐにお申し付けくださいね。」

「うん!それじゃあヘビどm…えと…ナーガ様のところに行こうか!」

 今までこれほどまでに憂鬱なことはあっただろうかと思うほどに重い足取りで、広い中庭の中央に建てられた立派な飼育小屋…ナーガ殿に向かう。小さな体で歩きながら、一体どうすればこれほどまでに苦手なヘビを克服して楽しく人生を謳歌できるようになるのかと考える。ふとツルツルで鏡のようになっている大理石の壁に目を向けてみると、まだ見慣れない姿の俺がそこにいる。深い緑色の髪、金色の瞳、皇子の証である帝国の紋章が彫られたペンダントが胸元でキラキラと存在感を放っている。

「アトゥラディ・サペントラ」

それが今の俺の名前だ。この国の皇子として生を享けたからには、何が何でも適応して今度こそ最後まで生き抜いてやる。その決意を胸に、1万匹のヘビのもとへ足を前に出す。 


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お読みいただきありがとうございました!

初めてなので至らぬところも多々ありますが、第2話もよろしければぜひ。

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