秋月国偉人言行録

今村広樹

人生の針

 赤川時村は秋月国の法と秩序に尽くした武将というか文官であった。

 生前、子孫のための家訓を書いた彼は

「何故書いたのですか?」

 と、問われると、こう答えたという。

「書かないと自分が忘れるから」


 伊坂尹明は生涯を旅で生きた詩人であった。

 秋月国を超えて、世界を旅してきた。

「あなたにとって旅とは?」

 と、問われたかれは、こう返したという。

「それは人生と同じですね。ただ帰る日があれば、それにて旅は終わるのです」


 乙羽春乃は乙羽秋月国官房長官の夫人である。

 良妻賢母の鑑とも言われた女性であった。

「旦那さんは浮気性だったのに、よく耐えれましたね」

 と、月島首相夫人との対談で月島夫人に言われた彼女は、たおやかに笑みを浮かべて、こう返した。

「浮気性だからこそ、わたくしではとてもおさまりませんでした。浮気性な人がわたしと結婚したことで、他の人に目を向けることができなかったのが幸いです。もし離婚をしていれば、他の女性に目が向いていたでしょう」


 篠原隆は帝国との修好に尽くした外交官であった。

 ある日、謁見した皇帝が

「これを喰うてみよ」

 と、足元にお菓子を投げた。篠原は躊躇なく食べてこう言ったという。

「陛下。これは実においしい。わが国でも是非作らせましょう」


 結城いのりは在野のスケーターであった。

 その才能の煌めきから

「なぜ、プロにならないのですか?」

 と、聞かれた彼女はこう答えた。

「私はプロなんて器じゃないから」


 池田継乃新は秋月国の保守政治家。

 目立たないまま、宰相候補にまで昇り詰めた。

「政界を生き延びる秘訣はなんですか?」

 と、インタビューで聞かれたかれは、こう答えた。

「政治には理想も正解もない。だが、守るべき規範はある。これをきっちり守ることだよ」


 星野智はなんてでも出来た。歌も歌えば、演技も巧い。

 ようは天才であった。

「ほんと、智さんはすごいわねえ」

 皆からの称賛に、かれはハニカミながら言う。

「ぼくなんてまだまだだよ。もっと練習して、もっともっと上手くなりたいよ」

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