第21話 王族気質ヤンデレイケメン
「私はすこぶる元気ですね。なのでちょっとゲンナイさんの様子見てきます」
浄化することで早く元気になれるなら、それに越した事はない。一週間も寝込むのは色々キツイだろうし、ゲンナイさんの瘴気も私が浄化できるならしてあげたい。
そもそも私にもう一度浄化なんてことができるかわからないし、ナズナさんのように明確な瘴気の傷とかはゲンナイさんになかったように見えたけど、ものは試しだ。と足を一歩前に出し、部屋の戸に手を伸ばした時だったーー
ーーガシリ。と踏み出したその足を、何故かナズナさんに掴まれて、転びそうになったのを背中をそらして危機一髪なんとか耐え抜いた
「…あっ、ぶないじゃないですか!なにするんですか!」
「まだ寝てろ!ゲンナイなら心配すんな!今は薬飲んで容体は落ち着いてる」
「……なら、良かったですけど…」
「それにお前も起きたなら、キトワに診てもらった方がいい」
「あぁ、あのお医者さんでしたっけ?」
私が気絶した後に来たのだろう。未だ出会ってはいないけど…
キトワという名前はモニターにあった気がするから、きっと対象人物だ。そしておそらくその人も顔面偏差値は高いのだろう…
「呼んでくる。じっとしてろよ」
「分かりましたよ」
布団の上に正座した私とは反対に、立ち上がったナズナさんの顔はまだ少し赤みを帯びていて…
「なんでさっきから顔赤くなってるんですか?」といい加減気になって聞いてみれば「うるせぇバカ女!」と捨て台詞と共にピシャリと戸を閉められた…
なんなんだあの人…。思春期かな?
結局何故この部屋にいたのか分からなかったけど、多分私の様子を見てくれていたのだろう…。となんとなくそう思って、素直じゃないなぁ、と小さく笑みが溢れた時ー
『由羅、聞こえる?』
「ぎゃあ!」
突然頭に響いてきた声に悲鳴をあげる。
まるで水中から聞いているようなノイズまじりの声が頭に直接響いてきて気持ち悪いけど、この声は時成さんだ…
『ちょっと実験で交信してみてるんだけど、そっちの声は聞こえないから私だけ話すね』
交信って…一体どうやってそんな事…。
なんでもありだなこの人…あーだめだ。このガサガサしたノイズ音。うぇー気持ち悪い…実験するにしてもノイズ無くしてからにしてほしい。
水の中にいる私の耳元でビニール袋をガサガサされているような煩さと気持ち悪さに吐きそうになっていると、時成さんは珍しくいつもより少しだけ高そうなテンションで話しだした。
『由羅おめでとう。ナズナの共鳴度もとい好感度がアップして現在ハート2つになったよ。この調子で頑張りなさいね』
(は?)
それじゃ、という言葉を最後に時成さんの声も嫌なノイズもしなくなった。
って、え?ちょっと待ってよ
私に起こった事の説明は?どうして瘴気を浄化できたのかの説明は?
なんでそれを差し置いてハートのアップ報告を優先するの?それ後からでもよくないですか?
時成さんの相変わらずのいい加減さと説明不足加減に私の額に青筋が浮かぶのは仕方ない
イライラとしながらもふと思う…
ナズナさんのハートが増えたのって、瘴気浄化したからかな?あ。じゃあやっぱりさっき顔赤くしてたのは照れてたってこと…?
でも一体、何に照れたのかは謎だ。まぁなんにしても結果オーライだからいいか
良かった…。と布団にごろりと寝転がった瞬間に
スパーン!と部屋の戸が開き、私はスッと体を起こし座り直した。
そうでした。キトワさんとやらが来るんでした…
「やぁプリンセス!僕の名はキトワだよ!この世界の救世主であり人気者。誰もが憧れる天才ドクターであり奇跡の腕を持つ絶世の美男子キトワだ!君が由羅嬢だね!グッモーニン!調子はどうだい?」
(…うわぁ~、寝起きにこのテンションはきっつい…)
アッハッハッハ!と笑いながら現れたキラキラオーラの男の人は
青と緑のグラデーションカラーの長い髪をゆるく一つ結びにしていて、真っ白な白衣を翻し私の前に座るその所作にもどこか気品さが感じられるイケメン。
本人も認める通りというか、例の如くというか、その顔立ちはとても整っていましたが…
そのテンションと絡み方に些か評価は下がるというかなんというか…
「おや?どうしたんだいプリンセス!そんなに目を細めて!あぁそうか僕のあまりの美しさと輝きと気品溢れるこのオーラにまだ目が慣れていないんだね!安心したまえこのキトワ!君が僕の美しさに目を灼かれぬようサングラスを持参済みだよ!さぁこれをかけたまえ!」
「………はい。」
「よろしい!では診察を始めようか!おっとその前に由羅嬢!診察中僕は君に触るが気をつけてくれ!僕に惚れても応えることはできないからね!なにせ僕を求めるプリンセスはたくさんいる!だからこそ僕は誰のものにもなるまいと誓っているんだ。なので申し訳ないがその気持ちだけ受け取っておくよ?」
いや、もーなっがい。セリフがいちいち長い。そして勝手に話が進んでいるし、それもあらぬ方向にだし…
「惚れてないし惚れないので、お願いだからさっさと診察お願いします」
「つれないねプリンセス!だけどオーケー!まずは採血からだね!」
長く、煩く、鬱陶しいキトワさんの診察が、やっと終わり。げっそりとしながら私は布団に戻る
診察の結果。私の中に瘴気はなかったものの…その代わりなのか、瘴気を浄化した影響なのか…体力が著しく枯渇しているらしく、キトワさんから安静を告げられた。
研究の為といくらか私の血液をもってキトワさんは帰っていき、やっと静かになったトキノワの空気を感じながら目を閉じると
すぐに迎えにきてくれた睡魔を私はすんなりと受け入れる
なんだか色々と本当に疲れた…
感じたことのない疲労感を覚えながら
私は深い深い眠りについた
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