第16話 いつからか乙女ゲーム

「あの子たちは何も知らない。だから私はあの子たちに『時がくるまで不殺』とだけ伝えている。異形に恨みを持つ子は多いから、それを守ることも並ではないと思うのだけど、まだ誰も異形と共に消滅した子はいないね」


「そ、そんなの…今すぐ伝えて異形と戦うのやめさせた方がいいじゃないですか!」



 このままだと、サダネさん達は消えてしまうかもしれないんですよ!と訴えると、時成さんは不思議そうに、小さく首を傾げて見せた。



「私の役目は歪みを直すことだからね。サダネ達が犠牲になることは仕方ないことだったんだよ」

「そんな!」



 やっぱりこの人は人間ではない。



「由羅、落ち着いて話をちゃんと聞きなさい。私は『由羅のおかげで犠牲になるはずだった者達も救うことができるかもしれない』と言っただろう。トキノワの子達を由羅のおかげで救うことができるかもしれないんだよ」


「え?」


「由羅の中の光はそれができるほどに強いものだからね。それがあの子たちの中にある『異形の塊』と共鳴さえできれば異形の塊を打ち消すことができるかもしれない。だから君の中の光はこの世界の歪みとの共鳴を求めているのだと思う」


「そ、そうすれば異形を消してもサダネさん達は消滅しないんですか?」


「そうだね。由羅にしては理解してくれているようで良かったよ」



 なにか物言いに棘を感じるけどこの際それはいいとして、これでこの世界の歪みに対しては解決したも同然なわけで…



「で?どうやって共鳴するんですか?」



 そもそも共鳴とは?と不思議に思っていれば時成さんは「そうだね」と再び考えこんだ。



「…共鳴の説明の前に由羅の歪みについても話しておこうか」

「…!」


 ドキリとする。もしかして…共鳴を終えて用が済めば即存在を消滅させます。とか言わないだろうか…いやこの人なら言いそうだ。と私はゴクリと固唾を飲み込んで、時成さんの言葉を待った



「先にも述べた通り君の中の光は強く、多少の共鳴では壊れたりしないけど、何度も共鳴すればいずれ光は壊れるかもしれないし、光が壊れれば由羅は普通の人間、つまり歪みではなくなるかもしれない…」


「…え!?つまり私も消滅しなくてもいいってことですか?」


「うん。おそらくね。由羅という歪みが発生した外的要因…原因は光のせいだからね。もっと詳述すると、 私が光をなくしたせいだね。 」


「え・・・?」



 時成さんの言葉に思考が停止する。

 つまり…?え?なに?私が今現在、異世界でこんなことになってしまっている…そもそもの原因は…



「時成さんが大事な光をなくしたから…?」


「そうだね。どうしてそれが世界を超えて由羅の元へ届いたのかは分からないけど、君がこうなっているのはその光が君を巻き込んでしまったからだからーー」



 ーーボス!と気付けば私は自分の座っていた座布団を時成さんの顔面に投げ飛ばしていた。


 勢いよくクリーンヒットしたその奥から「うっ」と聞こえた低い声に、どうやらそれはそこそこに痛かったらしいことがわかる。



「…何をするのかな」

「我慢した方ですよ」



 逆にこれくらいで済ますのだから感謝していただきたい。とスンとしていれば、座布団のせいか鼻が少し赤くなっている時成さんは、小さく息を吐くと立ち上がった



「それで、私の中の光を壊す為にはどのくらい共鳴が必要なんですか?」

「少なくとも私が知る限りの全員と共鳴しなくてはいけないね」

「ぜ、全員?」



 驚いたものの納得する。

 まぁそうだよね。みんなの中にある異形の塊とやらも壊さなきゃなんだから。え、待って結構大変なのでは?


 『共鳴』というものが簡単にできるなら苦労はしなくていいのだけど…。と考える私の横を通り過ぎ、時成さんは「では共鳴について説明しようか」とプロジェクターとスクリーンのようなものを出してきた


 うわなんだかこの近代感…違和感すごい。相変わらずこの世界の価値観わからない…



「これが由羅が共鳴しなければならない対象人物達」



 映し出されたモニターに指示棒のようなもので差されたそこには、サダネさんやゲンナイさん、ナズナさんナス子さん…と見た顔の他にも数人ほどの顔と名前が映っていた



「この子達は全員体の中に異形の塊がある子達だからね。由羅にはこの子達全員と共鳴して塊を消してあげてほしいね。」



 「そうしないとこの子達は存在ごと消えてしまう運命から逃れられないからね。」と言った時成さんの言葉が、半分脅しに聞こえてしまう。


 なんだかとても責任重大なことを頼まれているな私…。つまりサダネさん達の命が私の手にかかっているというわけで…。

 まずい。あまりの深刻さに吐きそうになってきた……。



「ちなみに現在の共鳴度はこんな感じだね」



 ーピッと電子音と共に、操作して切り替わったモニターには、対象人物達の顔と名前の下に『ハートを形どった器』のようなものが並んでいて私は思わず目を細める。

 え、なにこれなんでハート…?



「……。」



 なんだろうこの既視感…。

 どこかで見たような…。あ、そうだ恋愛シミュレーションゲームとかでよく見る好感度メーターみたいな………



「……。…もしかして、時成さん、ふざけてますか?」


「うん?由羅にも分かりやすいように、と由羅の世界のゲームを参考にしてみたんだけど…」


「いや、色々と間違えてませんか?ゲームを参考にするならこういう恋愛ゲームじゃなくてせめて悪を倒す冒険ゲームじゃないんですか?」



 時成さんも最初例えでそんな事言ってたし、と反論すれば時成さんはキョトンと首を傾げてみせた



「でもね、由羅のやるべき事や理屈等考えるとこれが一番分かりやすいからね」

「…はぁ、もういいです。分かりました!」



 私は大きなため息をはいて、改めてモニターに視線を戻す。

 そしてゲンナイさんのハートの器だけ2つほど埋まっていることと、他の3人は一つ。まだ出会ってない人達は当たり前に0個であることを把握した。


 なんでゲンナイさんだけちょっと共鳴度高いんだろう…。

 というかそもそも共鳴度ってどうやって上げるの?



「共鳴度を上げるには対象の人物に好かれる必要があるからね」

「…なんですかそれ。まんま好感度じゃないですか、…恋愛ゲームじゃないですか!」

「だから参考にしたんだけどね」



 わかりやすいだろう?とどこか自慢げに言った時成さんに私はガクッと肩を落とした



「まぁ頑張ってね。由羅ならきっと大丈夫だと思うよ」



 無責任に言い放つ時成さんの顔面に、もう一度座布団を叩きつけたい衝動にかられる…


 私も協力するからね。と言ってくれたものの、信用なんてできないし逆に不安だ。

 そもそもこの人数全員との好感度をあげるなんてそんな自信が私にはない。



「ちなみにね、由羅から私へのハートはゼロだね」



 何故か楽しそうに笑った時成さんに私は「そうでしょうね」と頷いた。


 むしろマイナスじゃないことに驚きですよ



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